誰よりも働き、誰よりも学ぶ。パリ・名門レストランでシェフパティシエを務める、日本人女性の挑戦。

Taillevent(タイユヴァン)
木下 貴美子

Taillevent(タイユヴァン) 木下貴美子

■語学を学びながら、日夜修業する日々

語学学校に入るためパリに来たとのことですが、その間にお店で働いたりはしなかったのですか?

木下氏:
当時はまだパティスリーのブティックで働いたことがなかったので、語学学校でフランス語を学びながら半年間ブティックでパティスリーを作っていました。

学生ビザの関係上、半年以上同じ店では働けなかったので、次はどうしようかな、と考えていたら「レ・ソンディス・ドゥ・タイユヴァン」(Les 110 de Taillevent、以後110)のシェフの方を語学学校で紹介してもらえました。

その方が当時「ミーティング」という小さなビストロのシェフをしていたので、そこで働いていました。

就労ビザをとるのはすごく難しいと言われていたんですが、働き始めて1ヶ月くらいのときに「そういえばビザいらんの?」って言って取ってもらえました。運が良かったです。

8時から15時の休憩まで働いて、語学学校に行って、また19時から夜中までレストランに戻る生活をしていました。そのあとシェフが「110」に移って、私をシェフパティシエとして迎えてくれたので合計8年は同じ人と働いていますね。

男社会だと思うのですが、大丈夫でしたか?

木下氏:
暴力やお皿が飛んでくるようなことはありませんし、多少きつくても元からお兄ちゃんが2人の家庭で育ってるので大丈夫です(笑)

元から働くのは苦じゃないですし、この職業しかしたことないんで、朝早くから夜まで働くってことが普通だと思ってるので、体力的にも問題はありません。

フランスでは新入りはみんなで潰しにかかるとか、日本人はナメられて仕事を押し付けられるとかそういうことをよく聞きますが。

木下氏:
ボルドーで働き始めたとき、言葉がわからないけど私のせいにされているのはわかって、言葉が全然わからへんから殴りかかりました。そこではそれ以来大丈夫でした。あいつキレたらやばいと思わせるのが私流です。「うっさいわ!」って日本語で言ったりして(笑)

日本人がフランス人よりいいポストで働いて、従わない部下はいませんでしたか?

木下氏:
人種差別ってほどではないんですけど、もちろんバカにはされたし今でもされますよ。「おまえの言ってることわからへん」って言ってくる人います。でも今なら逆に私が言ってやります、「何もわからなかったけど。私にわかるようにしゃべられへんの」って。

結局は実力があれば、みんなに認められるんでしょうね。

木下氏:
いや、自分は実力があるとは思ってないですよ。私は自分のやらなあかんことをやってるだけで。あとは運が良かったんです。「ジョエル・ロブション」も「タイユヴァン」も紹介ですから。シェフから声がかかってシェフパティシエとして迎えてもらえたってのは有り難いことですね。

Taillevent(タイユヴァン) パリ

■三つ星で働きたいというより、してみたいことかどうかが大事。

1年ずついろんな店で修業を積み重ねるという働き方をする日本人が多い気がしますが、木下さんは腰を据えて長く同じ店で働いていますね。

木下氏:
パリで初めて働いた「ミーティング」はビザをとってもらった関係で2年働かなければならなかったのですが、「ロブション」は1年ですし、次の「110」は4年でしたけど、シェフだったのでちょっと働いて辞めるわけにいかないですよね。たまたまですよ。

「110」で働く間、星つきの店に戻りたいとは思っていなかったのですか?

木下氏:
歳も歳やし、自分にできるキャパシティというのがあるなと思って。与えられたところでできることをしようと。「プレ・キャトラン」(ミシュラン三つ星)からは来て欲しいと言われていたのですが、「110」のシェフからは辞めないで欲しいと言われてましたし。三つ星で働きたいというより、してみたいことかどうかが私にとっては大事で、「プレ・キャトラン」にしても休みの日に研修させてもらいに行けばいい話なので。

ビストロのシェフ、「ロブション」の部門ドゥミシェフ、「110」のブラッスリーシェフから「タイユヴァン」のシェフパティシエだなんてすごい経歴ですね。

木下氏:
自分でもびっくりです(笑)でも、結局は運が良かっただけだと思います。

「タイユヴァン」に移ったきっかけは、「110」に来ていたオーナーに、「110」のシェフが推してくれたことなんです。

「ミーティング」で働いていたときは隣のケーキ屋さんで休みの日に研修させてもらっていました。「110」のシェフになってからは、パン屋さんで研修しました。パティシエなのにクロワッサン生地をちゃんと折ったこともなかったのでヴィエノワズリー(菓子パン)を作れるようになりたくて。半年間、普段の営業前の朝5時からパン屋で研修させてもらって8時になったら自分のレストランで働くというのを週2回して、休みもどちらか1日は朝5時からパン屋さんで研修させてもらっていました。さすがに無茶したなと思いますけど。そういうことをしてきていたのをシェフやオーナーが知っていたからじゃないですかね。

他には、「ル・クルイエール」(ミシュラン二つ星レストラン)にも、週末に研修に行ったことがあります。

シェフとして店はしっかり回すけど、その合間に自分にまだできないことを習いに行く。センスが飛び抜けてるとかそういうわけではないですから、当然ですよ。

Taillevent(タイユヴァン) 内観

Taillevent(タイユヴァン)

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+33 1 44 95 15 01
アクセス
15 rue Lamennais, 75008 Paris
メトロ1番線George 5
営業時間
昼12:15-14:00
夜19:15-22:00
定休日
土曜、日曜