責任の取れない人間に自由はない。自らの名を冠した店を持つことのリアル

西麻布 き久ち
菊池 隆

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■店主が楽しく仕事をしていないと、いい店にはならない

率直に言うと、「き久ち」はお客さんを選ぶ店かもしれない。「満席時にはバタバタと走り回ることも少なくありません。そんな僕を面白がってくれて、『どんなに忙しい時も、笑顔だね』と見守ってくださるお客さんが一定数いてくださるから、うちの店は成り立っているようなもの。お客さんに本当に感謝しています」と菊池氏。周囲から「人を雇った方がラクになるんじゃない?」とアドバイスされることもあるが、当面は従業員を採用する考えはないという。

人件費がかからない分、食材を充実させたいというお考えなのでしょうか。

はい。ただ、一番大きいのは、物理的なキャパシティの問題です。小さい店ですから、従業員が多くても暑苦しい(笑)。採用するとしても、ひとりが現実的なんですよ。ところが、ひとりだと僕との間にみっちりとした主従関係ができてしまうんですね。主がひとりで従が10人ならいいんです。従が複数なら、みんなで飲みにでも行って発散できますから。でも、ひとりだとストレスを溜め込んでしまう。うちは晒しの店なので、そういう、うまくいっていない雰囲気はお客さんにすぐ伝わってしまいます。

修業時代に菊池さんご自身もそういう経験をされた?

僕の場合は上に立つ人から厳しいことを言われても、気持ちを引きずらない楽観的な性格なので何とかなりました。でも、考え込んでしまうタイプだと、つらいと思います。採用の面接で性格を見極められればいいけれど、それもなかなか難しいですよね。だから、採用するならふたり以上というのが僕の考えなのですが、そのためには店の規模を拡大しなければいけません。従業員にお給料を払うために、お客さんもたくさん入れなければということになる。果たしてそれが僕のやりたいことかというと…。

違和感がおありになるんでしょうね。

はい。僕自身がその状況で楽しく仕事ができるとは思えないんです。店主が楽しくやっていないと、つまらない店になる。絶対にそれは避けたいんです。自分の名を冠した店を持ったからには、自由に楽しくやらないと。ただ、自由にやらせてもらうからには、その結果に責任を持たなければなりません。その点、飲食業はシビアで、気に入っていただけないと、お客さんは来なくなってしまいますしね。責任の取れない人間に自由はないと肝に銘じています。

最後に、今後の目標は?

僕が楽しく続けられればいいかなと。

「楽しく」というのは?

お客さんは食事に対してワクワクしながら、うちにいらっしゃるわけですよね。そのワクワクに応えることができた、対価に見合った驚きをご提供できたと感じられる時ほど楽しいことはありません。修業時代と独立した今の大きな違いは、お客さんが足を運んでくださることの嬉しさをより一層感じるようになったこと。僕自身も店もまだまだですが、僕が奮闘する様子を見て応援してくださるお客さんや、僕の考え方を理解して何度も足を運んでくださるお客さんもいる。本当にありがたいですね。お客さんに救われていることに感謝していますし、甘えてばかりはいられないと励みにもなります。

(聞き手:齋藤 理、文:泉 彩子、写真:清水 知成)

西麻布 き久ち

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