全神経を注いだ先に、オンリーワンのブランドが生まれる

ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド
檜山 和司

ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド 檜山和司

■錚々たるメンバーが名を連ねる中、日本メートル・ドテルコンクールで優勝

檜山さんご自身も、一番脂が乗っていた時期ですね。しかしその後、阪神大震災でロワゾー氏の店はホテルから撤退。その時に、檜山さんも転身を?

檜山氏:
多くのスタッフは神戸から離れ、東京や長崎、北海道などで次の道を探し始めました。しかし私は、「これまで大きな恩恵を受けたのだから、震災の被害で大変な時こそ神戸にいるべきだ」と考え、ホテルに残ることにしました。

そうして震災が起きた翌年、「少しでも明るい話題を」という気持ちで参加したのが、第1回日本メートル・ドテルのコンクールでした。名だたるレストランのメートル・ドテルが名を連ねたコンクールでしたが、なんと大方の予想に反し、私が優勝してしまったのです。審査員の多くは東京の関係者でしたが、審査員長と副審査員長がフランス人で、その2名が私に高得点をつけてくれたのが大きかったようです。

コンクールの内容というのは?

檜山氏:
5人が決勝に進出し、2テーブルのカップルを担当。最初の1組が来てお席にご案内し、食前酒をお作りし終えたところで、2組目のお客さまが来られる…といった形でレストランの営業中のパフォーマンスを再現します。シャンパンの抜栓をしたり、スモークサーモンを目の前で薄くそいで盛りつけたり。鯛や鴨の丸ごとローストを切り分けたり、前もって用意していたチーズもあって、「なぜこのようにプラッターに盛りつけたのですか?」なんて聞かれるわけです。

そうして最後のデザートがパイナップル。テーマは自由。私はフォークを刺してまるごと持ち上げ、螺旋状に皮をむきスライスして芯を抜き、ラム酒とブランデーを使った温かいデザートを作りました。それが審査員から絶賛を受け、「おかわり」なんて言われるほどでした。それ以来、フランス人達からは“ミスターパイナップル”なんて名前で呼ばれるようにもなりました(笑)。

調理法や盛りつけなど、個々のアイデアを生かしたおもてなしをするのですね。

檜山氏:
ベースとなるテクニックはあるんですが、そこに自分なりのセオリーを込めています。
私がコンクールで優勝できた勝因の一つは、コンクールとか審査員とか、そういうことを忘れて、「目の前のお客さまをいかに喜ばせるか」に集中できたからだと思います。
全く緊張もしませんでしたし、いつも通りのサービスができました。最初にワゴンを手にかけた時、指がピクリとも動いていなかったのが自分でも分かって、そこからは平常心。むしろこちらも楽しませてもらった感じでしたね。

サービスマンからスタートして、今のポジションに至るというは最高のキャリアだと思いますが、どのようにするとそんな道が拓けるのでしょう?

檜山氏:
答えはシンプルで、“いかに目の前のお客さまを喜ばせるか”を考えることです。
楽しんでもらうには、色んな知識を吸収して、引き出しを増やす必要があります。テクニックも身につけないといけません。
私がフランスに行ったのも、おもてなしの引き出しを増やす手立ての一つです。本を読むことも、セミナーやコンクールに参加するのもそう。必ず自分から動く。待っていてもダメです。
そうすると、給与や待遇というのは後からついてくるんですよ。

非常に興味深いです。サービスが及ぼす影響の大きさが分かるエピソードですね。

ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド 檜山和司

■惜しみなく秘技を伝授し、レストランサービスのレベルアップに貢献

セミナーなどで知識を広げられたという檜山さんご自身も、今は自ら講習会を開いて後進の指導をされています。

檜山氏:
私も先輩から色んなものを教えていただいたので、その恩返しの気持ちもあり、銀座のマキシム・ド・パリの総支配人と一緒に、全日本メートル・ドテル連盟を立ち上げました。
講習会では、教養や理論などの座学はもちろんですが、実習形式で学ぶスタイルにこだわり指導しています。例えば鯛のローストなども、まずは私が取り分けをやって見せて、そのあと参加者全員に自分でもさばいて、食べてもらう。すると身が崩れていたり、骨だらけだったり。じゃあそうならないためにはどうするか?なんて裏技も惜しみなく教えるんです。

