鉄人からの学びを、自分の言葉で伝えていく

szechwan restaurant 陳(スーツァン・レストラン・チン)
井上 和豊
szechwan restaurant 陳(スーツァン・レストラン・チン)井上 和豊

szechwan restaurant 陳 井上 和豊

■原点は家族、身近で魅力ある中国料理の道へ

料理の世界を目指されたきっかけは何だったのですか?

井上氏:
小学生の頃から手伝いで家族の料理を作っていて、それが褒められたのが最初のきっかけです。
僕の実家は酪農農家で、いわゆる乳牛を育てています。父も母も乳搾りや飼料の管理で忙しく、食事を作る時間帯も牛の世話をしていました。ですので我が家では、祖母が食事作りを担当していました。そういった環境の中で、孫の僕は小さいながら祖母の手伝いで台所に立っていたんです。

手伝って作った料理に対して、祖母が「今日は和豊が作ったんだよ」と言ってくれると、両親も「美味しい美味しい」と喜んでくれるんです。そうして自分の料理を褒めてもらえたのが、心の中に残っていたんだと思います。

ただ僕は長男なので、実家を継がなきゃいけないのかなと、ぼんやり子供ながらに考えていました。

幼い頃からご実家の跡継ぎにならなくては、という意識があったのですね。

井上氏:
長男だからならなくてはいけないと僕が勝手に思っていたんです。親としては、やはり生き物を飼うというのは休みがないので、継がせず自分たちで終わらせようとしていたようです。親は僕には役所勤めでもしてほしいと思っていたのではないでしょうか。

それがなぜ、料理人の方向に進むことになったのですか?

井上氏:
実は、僕の父親は酪農の傍ら花火師の仕事もしていました。それで僕も高校3年生の夏休みに、花火師のバイトをすることになりました。僕の仕事は職人さんが作ってくれた球を筒に入れて、花火大会で打ち上げる順番にセットすることでしたが、一度だけ花火を打ち上げる現場に連れて行ってもらいました。
花火は河川敷の、お客さんが居る対岸で上げるんですけど、歓声と拍手が聞こえたときにわっと鳥肌が立ったんですよ。「すげー!なんだこの感動は!」と、感動しました。思わず花火師になりたいと思いました。

しかし花火師は季節仕事なので、お客さんを感動させるこの感覚をもっと普段から味わえる仕事は何かと考えたときに、それが料理人だと思ったんです。

ちょうどその頃「料理の鉄人」を見て恰好良いなと影響を受けていたこともあり、料理人の道に進みたいと思いました。

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その頃に料理人を目指すことを決めたのですね。

井上氏:
そうなのですが、つい最近知ったことがありまして。僕は小学校のときの文集に「料理人になりたい」って書いていたそうなんです。僕自身は記憶がないのですが、つい先日、僕が通っていた小学校の先生がお店に来て教えてくれたのです。「努力してその夢を叶えてすごいですね」とメッセージをもらい、感動しました。

料理人を目指すということにご両親の反応はいかがでしたでしょうか。

井上氏:
反対されました。母親には、僕の夢ややりたいことを語っていましたが、父親とは普段あまり話すこともなかったので、父にとっては僕が「料理の専門学校に行きたい」と言ったのが突然に聞こえたんだと思います。お金もかかるので、料理人を目指すことに対しケンカもしましたが、最後は渋々納得してくれました。

中国料理に進もうというのは、学生時代に決められたんですか?

井上氏:
そうです。専門学校に入る前はあまり中華でやっていこう、という意識はありませんでした。しかし学校に入って全ジャンルをやってみると、中国料理が一番馴染みがある料理だということに気付いたんです。炒飯にしても鶏の唐揚げにしても、食卓でよく食べていた料理だと。

身近ですし作っていて楽しかったのです。実際に研修でも日本料理やフレンチだと堅苦しい感じがしたんですが、中国料理だと楽しく調理できていたんです。
「食事を楽しむ」ということを考えると、中国料理って良いなと思いました。

みんなで「食事を楽しむ」というのは、円卓を囲むイメージがあります。

井上氏:
家族で食事をしていた延長戦のような感じでしたね。我が家は朝昼晩、全員が揃わないと食べないという家族だったので。家族で食卓を囲むイメージを一番再現できる中国料理の道に進もうと思いました。

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■辞めるのを踏みとどまって掴んだチャンス

四川飯店に入られたのはなぜですか?

井上氏:
先輩が働いていたので知っていましたが 、偶然求人が出て自分の進路としていいなと思いました。ただ、先生に反対されたんです。当時僕は学校をサボりがちだったこともあり、「お前では通用しない」と言われました。四川飯店は厳しくて有名なので、入ってすぐに辞めてしまえば学校の名前にも傷がつきますしね。
僕は先生に「無理」と決めつけられたのが悔しかったので、何としても研修に行きたいとお願いして、行かせてもらいました。

実際研修に行ってみて、いかがでしたか?

井上氏:
本当に厳しかったです(苦笑)。お店もすごく忙しい時期でしたし大変でした。
ただ活気があって、鍋のカンカンカンという音や包丁で刻む音が心地良く、何より働いている人たちがすごく楽しそうだったんです。
先輩たちの料理に対する情熱はすごかったし、厳しいながらも愛情を感じていたので、ここで働きたいと思いました。

また、四川飯店の修業はステップアップ型だったんです。入って何年かすれば独立できるような教え方をしてくれるんです。そこに惹かれたというものありました。

独立したいという気持ちがあったのですか?

井上氏:
当時はありましたね。今もないわけではないのですが、今この「ホテル」という大きい規模のレストランで料理長をするという経験は、個人ではなかなか実現できないことだと思います。今は体力もありますし全力でここでしかできないことをやりたいなと思うんです。
独立はもう少し歳をとって、ゆっくりやりたいなと感じたときに考えれば良いかなと。

ここでしかできないことは、例えばどんなことですか?

井上氏:
結婚式のような大きな宴会料理もそうですし、フカヒレとか干し鮑のような高級食材を使った料理もそうです。小さい中国料理屋さんだと、そうした高級食材を扱う機会は少なくなると思います。
ここならオーダー数も多いですから、今は誰よりもフカヒレ料理を作っている自信があります。

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