いい食材、その先に大切なことを丁寧に

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赤井 顕治
AKAI 赤井 顕治

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目標にたどり着くために、あえて挑んだ厳しい修業

料理人を目指したきっかけは?

赤井氏:
料理人を目指すようになったきっかけは、高校時代にイタリア料理店でアルバイトをしたことです。そのお店は、ファミレスと本格店の間ぐらいのポジションでしたが、仕込みなどもしっかりしていました。その仕事ぶりを見て、素直に料理を面白いと感じました。しかし、思い起こせばそもそも料理が好きになったきっかけは、母が料理上手だったことかもしれません。食材や調味料にこだわった母の手料理に、小さい頃から味覚を鍛えられたと思っています。

高校時代のアルバイトを経て、その後は順調に料理人の道を歩まれたのですか?

赤井氏:
正直、僕の経歴は少し変わっていると思います。20歳ぐらいから、『いつかは自分のお店を広島に出したい。どうせやるのだったら、日本全国から足を運んでもらえるようなお店をつくりたい』そんな思いがありました。そこで、味の研鑽をつむために、東京や大阪、そして福岡と、自分の気になるお店に足を運んだり、そこで働かせてもらったりしました。

あるとき『今のままだったら、目標に辿り着けないんじゃないか?』って、自覚した瞬間があったんです。『殻を破るために、行動を起こしたい!あえて自分をちょっと不自由な環境に置きたい!』と、思ってフランスに行くことを決心しました。

でもその頃既に結婚をしていて、養うべき家族もいました。自分がフランスに行く資金、家族が日本で生活をできる資金。その両方をしっかり貯めなくてはいけない状況でしたから数年間はアルバイトを掛け持ちして馬車馬のように働きました。

そんな状況だったので、日本で働いている頃は、本格的な厨房で働いたのもわずかですし、フランス料理で学ぶ機会もありませんでした。

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あえてフランス料理の道に進まれたわけは?

赤井氏:
ワインバーで働くなかで、フランスワインを扱う頻度が圧倒的に高かったんです。しかも、やっぱり飲んで美味しいものが多かった。

それで自然とフランス料理を食べる機会も増え、ワインバーで提供する料理もフランス料理のメニューが多くなりました。そうしたなかで、フランス料理の火入れだったり、主食材と付け合せ、ソースのバランスが絶妙なことだったり、コース料理の構成力が素晴らしかったり、全てを興味深く、面白く、自然とフランス料理の道を進むことになりました。

フランスでの修業で心に残っていることは?

赤井氏:
パリで1年、南フランスの小さな町ヴァランスで1年、トータルで2年過ごしました。なかでも1年目に働かせていただいたパリのお店が、自分のターニングポイントです。

クラシックな料理を楽しませてくれる一つ星のレストランなのですが、働く場としては、とにかく厳しい環境。シェフがとても厳しい方でした。
特に、口うるさく教えられたのが、「食材にこだわるのは当たり前。いい食材を仕入れてから、どの状態で使うか」ということ。いい食材を、どうベストの状態で提供するのか。保存方法だったり、管理だったり、全てに徹底してこだわりがありました。

いい食材を使うのは当たり前。その先に、とても大切なことがある。そこまでちゃんと考えて、丁寧にやらなきゃいけないということを学ばせてもらいました。

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食材といえば、コース料理で頂いたイカの前菜。その絶妙な具合に驚きました。

赤井氏:
確かにあの一皿は火を入れるわけでもなく、生で提供する料理ですので、温度にすごく気を遣っている料理です。イカは切ることによって柔らかくなります。それと同時に、身の中心部まで深く切り込みを入れることで甘みを感じることができ、そこからさらにイカの体温を上げるイメージでイカをディッシュウォーマーで温める。そうすると、火入れするわけではないのに、ちょっとだけイカの体温が上がる。

それによって、口の中に入れた時に身がほどけるような食感になるのを狙っています。些細なことで食材の変化が起きる。あの一皿は、典型的な例かもしれません。

フランスの修業時代に苦労したことはありますか?

