なぜ料理をするか。自分に向き合い、答えを出したことで生まれた理念

abri(アブリ)
沖山克昭

ミシュラン一つ星獲得と現在の料理業界

まずは、ミシュラン一つ星獲得おめでとうございます。プレッシャーを感じることはありますか。

沖山氏:
全然ありません。来年は星が無くなるかもしれないですしね。
うちの場合は、ミシュランがつけてくれたというより、周りの人たちがつけてくれたと思っています。
ジャーナリスト達が、「どうして他の店に星がついているのにアブリに星が無いんだ」とここ数年ずっと書いてくれていた。そういう人たちの期待に応えることができて、良かったです。

シェフたちに祝福されたのが、一番嬉しかったです。仕事をきちんとしているまっとうなフランス人シェフ達、自分がこれまで励みにしてきたシェフ達からの祝福は、涙が出そうなくらい嬉しかったです。

星獲得後、何か変わったことはありますか。

沖山氏:
まず、いろんな業者の対応が変わりました。業者からシャンパーニュがどんどん送られてくるし、水の価格も安くなった。ご予約の電話も、これまで一日100件だったのが、200件に増加。ただ、店としてはこれまでと何も変わらないし、変えるつもりもありません。テーブルクロスを敷くつもりもないですね。

料理人になられたきっかけやシェフの日本での修業時代についてお教えください。

沖山氏:

高校時代の先生からのアドバイスがきっかけです。
野球をしていましたが、怪我して野球ができなくなり、大学の推薦も断ってどうしようかと思っていたところに、大好きだった担任の先生が「フランス料理をやってみるといんじゃないか」と助言してくれました。それで料理人の進路に進むことになりました。

料理なんて好きじゃなかったし、料理の話もしたことはなかった。ですので、理由はわからないです。(笑)

実は今も、料理が好きだからとか、楽しいから、という理由でしているわけではなく、やめたら終わりだからと思って続けてます。

もし違う才能が自分の中に見つかったら、料理人をやめるかもしれません。

そうは言いつつ、お客様が喜んでくれた時はもちろん嬉しい気持ちになります。

ですから「自分が作りたい美味しいもの」ではなく、「お客さんが美味しいだろうなと思うもの」を考えて作っている。それを探し出すことが大変です。自分自身が食べることがそこまで好きなわけではないので、本当に大変で、ひたすら考えて作っています。

料理人さんの中では、異色かもしれませんね。高校卒業後はどのようにキャリアをスタートしたのですか?

沖山氏:
服部学園で料理を学びました。その後、今はもう移転してなくなってしまいましたが、当時人気の、成城学園前の「オーベルジュ・スズキ」というレストランで、19歳から2年半働きました。

学校に「東京で3本の指に入る厳しい店に入りたい」と希望して、このお店を紹介してもらいました。

22時間くらい働いていたかもしれません。店に一番近い友達の家で仮眠させてもらい働きました。忙しかったですが、それがあるから今があると思います。

そのあと当時「タイユバン・ロブション(現在はシャトーレストラン ジョエル・ロブション)」でオープニングシェフを務めていた河野シェフが独立して開いた恵比寿の「モナリザ」で2年弱働きました。そのあと自然派のユニークなアイデアを持つ森重シェフの奥沢の一軒家レストラン「ラ・ビュット・ボワゼ」とその支店で合わせて2年弱くらい働きました。

今思うと、3店舗それぞれ全然違うスタイルのあるシェフの所で働いたのが良かったです。1店舗目は、例えるならば昔のピエール・ガニェールのような感じで、独自のアイデアで料理を作る方、そのあと2店舗目は、ジョエル・ロブションの影響を受けたきっちりした料理を作るシェフ、3店舗目はマーク・ヴェラで修業したシェフで、水を汲んできたりキノコ狩りをしたりの自然派でした。

そのあと、福島でそばの修業をし、テレビのドキュメンタリー番組でそば打ちの大会に出て優勝しました。100万円の賞金を頂きました。

そば屋はいつかやりたいと思っていて、パリでオープンさせました。

フランスでの修業はいかがでしたか?

