美しさと美味しさを兼ね備えた「完璧な料理」を提供できるレストランを目指したい

Restaurant Racine(レストラン ラシーヌ)
田中 一行

Restaurant Racine(レストラン ラシーヌ)料理

■フランスでの修業時代。尊敬する料理人たちとの出会い

フランスでの修業先はどちらでしたか。

田中氏:
フランスにはすでに12年います。ガストロノミーレストランで働いていたので、一つ星レストランから三つ星レストランまで多岐に渡ります。研修生として「ジル(Gilles)」と「フロコン・ドゥ・セル(Flocons de Sel)」で働いた後、研修した後に料理人としての労働ビザを取ってくれたのがディジョン市近郊の「ローベルジュ・ドゥ・ラ・シャルム(L’Auberge de la Charme)」でした。

その後は再び「ジル」で1年半料理人として働きました。三つ星レストラン「レジス&ジャック・マルコン(Régis et Jacques Marcon)」では3年働きました。全てのポジションを務め、最終的には、オーナーシェフの二人の下でシェフとして働いていたブノワ・ヴィダル(Benoît Vidal)の下でスーシェフを務めました。

マルコン氏のレストランでの勤務時は他の料理人よりも朝早くから出勤して仕込みをしていました。当時シェフだったブノワは現在二つ星レストラン「ラトリエ・デドモン(L’Atelier d’Edomond)」のシェフです。彼とは今も親しくしており、時折イベントなどを一緒に企画してやっています。そのあとは「レ・クレイエール(Les Crayères)」で勤務したこともあります。

外国では、ベルギーの「ヘルトン・ヤン(Hertog Jan)」ドイツの「アマドール(Amador)」でも研修をしました。ドイツでは、美しいと美味しいは比例させられるという事を知りました。

最も尊敬する料理人さんはどなたですか。

田中氏:
ルーアン市のレストラン「ジル(Gill)」のシェフのジル・トゥルナードル(Gilles Tournadre)さんですね。ジルさんは知的好奇心が旺盛で、高齢になっても尚、探究心を持っています。よく料理本を読んでいる姿が印象的でした。「これを作ってみてくれないか」と言われて彼に言われた通りに料理を作ってみたことがあります。それがそのまま翌日からレストランで出される、ということもありましたよ。

尊敬する方といえば、フランスにくる時にご協力くださったフランス料理文化センター(FFCC)の大沢晴美さんのこともとても尊敬しています。また、当時大沢さんにご紹介してくださった「アピシウス」の支配人松本全一さんをとても尊敬しています。

大沢さんはフランスへの渡航にあたり手厚くサポートしてくださり、働き先の様々なレストランをご紹介くださったのも大沢さんです。当時は若かったから、随分と無理を言ってご迷惑をかけてしまいました。今もよくしてくださっています。

Restaurant Racine(レストラン ラシーヌ)料理

■田中一行氏の料理とは

田中さんのお料理はどういうお料理なのでしょう。また、お料理を作る際に気をつけていることを教えてください。

田中氏:
お店ではメニューに載っているものの前に、アペリティフは9皿(2種類、4種類、3種類)、そのあとアミューズ2種類を出しています。その後メニュー通りの前菜からスタートします。三つ星で働いていた頃は、60名に向けてのサービスを行ってきました。そこでは常に完璧にはできないです。しかし、ここはお客様が15名しかいないので完璧に近いものを出せるようにしています。

常にお客様目線でいることに注意し、お客様を飽きさせないようにしています。コースではリズムをつけて、食感や香りや味わいで単調にならないようにしています。また、自分の料理は美しい料理で、かつ、他にはない料理であることを目指しています。同時に、食材の良さを消さないように料理したいと思っています。どうしたらお客様が評価してくれるかも常に意識しています。

私は他のレストランでできないことがしたいと思っています。美味しいのは当たり前で、完璧に仕上げるのも当たり前。その上で、何が足りないかというとリズムや食感、雰囲気で調整することだと思います。

フランス人は特にその傾向が強いように感じるのですが、お客様によっては美しいものは美味しくないと決めてかかる傾向があるようです。美しくするために美味しさを犠牲にするはずだという固定観念ですね。クラシックフレンチのビジュアルはさほど美しさにこだわるわけではありませんから。
しかし、美しくて美味しいものは存在するのです。私はドイツのシェフ、フアン・アマドール(Juan Amador)氏のお店「アマドール(Amador)」で修業したのですが、そこでは美味しいのは当然ながら完全に作られていて美しい料理を提供していました。「完璧な料理だ」と思いました。そういう料理を提供し、お客様の記憶に残るお料理を作りたいと思っています。

お客様の記憶に残るかどうかはお客様ご自身のそれまでの記憶で決まるんです。その記憶との勝負です。お客様の記憶の中の料理や想像を超える料理を作りたいですね。

例えば、口の中のリズムをつけるため、苦味は後に、酸味は先に、酸味を最初は弱く後は強くなど調整しています。

この言い方は誤解をまねくかもしれませんが、実はお客様をコントロールすることはできます。お客様を喜ばせるために、お客様の頭の中をマインドコントロールできるんです。例えば、調理方法を工夫したきゅうりを食べさせて「これはズッキーニですよ」というと90パーセントのお客様はズッキーニだと思います。

このように、お客様をメニューとサービスと雰囲気でレストランという空間の中でコントロールすると、よほどひねくれた人でない限り、ある程度自分たちの示した道を歩いてくれる、というとわかりやすいでしょうか。大体の皆様は喜んでくれています。

インスピレーションはどのように湧くのでしょうか。

田中氏:
私にとって、料理は考え込んで作るものではないです。調理場に立って、さて作ろうか、と考えて手を動かしたら出来上がっています。直感を大事にしています。食材やハーブやスパイスの味わいは過去の記憶の中に全てあります。それらを組み合わせて行くだけです。人間は考えると過去に戻ってしまうので、オリジナリティを出すために極力考えないようにしています。

何も考えずにいるとアイデアが生まれます。なぜか聞かれても特に理由はないです。デザートでは柑橘類とケッパーを合わせてみたり。オリーブオイルときゅうりとナスのデザートを作ったこともあります。

人のために働いていた時と違い、今は何が起きても結果や責任は自分に返ってきます。自分の店だから自由にできてクリエーションがしやすいです。

料理にはありとあらゆる栄養素を入れるようにはしています。それが自然だからやっているだけですが。食材の要素を数え上げればコース内には400以上入っていると思います。

リフレッシュ方法はランニングです。営業後の深夜1時から2時くらいに誰もいないランスの街並みを眺めながら1時間ほど走ります。それが良いリフレッシュになっているようです。その時にふわっとアイデアがわくこともありますが、そのアイデアには格別こだわりません。アイデアが浮かばないと嘆くスランプのようなものは無いです。

Restaurant Racine(レストラン ラシーヌ)内観

Restaurant Racine(レストラン ラシーヌ)

お問い合わせ
0033 326 35 16 95
アクセス
6, place Godinot 51100 Reims
ランス駅から徒歩17分、タクシーで9分
営業時間
木曜日から月曜日
ランチ : 12時15分から13時30分(最終入店)
ディナー : 19時15分から21時00分(最終入店)
定休日
火曜日・水曜日