頭で考えるだけの1時間より、何か行動した5分のほうが価値がある。

にしぶち飯店
西淵 健太郎

■ 生意気盛りの若者から、料理人へと成長したホテル時代。そして日本料理の名店へ。

料理の世界に入ったきっかけは?

西淵氏:
高校生の時に地元の中華料理屋さんでアルバイトしたのが最初ですね。特に料理に興味があったわけでもないんですが、たまたまお世話になったのが中華料理屋さんで、そのままの流れで中華の料理人になったという感じです。

鍋を振るマスターの仕事姿を見てかっこいいなと思って、料理人として働く道もあるんだなと思いました。高校を卒業してそのまま料理の世界に入ったわけですが、最初の就職先は「京都ブライトンホテル」の中華料理店「花閒(かかん)」さんです。

中華の基本を学ばれたわけですね。

西淵氏:
もちろん料理のこともたくさん勉強させていただきましたが、それよりも社会人として大切なことを多く教えていただいたと思います。当時の僕は高校を卒業してすぐの18歳で、生意気な存在でした。できもしないこともできると思い込んでいたり。いや、今でもそうかもしれませんけど(笑)。

そんな未熟者だった自分ですが、当時の上司や先輩のみなさんと一緒に働く中で、和を大切にすることや、社会人としての心構えを学びました。料理の世界に限らず、どんな仕事も同じだと思いますが、いろんな大変さがあったり、時には理不尽に感じる出来事があったりしますよね。

でも、そんなことは社会で生きていく上では起こって当たり前。そうした前提の上で、誰とどうするのか、自分はどう考えるのかが大事であることを覚えました。先輩たちに叱ってもらって、生意気な小僧から料理人へと育てていただいたと思います。

その後、日本料理の世界に転身されるわけですね。

西淵氏:
京都ブライトンホテルでは6年間お世話になったのですが、ある時、料理業界の本を見ていたら「エル・ブジ」(※1)の特集を見つけたんです。「かっこいいな」と思って見ていて、次のページをめくったら、そこには中華のから揚げが特集されていました。

その時ふと、「もっと広く注目されるような、かっこいい料理を覚えたい」なんて生意気にも思ったんですね。中華だけでなくて、もっと外の世界を見てみたい、と。そこで「和食をやろう」と思い、和食料理の世界で働くことを決めました。

※1:エル・ブジ
スペインのカタルーニャ州コスタ・ブラバのロザスにあった三つ星レストラン。「世界一、予約が取れないレストラン」と呼ばれたが、2011年7月に惜しまれつつ閉店した。

どうして日本料理だったのでしょうか?

西淵氏:
京都で生まれ育ったので、和には興味はありました。
最初は、2~3年ほど修業したいな、と思っていた程度で、それ以上は何も考えていなかった。ただ勉強したい、食材の扱い方を学びたい、魚の扱いにも詳しくなりたいって思っただけです。

■ 考えるだけの1時間より、失敗しても行動した5分のほうが価値がある。

そして佐々木 浩氏の「祇園 さゝ木」に入門されるわけですね。

西淵氏:
「祇園 さゝ木」大将のことを知っていて「この人の元で修業したい」と決めました。電話して「働かせてください」とお願いしたところ、運よく働かせていただけることになったんです。

給料がいくらかも知らなかったのですが、とにかくホテル勤務のままでは自分は何も変わらないと思って、「祇園 さゝ木」に飛び込みました。その時、24歳。まだまだ若くて、とにかく料理を上手くなりたいという一心で、余計なことは何も考えませんでした。

中華から日本料理に転身されて、大変だったのはどんなことでしょう。

西淵氏:
調理で使う道具が違うのは当然で、最初は包丁を買いに行くところからのスタート。大変に思う方もいるかも知れませんが、自分はこういう状況こそ、熱くなるタイプ。

最初は、中華からやってきたということで「お手並み拝見」みたいな視線も感じたのですが、それに反発して自己主張してもしかたないですよね。和を乱すだけです。

自分にとっては初めて職場が変わる経験でしたが、ホテル時代にいろんな人が入ってはやめていく姿を見ていましたから、新参者がどう振る舞うべきかは分かっているつもりでした。だから、時間をかけてでもチームの一員として認めてもらえるよう、職場の空気に馴染むことを心がけました。もちろん、「一番になってやろう」という気持ちはありましたけど、それを態度に表す必要はありませんよね。

修業時代を通して、つらかった経験というのは?

西淵氏:
もちろん、毎日がつらいことの連続ですよ(笑)。朝は早いし、休みは少ないし、時間は長いし。でも、そんなことは当たり前なんです。仕事がつらいのは、みんな同じでしょ。料理の世界だけが特別ではありません。

厳しさを感じる時もありましたが、それ以上に「さゝ木」の大将の下で働ける事実がうれしかったですね。大将が大きな目標をかかげて、それを形にしていくためにチームみんなが後についていく。熱い思いを持った人ばかりで、その一員でいられることがうれしくて。だから、続けられたと思います。

自分だけが幸せで楽しく働けるなんて、逆にお金を払わないといけないと思う(笑)。えらそうに言うつもりはありませんけど、しんどいからと言ってつらそうな顔をするのは、違うと思う。いつだって笑顔で仕事をしていたいですよね。

何事もポジティブに受け止めるのが、成功の秘訣ですか?

西淵氏:
いやいや、僕なんかは何も考えていないから失敗ばかりです。何もできないくせに後先を考えずに飛び込んでいって、そこで気付くんですよね。「しまった!」って。

でも、それでも何とか今までやってこれたのは、自分がどうなりたい、どんなことをしたい、という夢や目標を口に出して周りに伝えてきたから。例えば妻とか、一緒に働く仲間とかにね。

そうすると周りが助けてくれるんです。「もう、しかたないなぁ!」って感じでしょうけど(笑)。頭で考えるだけの1時間を過ごすより、失敗してもいいから行動した5分に価値がある。そう考えて行動し続けてきたことで、目標が一つひとつ叶っていったのだと思います。

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