ある方には、「なぜライバルにそんな秘技やノウハウを教えるの?」と驚かれたのですが、これは業界全体にとって良いことと私は捉えています。お客さまを喜ばせる上で、私一人でできることは知れていますからね。

ノウハウが広まることで、全体のレベルが上がっていくわけですね。それが連盟を立ち上げた狙いでもあったのでしょうか。

檜山氏:
おっしゃる通りです。講習会を80回近く実施しているので、延べ2300名以上のプロフェッショナル達を指導してきたことになります。ここで学び、コンクールで優勝した方もたくさんいます。

そうして「神戸ベイシェラトンホテル」を経て、「ラ・スイート神戸」の総支配人に?

檜山氏:
実は、2005年にホテルを辞めた後、フリーランスで2年ほど教育コンサルティングの仕事をしていたのです。北海道から沖縄まで色んなホテルへ赴き、私なりの切口でサービスの講習や研修をしていました。稼ぎもよく、全国各地でおいしいものを食べて、それは楽しい仕事でしたね。

檜山さんにしかできない、オンリーワンの仕事ですね。

檜山氏:
その時、ちょうど開業前の「ラ・スイート神戸」で新入社員教育を担当することになりまして。研修内容はノウハウですから、ビデオ撮影は本来御法度なのでしょうが、私は「どうぞどうぞ」と快諾。それを見て頂いていたオーナーが、「この人だ」となり、総支配人にならないかと私を誘ってくださったのです。

マネジメントができる人はいくらでもいるけど、自ら先頭に立っておもてなしの指導までできる方がなかなかおらず、ずっとふさわしい人を探していたとのことでした。でも私は教育コンサルティングの仕事がとても気に入っていたので、誘われる度にやんわりとお断りしていました。
しかし3回目、「これは、神戸の復興事業の一つなのです。地域のために、一肌脱いでくれませんか」と。その言葉でオファーをお引き受けしました。

ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド 外観

総支配人の仕事とは?

檜山氏:
総支配人、つまりメートル・ドテルなんですが、この「ドテル」は、「大きな館」という意味です。大きな館の、メートル=マイスター。要するに、オーナーの代わりにすべてを取り仕切る、おもてなしの最高責任者というわけです。
他の総支配人の方がどのようなスタイルで仕事をされているのかは分からないのですが、私はデスクワークしている時間を極力削り、出来る限り現場でお客様を接遇するように心掛けています。

組織が大きくなると意思の統一が難しくなりますが、意識されていることは?

檜山氏:
なるべくフラットな体制を心がけています。私が統制しよう、なんてことは思っていません。誰かが指示しないと動かない人間を作るのではなく、自らが動ける組織を作るようにしています。勉強でもそうですが、「そういうことだったんだ」というちょっとした気付きがあると何でも楽しくなるものです。
意識が変わると、考え方が変わり、行動パターンが変わって、習慣が変わってくる。成功したり、気付いたりする「楽しみ」を教え意識変容を促すことが大事だと思います。

縦割りの組織は各所の承認を得てから動くので、時間のロスも多いし、発言や提案がし辛くなります。別のセクションのスタッフがいきなり口出しすれば、「何をしにきたんだ」となりますし…その点、当ホテルでは日頃からクロストレーニングをして、お互いのセクションの仕事を理解し、一人3役ぐらいを兼ねられるようにしています。

クロストレーニングとは具体的に?