赤井氏:
パリのお店では、デザートを担当させていただきました。元々料理自体が独学なのでデザート経験が豊富なわけでもない。しかも言葉の勉強も事前にそれほどできていたわけではない。そんな中、レストランに入って1週間たたないうちにデザートのシェフが退職し、それにともなって自分にそのポジションがまわってきた訳です。

そこからの3~4ヶ月は、かなり大変でしたね。まず、デザートの経験値も少ないから思ったような仕事ができない。言われていることが理解できないから失敗も多い。コミュニケーション能力が低いから、人を使おうにも使えない。

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困難な状況をどう乗り越えられていったのですか?

赤井氏:
忙しいときはもちろん無理ですが、余裕がある時には、できる限りわからない言葉を書いてもらいました。その単語を、その日の夜に家で調べて「どういう意味か」を覚える。次の日からは、できるだけその単語を使う。とにかくそれを、毎日繰り返しました。厨房の中では、同じシチュエーションが多いので、このサイクルを繰り返していると、大体3ヶ月くらいで相手の言っていることがわかるようになりました。

更に半年経った頃には自分の思っていることも伝えられるようになりましたね。

それから、常に意識していたのは、「イエス」「ノー」を、はっきりさせることです。フランス修業時代に、たくさんの日本人とも働きましたが、理解してないのに「イエス」って言ってしまう人もいました。それがきっかけで失敗して、信頼を失うようなシーンを何度も見ました。自分は絶対に曖昧にするのをやめようと思い、理解していないことは「わからない」、理解できたら「わかる」そこの線引きは、とにかくはっきりさせました。

自分は仕事の掛け持ちで、修業までに語学の勉強ができませんでしたが、折角、行くのであれば、語学力はあって損はないと思います。もちろん、一番力になったのは「なんとか理解しようっていう気持ち」を、伝えることかもしれません。やっぱり人と人なので、語学力より以上に、コミュニケーション能力がとても大切だなっていうことは実感しましたね。

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失敗にマイナスの要素はない。そこから学んで前に進めれば

RED U-35へチャレンジしてみようと思ったきっかけは?

赤井氏:
料理はそもそも独学。日本の有名店で働いたこともなく、キャリア的にはエリート路線とはかけ離れた道を歩んできました。なので「自分が今どういう立ち位置にいるのか」「どの程度有名店の人たちと渡り合えるのか」、自分の立ち位置を確認するための挑戦でもありました。参加することによって、自分にマイナスになることがない。成長のためのツールだと思いました。

3度目の挑戦でのグランプリ。その経験で学んだことは?

赤井氏:
挑戦するごとに戦い方を学んだと思います。ちなみに1回目は書類審査で落ちたんですよ。まずは、そこで「書類はこんな風に書かなくちゃいけないんだな」という学びがありました。
2回目はそれに沿って出したら一次審査を無事に通過。二次審査での失敗が、「ああすれば」「こうすれば」の経験につながりました。3回目の時はその反省を踏まえて挑戦したので、わりとうまくいったと思います。

何でも一緒ですが、行動することと、失敗することはセットです。僕は失敗はマイナスの要素がないと思っているんです。そこから学んで改善していけば必ず前に進むことができる。REDに対しても考え方としてもほぼ同じ。落ちても失うものは何もないし、必ず成長につながる。何より、経験になりますよね。

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グランプリの際のメニューに込めた思いは?

赤井氏:
課題は「天草の塩」。塩がどうこうではなく、生産者とのトークディスカッションがあって、そこから料理を考えるというプロセスでした。これって実は、自分がいつもやっていることと同じスタイル。生産者の方に会ったり、その食材を作ってくれた人のことを知ったりして、料理という形にしていくっていうのが普通だったので、根本的な難しさはあまり感じませんでした。

グランプリをとってからの反応などはありましたか?

テレビゲームは、強い敵を倒したらレベルアップするわけですけど…。REDに勝ったからといって、自分の料理がすぐに良くなるわけじゃないし、自分の能力がグンと上がるわけじゃない。だから、注目していただけるのは嬉しいことですが、それ以上に、改めて自分のことを見つめ直して、変化していかないといけないと再認識しています。

有名店で働いてきたわけでもない自分でも、勝てる可能性はゼロじゃない。そこは、グランプリをとって見せられたような気もしています。

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出来たてを最も美味しく提供するために、こだわったカウンター8席

2019年5月にオープンしたばかりのAKAI。
広島市内から少し離れたロケーションですが、この場所をあえて選んだわけは?

