自分がこれまで経験したこと、日々の活動のすべてが、お菓子という形になって現れる

PATISSERIE AU GRENIER D'OR(オ・グルニエ・ドール)
西原 金蔵

西原金蔵 PATISSERIE AU GRENIER D'OR(オ・グルニエ・ドール)

■48歳での独立。時間の許す限り、可能性を追求し、自分を開花させる。

西原氏は48歳でこのお店を始められたそうですね。絢爛なご経歴を考えると、もっと早くに独立しても良かった気もするのですが。

西原氏:
いえ、そんなことはありませんよ。

私はシャペル氏との出会いを通して、自分にはまだまだ学ばなければならないことがあると痛感しました。もっと自分の可能性にトライし、開花させたいと考えていたので、お店を出すなら50歳くらいでいいかなと、もともと考えていたのです。

ご自身の可能性を信じるが故に、独立までの時間を大切にされていたんですね。お店のコンセプトや狙いなどはありますか。

西原氏:
お店を出すときに思っていたのは、これまで経験したような、世界中のグルメの方々だけを相手にするのではなく、隣のおじちゃん、向かいのおばちゃんに喜んでもらえるようなお菓子を出せるか試してみたいな、ということでした。また、レストランなどで働いてきたこともあって、イートインを作ることは初めから決めていました。

PATISSERIE AU GRENIER D'OR(オ・グルニエ・ドール)内観

■原価計算をしないからこそ、美味しいものを気持ちよくお出しできる

お店の経営について特徴があれば教えてください。

西原氏:
実は、うちのお店の商品は厳密な原価計算はしていないです。正直に言うと、どんぶり勘定なんですよ(笑)。

私の性格上、一つ一つの価格とコストを細かく把握して、コストに見合わないお菓子があると、それを作ろうという気になれなかったり、売りたくないという気持ちになっちゃう。でも、やっぱり美味しいものを作るためには”いい素材”を使いたいじゃないですか。

ですから、利益率が分からなければそれを意識せずに済みますから、気持ちよく働けるというわけです。どんぶり勘定は、素晴らしい知恵なんですよ(笑)。経営を現実的に考えても、決算時に赤字でなければ、そういうルーズな点も許されますから。

その代わり締めるところは締めて、うちのスタッフにも自主的に節電なり節約をするようにお願いしたりしています。無駄が出ないよう、みんなで経営するような気持ちで働いてもらっています。

「PATISSERIE AU GRENIER D’OR」では価格設定も、私だけでなくスタッフみんながしています。私が自分一人でお店を切り盛りしようという感覚はまったくないです。
3年前、2番手の子に独立したいと言われたとき、「3年間、ここをあなたのお店だと思って運営しなさい」と言いましたが、それは本心から思っています。

このお店は、お店で働く方々の開店準備の場でもあるんですね。

西原氏:
そうです。例えば、私が仕入れるチョコレートと、新人の方のお店が仕入れるチョコレート。実は価格が違うんです。全く同じチョコレートですよ。なのに、違う。

それは私と、新規の方では、そのバックボーン、つまり持っているつながりや交渉力が違うからです。
何も準備をしないまま独立すると、そういう所でつまづいたりするんです。お店を創ってやっていく。これは並大抵なことではないですから。

西原金蔵 PATISSERIE AU GRENIER D'OR(オ・グルニエ・ドール)

■人生をめいっぱい楽しみながら、仕事と人に誠心誠意尽くすこと

お話を伺っていると、西原氏はとてもストイックな方という印象を受けます。

西原氏:
いえいえ、私は基本的には非常に甘い人間なんです。語学をしっかり学ばずにフランスに修業に出たりね(笑)

しかし、そんな私が今日まで素晴らしいキャリアを歩むことができた理由は、初めに申し上げたように、幼少期に愛情を受けて育ち、「誠心誠意尽くせ」という母の教育を実践できたおかげかな、と感じています。

私には、短時間感で効率的に、より稼ぐというようなビジネスの才覚はありません。ですが、人に尽くすこと。ルセットを超えるためにお菓子作りに尽くすこと。それはできたんです。

その他に、素晴らしいキャリアを築くことができた理由はありますか。

西原氏:
そうですね、夢と希望を持ってやってきたという面ももちろんありましたが、正直に言うと、ひたすら不思議な力に導かれてきたんだと思います。

大切なのは、自分の願望を100%叶えようと望まないこと。50%くらいまで叶えば、それ以降は、「どう導かれるか」なんです。選択を誤り、遠回りをすることになってもマイナスにはならないものです。

西原氏は人生を楽しんでおられる気がしますね。

西原氏:
日々、遊んでますから(笑)

思いっきり趣味を楽しんで生きています。幸せ度というものがあるとしたら、今の自分は100%ですね。自分が満足していると、いい仕事ができますよ。日々の生活、人生が豊かであれば、それは仕事にも反映されるのです。

また、人生を楽しんでいるのは、妻からの影響があります。根はネガティブな人間である私とは対照的に、妻は根っからのポジティブ。「こんなに恵まれていいのかな」なんて、よく言っています。だから私は今、そんな妻とともに人生を最大限楽しんでいます。

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■閉店ではなく卒業。オープンした日から、閉店日を決めていた

「PATISSERIE AU GRENIER D’OR」は、「来年(2018年)の5月で閉店する」と宣言されていますが、どのような意図があるのでしょうか。

西原氏:
48歳でお店をオープンする時に、65歳でお店を閉じようということを決めていたんです。
それにはジョエル・ロブション氏の影響があります。ロブション氏は「50歳で引退する」と宣言して、それを実行しています。

ロブション氏は、「常に三つ星を維持し、最先端の話題性を発信し、お店の経営をし続けるのには限度がある。能力を発揮するための集中力は長くはもたない」という考えでした。

日々、100%の自分でありたいのです。そのためには、目指すべき到達点がわかっていた方がいい。限りある時間の中で力を発揮しようと決めました。

時間の有限性を感じながら、仕事をされているんですね。閉店後の展望をお聞かせください。

西原氏:
65歳を迎える来年にお店を閉めたら、そこからは、また新たな歩みをしようかと思っています。閉店というより卒業と言った方がしっくりくるかもしれません。

やってみたいことはいろいろあります。でも、何をするかはまだわかりません。計画をしないことが今の計画です。
たんぽぽの綿毛みたいなものです。どんな風が吹くのか、どこに飛んでいくのか、花開くのかどうかもわかりません。けれど、発芽しておくための力は蓄えていますよ。

とりあえず、今の目標としては、スタッフたちを次のステージへ、「PATISSERIE AU GRENIER D’OR」より高い所に導いてあげることですね。

店を次代に引き継ごうとは思われなかったのですね。

西原氏:
そうです。このお店には私の息子や2番手の子がいるんですが、彼らに継がせようとは思っていません。彼らには彼らで、0からお店を作るというのを経験して欲しいと思っています。
その代わり、息子の挑戦に投資はするつもりです。今の自分があるのは、かつて両親が理解し、支えてくれたおかげですから。

これは蛇足ですが、Foodionのようなメディアにはぜひ、彼らのような「これから」の人にもインタビューしてほしいですね。
これからうまくいくんだろうかという不安や緊張感が全面的にでてくると思います。
私のような年代の人間だと、過ぎたこととして話をしてしまう。現役の料理人にとっては、彼らの話のほうがリアリティを感じるんじゃないかな。

PATISSERIE AU GRENIER D'OR(オ・グルニエ・ドール)

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