便利でない場所にこそ、心豊かに生きるヒントがある

villa aida(ヴィラ アイーダ)
小林 寛司

小林寛司 villa aida(ヴィラ アイーダ)

■オープンから3年…客足が伸び悩み、1週間で予約1組の時も

そこから料理の改革をされたわけですね。まずは輸入をやめて食材の仕入れを一新され、メニューも新たに開発されていったと。

小林氏:
ひたすら試作の繰り返しでしたね。イタリアの郷土料理を、地元産の食材に置き換えて、オリジナリティの高いメニューを考案していきました。単に地元産の大根や白菜を使った料理というだけでは、普段の食事と変わらないので、わざわざ行きたくなるような工夫や仕かけを意識して、違う角度からの提案を心がけました。

ちょうど畑を始めたのもその頃です。色んな農家さんに足を運んで、仕入れできないものは種を蒔いて、イチから育てて…。なにしろ調理場にいても、お客さまが全くこない日が続いたので、畑の面倒を見る時間はたっぷりあったのです。

今や県外にも「ヴィラ アイーダ」の名は知られていますが、客足がそんなシビアな時代もあったんですね。

小林氏:
平日は予約ゼロで土曜日のディナーに1組だけという週もありました。でも、その1組のお客さまが、よく顔を出してくださって、「好きな人は好きな料理やから、がんばりや」と声をかけてくれて…この方たちが来なくなった時はいよいよ潮時だとは覚悟していました。歳も30歳前だし、やり直すなら今だなと。…といっても、借金を抱えていましたから、もう止まることはできません。苦しいけど前に進む、という選択肢しか残されていなかったので、必死でできることをやっていましたね。

料理を変えていくのは、時間も労力もかかります。お客さまの足が途絶えた時、まずは集客に力を入れるという方法もありますが、その点は?

小林氏:
もちろん集客についてもいろいろ策を練りました。1000円ランチも、3500円のディナーコースも試しましたが、そうすると、安さに価値を置くお客さまが集まるようになってしまう。子連れのお母さんたちなんかは、お話するのが目的なので11時30分から来られて15時頃までお茶をされるわけですが…私がめざす店はそこではないなぁと。もちろんそういう客層自体を否定するわけではありませんが、食材へのこだわりやここでしか味わえない料理に価値を感じてくださるお客さまを大切にしていくべきではないかと思ったのです。

そうして3~4年かけて、やっと今のような自分たちで育てた食材で料理を提供するスタイルに落ち着き始めました。ちょうどオープンから6~7目を迎えた頃でしたね。

客足が途絶えてから、ずいぶん長い間、試行錯誤の時期が続いたんですね。

小林氏:
まさにドン底の時代でした。試行錯誤だなんて格好いいものではないです。仕入れ先への支払いはできない、スタッフへの給与も払えない。資金を工面してくれた周囲や両親からも心配され、「値段下げて、量を増やしたらいい」と店の方針についていろいろ言われたり…。それでケンカもしましたし、お客さまが求めているものやスタッフの気持ちが分からなくて…しばらく孤立していた時期もありました。

変化が生まれ始めたのは?

小林氏:
少しずつ努力が実った…ということではあるんですが、なんとなく大きな波を感じ始めたのは、大阪の知り合いのシェフが来店してくれた時ですかね。彼が近くの農家さんに寄った時にうちの店にも来てくれたのですが、「料理が変わってきた。」と感想をくれたのです。それを耳にした料理人の方たちが、どんなものを出してるんだ?と興味を持って来店してくださるようになったんです。

例えば、小カブをまるまる焼いてオリーブオイルをかけてそのまま出したり、郷土料理をベースに、地元の食材の持ち味を主張するような独創性のある料理を作っていたので、大胆というか珍しかったのかもしれません。そこから雑誌などメディア露出も増えて、兵庫や大阪、京都のお客さまも増えていきましたね。

villa aida(ヴィラ アイーダ)外観

四苦八苦されていた時期に得た“気付き”があったからこそ、進化できたわけですね。お客さまの層にも変化が?