赤井氏:
最初にもお話しましたが、「わざわざ足を運んでもらえるようなお店をつくりたい」そんな夢がありました。だから、広島市内の中心部での出店は、そもそも考えていませんでした。「わざわざ足を運んでもらえるようなお店」って、どんなお店だろうって考えた時に、その土地に足を運ぶ価値のあるものでないと意味がない。そこで、かなりチャレンジングではありましたが、宮島という歴史ある場所を選びました。

お店づくりのコンセプトは?

赤井氏:
古民家に限定して探していたわけじゃないんですが、この場所はほとんど人目につかないですし、普通に歩いているだけじゃ通るはずのない場所にあるんです。

だからこそ、非日常を過ごすにあたって、特別な時間を過ごしてもらえるんじゃないかと思いました。時間を忘れて過ごしていただけそうというのが、この物件を選んだ大きなポイントです。

あと、お店までのアプローチも大切にしました。ここにたどり着くまで、ちょっと急な坂道があるのですが、その横には緑が豊富。そして、坂を登りきった目の前にお店がある。このシチュエーションもすごく気に入っています。

アプローチもそうですが、お店の中も使えるものはなるべく残してつかいました。

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広い古民家ですがあえてカウンター8席。潔い空間にしたのは?

赤井氏:
自分自身にとって料理を美味しくご提供するポイントのひとつに、「出来たてである」ことは外せませんでした。出来たてをお出しするために、どういう環境がベストなのかを考えたとき、カウンター席であり、かつお客さまと自分たちのレベルがフラットである空間に自然となりました。オープンキッチンだと、料理を見せる演出的なイメージもあるかもしれませんが、それよりも、0.1秒でも速く、出来たお料理をご提供することを考えた結果です。

もちろん、今から自分が食べるものが、見えているところから目の前に来るのと、見えないところから提供されるのであれば、感じ方もちょっと違うような気もします。

空間も、お料理も、とてもシンプルな印象です

赤井氏:
無駄なものがすごく嫌いなんです。それに、シンプルであることの美しさも大切にしています。料理の盛り付けも、本当にシンプル。とうもろこしのスープだったらとうもろこしのスープだけだし、お肉だったらお肉とソースとわさびといった感じ。

最近のモダンな料理は、お野菜とかハーブとかお花とかがたくさんきれいに盛り付けられることが多いのですが、そういった傾向とは、ちょっと違ったスタイルかもしれません。

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食材は、広島のものをもの多く使っているそうですね。その魅力は?

赤井氏:
お店のコンセプトのひとつに、自分の身の回りにあるものを大切にすることを掲げています。なので、うちで使っている食材はほぼ国産オンリー。

野菜は、広島のものが主体。自分の身の回りで手に入るもので表現することによって、そこに足を運ぶ価値のあるものができるとも思っています。

広島は、海もあるし、山もある。海でいえば牡蠣が有名ですよね。でも、広島の中でも生食で食べられる牡蠣は希少。うちは、江田島というすごくきれいな環境で出来た牡蠣を仕入れています。野菜の生産者も、他にはない面白い方々も多くいらっしゃいます。

仕入れている魚は、単に魚種や鮮度とかだけでなく、どういう処理をしているのかも重要ですね。取引している鮮魚店は、神経締めなど、漁の後の処理が秀逸。気になる生産者がいたら、積極的にコンタクトをとって足を運んで会いにいっています。

これから、どんなお店づくりを行っていきたいですか?

赤井氏:
変わらないのは、わざわざ足を運んでもらえるお店であることです。でも、お店を始めて感じているのは、自分でやっているお店ではありますが、家族や生産者のみなさん、そして何よりお客さま、人によってかなり助けられていることを実感しています。お店をやっていくことで、いろんなことにいい循環を生み出せればいいなと思っています。

(聞き手・文:植村康子、写真:中西ゆき乃)

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アクセス
広島県廿日市市宮島口4-3-41
JR山陽本線宮島口駅 徒歩8分
JR山陽本線宮島口駅タクシー約3分
無料駐車場有り
営業時間
12:00~(11:45~12:00入店)
ディナー 19:00~(18:45~19:00入店)
定休日
火曜日、不定休で週2回