檜山氏:
例えば、フロントスタッフが、繁忙時のレストランサービスのティーラウンジにグリーティングの手伝いに行くとか。ルームサービスの人間がチェックアウトやチェックインで忙しい時にベルキャップやドアマン業務にあたるとかです。そうすると、お互いの仕事の意味や大変さが理解できるので、いろいろスムーズに回ります。どんなサポートが欲しいのかもよく分かります。

ハウスキーピングは、入社時点で全員ができるようにしています。お客さま目線が身につきますし、客室のレイアウトも頭に入れることができる。するとフロントに立った時に、「このお客さまはネット予約でこの部屋をお取りになっているけれど、今日はこのロケーションの部屋をオススメした方が良いかも」と、一歩上の提案ができるようになるんです。

セクションごとにきっちり縦割りするのではなく、全員がコンシェルジュという心構えを大事にしたいですね。フロント以外のスタッフが、「何かスイーツのおいしいお店知りませんか?」と聞かれた時も、「知りません」ではなく誰もが何かしらオススメができるとかね。

ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド 表彰状を持つ檜山和司氏

■メートル・ドテルという職の魅力を定着させる、道筋を作りたい。

開業の1年半前から総支配人のポジションを任され、10年以上ホテルの歩みを支えてこられたわけですね。思い入れがあるエピソードなどはありますか。

檜山氏:
開業にあたって、オーナーとは、「このホテルを日本一にするぞ」と誓い合いました。規模や総売上高ではなく、クオリティでの日本一をという意気込みです。その結果、これまで色んな“初”の称号や1位を手にすることができたのは感慨深いです。

例えば、世界的ホテルブランド「スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド(SHL)」に日本で初めて加盟を許されたのが、「ラ・スイート神戸」なんです。
他にも、楽天トラベルが主催する、全国の宿泊施設が日本一の朝ごはんを競う「朝ご飯フェスティバル(R)」2015年度は優勝を獲得。高級ホテル・旅館予約サイトの「一休.com」のシティホテル部門では、2016年・2017年と口コミナンバーワンをいただきました。

すばらしいですね!神戸マイスターの認定も、「メートル・ドテル」としては初めて。「現代の名工」も西日本初ということですよね。

檜山氏:
お客さまに向き合って、地道に努力を重ねてきたことが結果としてついてきたと思っています。とはいえ、メートル・ドテルの認知にはまだまだ課題があります。ソムリエはずいぶん浸透してきましたが、メートル・ドテルは、まだ日本国内では、「飲食物給仕人」なんて名称で呼ばれていますから。これでは一般には広がりにくいでしょう。

メートル・ドテルというのは、社会的地位もあり、十分な収入もあって、子どもに自慢できるような、お客さまに愛されるすばらしい仕事。プライベートでは会えないような方とも肩書きを抜きに楽しく会話できる、そんな醍醐味もあります。
そういう感覚を、もっと定着させていきたいですね。そのための道を作るのがこれからの私の役目だと思っています。

若いサービススタッフの方や、これからこの世界を目指す方にメッセージを。

檜山氏:
ミシュランの三つ星レストランというのは、その店に行くために旅行しても良いと思えるような価値のあるお店と定義されています。これと同じで、檜山という人間に会うために、わざわざ遠くから「ラ・スイート神戸」に足を運んでくれる。そんなお客さまを増やすのが、サービス職の使命であり喜びです。
ここで大事なのは、ホテルそのものがブランドなのではなく、そこで働くスタッフ自身が、ブランドになっていく、ということです。だからこそ、スタッフの皆が自分だけにしかできないサービスを磨き上げ、オンリーワンのブランドを作っていく必要がある、と私は考えています。

サービスの仕事は、人の人生の思い出となるワンシーンに関わることができ、食を通して人を幸せにできお客様に愛され感謝されるすばらしい仕事です。熱いパッションと、豊かなホスピタリティ、チャレンジ精神旺盛な方は、必ずサービスの道で大成できると思いますので、ぜひがんばって欲しいですね。

(聞き手:市原 孝志、文:田中 智子、写真:松井 泰憲)

ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド 内観 廊下

ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド 内観

ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド 内観

 

ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド エントランス

ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド

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