小林氏:
変わりましたね。実は食材を変えた時点で、ターゲットは地元の人ではなく県外の方を対象にしていました。というのも、このあたりの地域の方は、新鮮でおいしい野菜は食べ慣れているから特に魅力を感じないだろうなと。むしろ、なぜそこにわざわざお金を払うの?という感覚なんです。でも都心の人にとっては、いい土で育てられた新鮮なトマトや大根は、価値があると踏んだのです。

地元を狙わないというのは、思い切った決断ですね。

小林氏:
地元の場合は絶対数も限られていますし。狙うターゲットが県外…とハッキリしてくると、メニューも方向性や客単価というのも自然と定まってきました。どうせやるなら好きなことをとことんやって、ダメだったらすっぱり止めようと思って、振り切ったチャレンジができたように思います。

ところが、その方向転換によって遠方からたくさんお客さまを呼び込むことになり、雑誌に取り上げられることも増え…結果的に「あの店、話題みたいやね」と地元のお客さまも戻ってきてくれるという嬉しい誤算もあったりもしました。

villa aida(ヴィラ アイーダ)内観 採れた果物などから作る手作りコンフィチュール
採れた果物などから作る手作りコンフィチュール

■自然の恵みに敬意を払い、「食材はすべて使い切る」がモットー

お店を運営していくにあたり、スタッフの指導で気をつけていることがあれば、お聞かせください。

小林氏:
今、調理場は3人で回しています。基本的に食材の約8割は裏の畑で獲れたものを使い、残りは農家さんや友人から取り寄せているものです。そこで私が大事にしているのは、「食材を捨てないこと」です。よっぽど傷みがあるものは畑に戻し土に返らせ、工夫をこらして使える部分はすべて使うということを指導しています。

お店で使い切れないものは、ピクルスやコンフィチュールに加工したり、知り合いのシェフに送ったりすることもあります。

うちの店にきても、そんな高度な調理技術は学べないかもしれませんが、“使い切る”という考えや、環境に配慮する心、生活の知恵や工夫といった、料理をするにあたって大切な考え方…ひいては生き方を身につけることができると思っています。

これからチャレンジしたいことはありますか?

小林氏:
岩出市よりもさらに自然が深いところ…都市を感じさせるものが見えないようなところで店をやりたいなと思っています。

私たちは明るいうちは畑を手入れして、暗くなってから料理の仕込みをする。収穫が忙しい時期は店を閉めて、畑に専念する。そんなサイクルで店を営んでいます。

よく農業と飲食業をどういう風に生業として成立させているのか興味を持って聞かれますし、他の料理人さんから「羨ましい」なんて言われることもあります。

今の忙しい日本において、自然の恵みを慈しみながら、ゆったり生きたいと考えている人はとても多いと思います。でも不思議なことに、実行に移す人は少ないんですよね。

立地的にお客さまが見込めるのか?採算が合うのか?と現実的に考えてしまうところがあるかもしれませんね。

小林氏:
でもそれって、“商売”として考えているからなんですよね。“生きていく”という視点で考えれば、実はこの自給自足の暮らしは、生活費もいらないんです。もちろん初期投資は必要ですけどね。自分たちで野菜を育てて、それをご近所の方たちにあげたら色んな物になって返ってくる。それで十分、生活に必要なものはまかなっていけるんです。

生きるための営みというより、どれだけ利益を出すか、稼げるか、という考えをしてしまいがちですね。

小林氏:
たしかに稼がないと生きていけないんですけどね。でも、自然の法則に身を寄せて、生きるために必要な分だけ、少しずつ、手にすればいいと思うんです。

色んなものを犠牲にして、身を粉にして働くというのは、何か違うかなと思うんです。

私にとって畑の世話は生きがいのようなもので、日曜大工で色んなものを修理したり、小屋を作ったりするのも楽しい時間です。

日常の何でもないような営みを、愛おしむ。家族で過ごす時間を大事にする。そんな心豊かな暮らしのヒントを提案できるような、店でありたいと思っています。

(聞き手:市原 孝志、文:田中 智子、写真:岡 タカシ)

villa aida(ヴィラ アイーダ)外観 表札

villa aida(ヴィラ アイーダ)外観

villa aida(ヴィラ アイーダ)

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