沖山氏:
それはもう、振り返ったら大変なことはたくさんあります。日々大変でした。

でも、大変だな、いやだなと思いながらやる10年と、大変だから力になっていると思ってやっている10年とは全く違いますから。後者の方が確実に伸びる。やったら伸びるというプラス思考で常にやってきました。

修業中は、現実にシェフやオーナーに登りつめている人だけを見て、どうしたらシェフになって人の上に立って仕事ができるのかということだけを考えながら常に努力しました。

夢は夢をかなえない。現実しか夢をかなえられないです。

よく日本人の料理人は「フランス人は働かない。」と言うけれど、修業時代に「できるフランス人」を何十人と見てきました。意識的に、そういう人を見てきましたね。

「できるフランス人」は、どういう風に仕事をするのですか。

沖山氏:
エクサンプロヴァンスのある店で働いていた時に、同僚にすごい料理人がいました。その人は「100パーセント本気で働け」と言っており、ある日どこかの王国の王様に気に入られて、王国の料理人になりました。

今何をしているのかもわからないですが、人生で出会った中で、最もすごいフランス人料理人です。見たことのないような動きをし、お店に入った瞬間に全部本気。

chef de partie(シェフドパルティ : 魚や肉や野菜など一部について責任を持って担当するシェフ)だけど、みんなに尊敬されていました。本気すぎて、みんながついていけないくらい仕事が速い。その100席の二つ星レストランでは肉の担当が大変で、担当になった料理人はすぐクビになるか辞めてしまいました。朝5時に出勤しても、間に合うかわからないくらいの仕事量なのに、彼は朝9時にきても間に合ってしまうのです。常に本気で仕事をする、本当にすごい料理人でした。

現在の料理業界をどのように見ていらっしゃいますか。

沖山氏:
僕たちの世代は、恰好つけたくて料理人になるやつはいなかったのに、最近はビジュアルに走り過ぎている。だから芯がなくて、小手先のテクニックに走りすぎている気がする。

美味しいものを食べたいというより、金を払いたい、ちょっと小綺麗な恰好をしたい人達のためのイベントをやっても、料理人として何も広がらない。何も意味がない。

フランス人なら誰でも食べる当たり前の食材を使いながら驚きを届ける

沖山さんのお料理はどういうお料理なのでしょう。また、お料理を作る際に気をつけていることを教えてください。

沖山氏:
時間、手間、人、金を無駄にかけたガストロノミーがそんなに好きじゃないから、複雑で高度な技術は使わずに、派手な見た目にもこだわらないシンプルで美味しいビストロ料理を心がけてます。

季節毎にフランス人なら誰でも食べる当たり前の食材を使いながら、お客さんに「こうやって食べると美味しいんだなあ。」という新鮮な驚きを与えることができたらいいなと思いながら、日々試行錯誤してます。

食べるという行為には、食べ手の記憶が大きく影響しています。お客様は過去の記憶と照らし合わせ、自分が知っている食材が記憶より美味しかったら、感動を与えることができると思っています。

結局美味しい美味しくないというのは、食べる人のこれまでの記憶との比較。お客様が日々親しんでいるありふれた食材を使った料理に驚きを感じてくれれば、また来たいと思ってもらえる。

気を付けているのは、見た目じゃなくて、食べる人が口に入れた時のことをイメージして作ること。そして、出す料理を自分の味に寄せないこと。

料理している時に味見すると、自分の味に寄ってしまうので味見は一切しない。

オープン以来一度も自分の料理を味見したことがない。いろんな味が欲しい。いろんな味を用意しておきたい。そして、いろんなお客さんの反応をみたい。

その意味で日本人シェフのお店は食べに行っても、味の幅が狭くて自分としては勉強になりません。

僕の料理は僕の主張が一切なくて、ただただ料理を美味しいと思って欲しいという思いで作っています。

うちの店は、コースメニューしか無いようにみえるけど、出るものがテーブルによって違うんです。

常に前菜だけで20品以上作れる状態にして、お客様の顔とか雰囲気を見て出すものを決めています。だから営業中はどんなに忙しくてもお客さんを見るようにしているし、スタッフにもその点は徹底させている。一皿出すごとにお客さんの反応を見て、次の皿をどうするかということを毎日毎日繰り返していけば、料理の幅が自然と広がっていきます。

予約が取りにくいレストランとしても知られていますね。お店には、どういったお客様がお越しになるのでしょうか。

沖山氏:
地元の人たち、パリの人たち、フランス人たちに喜んで食べてもらいたいとずっと思って営業してきて、本当にいいお客様ばかりにご来店頂いています。もちろんお客様が店を選ぶのですが、店も客を選ぶ。店を始めてから、ちゃんと客にぶつかってきたから自然といいお客様が残ったんじゃないと思ってます。

