常に課題を持ちその答えを探し続ける。9年連続ミシュラン三つ星。高みを駆ける料理人の成長哲学

Quintessence(カンテサンス)
岸田 周三

岸田周三 カンテサンス Quintessence

■引き止められるのを振り払って辞めたい

「アストランス」では下働きとしてスタート。朝は誰よりも早く店に入り、与えられた仕事は始業時間には終えていた。働きぶりが認められたのだろう。2か月で正社員に登用され、2年目にはシェフに次ぐポジションのスーシェフに抜擢された。

すごいですね。ところで、外国での修業にはビザの問題もありますが、当時は就労ビザもお持ちになっていたとか。就労ビザを取るのは至難のワザとも聞きますが…

岸田氏:
当時は、ビザの取得自体は難しくはありませんでした。オーナーがしかるべき書類を揃えて弁護士を通して申請を依頼すれば、それほど難しくはなかったんです。問題は申請に多額のコストがかかること。フランス人を雇えばお金は一切かからないのに、コストをかけてまで雇う価値のある人材なのかということが問われるんです。価値を認めてもらうにはやはり信頼関係が重要ですよね。信頼を得るには時間もかかりますし、フランス人と同じ程度の仕事をしていては「雇いたい」と思ってもらえない。
オーナーの「ビザが下りない」というのはお決まりの言葉なんですけど、それは単に「そこまでして雇いたくはない」ということなんです。僕が就労ビザを取得できたのはパスカルのお陰でしたから、本当にありがたいですね。

帰国されたのは、「アストランス」のスーシェフを2年務めた後。フランスでの滞在期間は5年ですから、当初の予定より長くなりましたね。

岸田氏:
現在、「アストランス」は三つ星ですが、僕がスーシェフに就任したころは一つ星。「さらに上の星を取りたい」と士気が高まっていましたから、仲間と働くのがすごく楽しかったし、パスカルに何か恩返しをしてから辞めたいという思いもありました。

そして、スーシェフ2年目に二つ星を獲得。見事です。

岸田氏:
結果も出せましたし、すでに31歳になっていたので、「そろそろ自分の店を持ちたい」と日本での受入先をフランス滞在中に探しました。僕の理想とする店をイチから作りたいと伝え、理解してくれた会社が見つかったので、帰国を決めました。

退職を相談された時、パスカルさんの反応は?

岸田氏:
「辞めないでほしい。共同経営者として一緒に店をやらないか」と言われました。そこまでの言葉をもらえたのは本当にありがたかったです。「アストランス」に限らずどの店でも、「辞める時に引き止められるだけの仕事をしたい」「引き止められるのを振り払って辞めたい」という気持ちで働いていましたから。でも、僕は日本が好きなので、日本で店を持つことしか考えられませんでした。

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■コピーをしているうちは、認められないのも仕方ない

帰国後の2007年に、東京・白金台にレストラン「カンテサンス」をオープン。翌年には『ミシュランガイド 2008』で三つ星を獲得した。帰国当時ミシュランは日本に上陸していなかったが、「三つ星を取れるような、東京から世界に発信する店を」という思いを抱いて「カンテサンス」を作ったという。

「東京から世界に発信する店を作りたい」という意識はいつごろ生まれたのですか?

岸田氏:
世界に発信するとはどういうことなのかがわかったのは、パスカルのところで働いてからです。それまでの僕はフランス料理というのは、長年の歴史で培われたセオリーに忠実にやるべきだと思っていました。ところが、パスカルはセオリーとされる作業も「本当に必要なのか」を見直し、自分のフランス料理を作っていた。その姿勢に触れ、かねてから抱いていた疑問が解けました。

その疑問とは、日本のフランス料理は世界に認知されるだけのクオリティを持っているのに、なぜ現実にはそうではないのかということです。理由は、日本のフランス料理店の多くが現地の味を再現することに力を入れてきたから。結局のところ、それはコピーに過ぎないんですよね。世界を相手に勝負したいなら、ここでしか食べられない料理を出さなければならない。その思いは、「カンテサンス」を作るにあたって強くありました。

「カンテサンス」はオープン当初から昼も夜もおまかせコースのみ。しかも、ほとんど同じ料理は出ないというスタイルや、低温長時間ローストといった独特の肉の火入れ法が新鮮で、食通たちから注目を浴びました。

岸田氏:
目新しさを狙ったわけではありません。おまかせのみにしているのは、より高品質な料理を出すために不可欠なシステムだからです。食材にはおいしさのピークがあり、1日経っただけで味が変わります。アラカルトでは食材を完璧に管理することは難しく、注文を受けてからの短い時間では調理法にも制約が生じます。おまかせにすることで、最高の状態の食材を、そのおいしさを最も生かせる方法で調理することができるのです。

低温長時間ローストは余熱を利用しながらゆっくり火入れする技法で、どの料理にも最適というわけではなく、素材に応じて技法は変えます。ただ、なぜ日本でこの技法が使われなかったかというと、調理に時間がかかるためにアラカルトでは対応できないから。アラカルトという従来のフランス料理店では当たり前にあるシステムを壊すことで、今までできなかったことが可能になります。

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