常に課題を持ちその答えを探し続ける。9年連続ミシュラン三つ星。高みを駆ける料理人の成長哲学

Quintessence(カンテサンス)
岸田 周三

カンテサンス Quintessence

■所持金30万円。コネクションゼロで渡仏

渡仏したのは26歳の時。所持金はそれまでの貯金30万円。「これだけあれば何とかなるだろうと思っていましたが、意外と何とかならなかった(笑)」と当時を振り返る。最初に働いたのは、パリ10区にある「シェ・ミシェル」。人気のブラッスリーで活気があり、シェフはブルターニュ出身。郷土料理も多く、「さまざまな業態や特徴の店を経験したい」と考えていた岸田さんにとって、修業のスタートとして理想的な店だった。

コネクションがあったのですか?

岸田氏:
ゼロです。実際に現地に身を置いて「ここで学びたい」と思える店を探したかったので、まずはいろいろと食べ歩きをしました。「シェ・ミシェル」は料理が素直においしく、食べ終わってから「ここで働かせてください」とお願いしました。たまたま人手が足りなくて、その晩から働き始めたんですよ。運が良かったんですね。

なんと、またもや食べ歩き! ここでちょっと俗っぽいお話をうかがってもいいですか?

岸田氏:
どうぞ、どうぞ。

食べ歩きをしたいけれど、時間もお金もないという若い料理人さんは多いと思うんです。岸田さんはどのようにやりくりされていたんですか?

岸田氏:
結局、どれだけ情熱を注ぎ込むかということなんですよね。給料は少ないにせよ、全くないわけじゃない。家計簿をつけて無駄な支出を削れば、1、2カ月に一回くらいは自分が本当に行きたい店で食べるくらいできるかもしれませんよね。それから、限られた資金をどう投資するかを吟味することも大事です。いきなり高級店に行く必要はなくて、リーズナブルで人気のあるお店もたくさんある。リーズナブルなのになぜ人気なんだろうということを探るのもすごく勉強になるはずです。

僕も行きたい店に全て行けたわけではないし、貯金も切り崩すばかりでした。それでもいろいろな店を訪れて、「レストランとは何ぞや」「味とは」と自分なりに研鑽を深めることで、経験値を上げることができた。自己投資ほどリターンの大きいものはないですよ。

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「シェフにお任せ」、何も決まっていない事の可能性を表現する空白のメニューも楽しい

■フランスで働くことと、日本で働くことの違い

「星付きの店も見たい」と渡仏半年目に、パリの一つ星レストランへ。その後、二つ星レストラン、南仏の三つ星オーベルジュと渡り歩き、最終的には当時一つ星だったパリ16区の「アストランス」のシェフ、パスカル・バルボ氏に師事した。

フランスで働いてみて、日本の現場とは違いましたか?

岸田氏:
全く違いました。扱う素材も日本にはないものがたくさんありますから。ただ、日本人の方が几帳面ですし、全体的な技術のレベルは日本の方がはるかに高いと感じました。フランスでの最初の数年は正直、「本場と言っても、大したことないな」「三つ星でもこのレベルなのか」とがっかりしたところもありました。そんなおごった気持ちを打ち砕き、「もう一度勉強し直そう」と思わせてくれたのがパスカルです。20代で彼に出会っていなかったら、僕はずっと「勘違いした人」で終わっていたと思います。

「アストランス」の料理はそれほどすごいとお感じになったんですね。

岸田氏:
別格でした。小規模でカジュアルな店ですが、味はもちろん、食材のクオリティもその生かし方も、それまでいた三つ星レストランよりも数段上を行っていると思いました。

パスカルさんの料理に対する考え方は、それまで出会ったシェフにはないものでしたか?

岸田氏:
衝撃的でした。特に、料理に関して感覚を非常に大事にすることに驚きました。例えば、同じ料理を作る時に、昨日はバターを5グラム使ったとします。その時に、「今日も同じ分量にすれば、同じものをお客さまに出せるのか」を追求するのがパスカルの姿勢なんです。

料理は素材ありきで、魚にしても野菜にしても、味や香り、水分量など日によって少しずつ違います。毎日違うものに対して、同じアプローチをしていたら、クオリティは保てません。ある程度のレベルのものは作れても、最高を目指すなら、差異の調整をしてしかるべき。その調整は毎日やっている人間にしかわからないんだから、「自分で考えろ」と言われて最初は戸惑いました。僕はそれまでシェフがこうと決めたことを完璧に、正確にやることを求められる世界にいたからです。

もちろん、完璧さや正確さというのもプロとして大切なことです。でも、それよりもさらに上の世界があるということをパスカルから教わりました。日本の料理人は技術をきっちり教え込まれ、総じて優秀ですが、天才は存在しないように思います。パスカルのようにとんでもない天才にたまに出くわすのが、フランスと日本の一番の違いかもしれません。

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