ただ単にシェフが日本人の店だからという理由で、日本人客で埋まってしまうといったパリではありがちな状況にはしたくなかったですね。

経営者としての展望

フランスでお店を持つことは、フランスに渡航した最初の頃から視野にあったのですか。

沖山氏:
雇われるのに向いてないから、いつか独立したいと思っていました。開業して、1年やってみてだめだったらやめようと思っていました。

独立したい料理人は多いけど、独立が全てじゃない。大所帯向きの人はいるからそういう場所で給料もらって料理するというには、それはそれで一つの人生だと思います。

まずは自分がどうしたいのか、自分に向き合うこと。若手かどうかに関わらず、何のために料理をやっているか自分の中で答えを出す必要があります。何のためにやっているかわからないとテクニックやレシピに走ってしまう。

店のジャンルとしては、僕は元々ガストロノミーをやりたくてフランスに来たのですが、今経営しているお店はビストロです。独立までの13年間、ビストロからガストロノミーまであらゆるジャンルの30軒弱の店で修業してきて、ガストロノミーレストランの料理はビストロでも出せるということに気が付いたんです。

むしろ、時間、手間、人、金を贅沢にかけたガストロノミーレストランよりも、ビストロの方が少人数で安価に美味しいものを出している印象が強かったので、次第に独立したらビストロをやろうと思うようになっていたんです。

それにガストロノミーレストランに限った話ではないけれど、フランスのレストランではお客様と料理人が顔を合わせたり、会話することはほとんどなくて、どんなお客様が食べるのかわからない料理を毎日毎日作らなければならないことがストレスでした。

出した料理を喜んでいるのかどうかもわからないし、残してもわからないことがずっと疑問だったので、自分の店ではオープンキッチンにして顔を見ながら料理をしたいと自然に考えるようになりました。

スタッフの方々にいつも仰っていることは何でしょう。

沖山氏:
料理は見た目じゃなくて人間性があらわれるものだ、ってことです。人間性がお皿に反映されるので、小手先で料理すると小手先の料理になってしまう。

料理はまず美味しくて当然。そこが大事。ビジュアルやかっこよさ重視に走りすぎると変わったものを見たい人が食べに行くかもしれないけど、お腹すいたからあの店に行こうとはなりません。

最終的に残るのは「カンテサンス」のようなお店。余計な事をしてないし、真面目だし。

料理はみんなが思ってるほどガストロノミックじゃなく、美味しいビストロ料理なんだけど、外さないものをきちんとまじめにつくってるという姿勢が伝わります。

きれいな空間で飾らないビストロ料理。それがいい。

若い料理人さんまたはこれからレストラン経営を目指す方々へのメッセージをお願いします。

沖山氏:
若いとか料理人に限った話じゃないと思うけど、とにかく労働時間なんて気にせずに働かなきゃだめ。時間なんて気にしてやらない方がいい。何か価値あるものを創り出そうと思えば、時間はかかって当たり前。

このくらいの給料でこのくらいの時間ならやりますっていう考えは、そもそも何かを表現したり作ろうとすることには向いていない。この道を選んじゃいけない。

特にフランス人とは全く違った環境で生まれ育った僕たち日本人が、フランス料理を本気でやろうと思ったら、心と頭と身体にフランス料理を叩き込まなければならない。

そのためには就業時間やシフトが決まったホテルでのんびり仕事をしていても無理です。

なるべく厳しい環境で修業した方がいいと思って僕はやってきましたが、今でもそう思います。

会社を設立し、お店を作ることはお金さえ出せば誰でもできることだけど、仕事と思って独立したって意味ないです。そういう考えなら、普通のサラリーマンになった方がいい。

何か価値あることをしようと思ったら、時間を惜しんでもしょうがないです。二十時間やったってできるかわからない世界。やるしかない。できないならできるような相応の努力が必要です。

最近の若手の料理人を見ていて思うことは、自発性、考える力が無いことです。シェフの言うことをただ忠実に、細かくやろうということしか念頭にないから、それ以上のことができないのです。

結果的に、平均的な仕事はできても、そこから伸びていく人が少ない。技術は優れていても、面白みのない料理人になってしまう。フランス人の三つ星のシェフを見ていると、技術よりも感性、考える力が大切だということが理解できると思います。技術だけでは優れたシェフにはなれないし、お客様に求められる店を出すこともできないのです。

将来の展望はどのように描いていますか。

沖山氏:
ミシュランにも言ってるんですが、一つ星を維持することには全く興味がなくて、次に星をもらうならば三つ星が欲しい。もし三つ星をもらったら、価格が世界一安い三つ星の店を開きたいですね。

(聞き手:石黒陽子、文:石黒陽子、写真:Pierre-Olivier)

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