料理人とは、2時間で人を幸せにできる、最高の職業

麻布 かどわき
門脇 俊哉

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■大きな店でも小さな店でも、料理長として店をまとめるために大事なことは同じ

「エスカイヤクラブ」を経て、料理長として六本木の割烹「梅美津」へ。結婚して子どもも生まれ、家族を養うために収入を増やしたいと考えてのことだった。再び料理長となって仕事に意欲を燃やしていた矢先、妻が癌の宣告を受け、9ヶ月の闘病の末に亡くなってしまった。33歳のときだ。

大変でしたね。

門脇氏:
料理長として責任のある仕事をしながらの看病でしたから、つらい時期でした。師匠ををはじめ、周囲が助けてくださり、ありがたかったですね。北海道の母も、上京して助けてくれた。

シングルファザーとして子どもを育てるにあたり、「大きな会社が運営する店で働いた方がいいのでは」と周囲にアドバイスされ、東天紅系列の日本料理店「海燕亭」の試験を受けて料理長として採用されました。「梅美津」は厨房スタッフが2、3人の店でしたが、「海燕亭」で配属された千葉スカイウインドウズ店(2016年閉店)には15人ほどのスタッフがいました。

料理長として大規模店で働きたいという思いもありましたか?

門脇氏:
規模にこだわりはなかったです。「つきじ植むら」で比較的大きな店も経験していましたから、どんな規模でもやっていけるだろうと考えていました。

スタッフをまとめるコツみたいなものはあるのでしょうか。

門脇氏:
コツというようなものじゃないですけどね、やはり、自分の考えを理解してもらうことですね。調理場が3、4人なら一人ひとりと話すことが必要でしょうし、10人を超える規模なら、いかに二番手、三番手に自分の考えを理解してもらい、共鳴してもらうかが大事です。それさえできれば、大きなホテルのような30人、40人規模の調理場であっても問題なくまわしていけると思うんです。あとは、大きな店の場合、派閥ができないようにすることですね。

派閥ですか。

門脇氏:
人数が多いと、やはり派閥ができがちです。スタッフ間のコミュニケーションを図って、みんながひとつの目的に向かうようにしないとね。あとは「腐ったみかんの法則」とよく言うんですけど、中堅スタッフでやる気がなかったり、陰で手を抜いているような人がいると、全体に悪い影響を与えます。注意しても改善されないようなら、辞めてもらうことも必要です。

中堅スタッフが意欲を持って仕事をできているかというのは、店全体にとって大事な要素なんですね。

門脇氏:
うまくいっているお店は中堅スタッフがしっかりしていて、トップと同じ目標を見ています。うちの店のお客さまには経営者の方も多く、マネジメントのお話をうかがうこともあるのですが、どんな仕事でもそこは同じのようですね。

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■「大海に浮かぶ小舟」でもいい。独立して思いっきり料理人の仕事がしたかった

「海燕亭」の料理長に就任した時、会社から与えられたミッションは「地域一番店になること」。近隣には「なだ万」「鴨川」などの有名店が群雄割拠しており、簡単なことではなかった。だが、門脇氏は百貨店とタイアップしたおせち料理の販売や、割引で食事が楽しめたり、リーズナブルな試食会に参加できる「友の会」などの企画を打ち出し、マダム層を中心に評判を集めて地元客を増やしていった。その結果、就任から独立まで5年連続前年比を伸ばし続けることができたという。

新しいお店ですから、地域に地盤を築くのは大変だったでしょうね。

門脇氏:
「友の会」の試食会も最初に企画を提案した時は会社から一笑に付されたんです。以前同じ場所で「東天紅」を営業していたころに中華料理でやって、まったく集客できなかったということで、予算を用意できないと言われましてね。そこで地元の酒屋さんを巻き込んでワインの宣伝を兼ねた試食会を開催するかわりに酒代を負担してもらったり、八百屋さんと交渉して食材費をおさえたりと工夫して、1万円のランチコースを5000円ほどで提供する会を開くことができたんです。

1万円の日本料理のコースを5000円で! かなりお得ですね。

門脇氏:
でしょう?(笑) 80名で満席の店舗で、最初は7、8人ほどしか集まらなかったのですが、数回目からすぐに予約がいっぱいに。私が独立で店をやめるころには会員が800名に膨れ上がっていました。試食会をきっかけにランチやディナーに来てくださるお客さまも増えましてね。私の料理説明もわかりやすくて上手だと言っていただいて、指名で予約をいただくことも多かったです。

まさに脂がのってきた時期だったんですね。そんな中、独立をお考えになったのは?

門脇氏:
家庭のことも落ち着いて、仕事の成果も出てきて、自分の力を試してみたいと思えるようになったのが理由のひとつです。あとは、私は器用なタイプというか、会社の中での立ち回りもうまくいってはいたのですが、どうも仕事帰りに充実感がなかったんです。大きな組織ですと、自分の考えたことを実行するためには、会議ひとつでもどうしても根回しが必要ですよね。会議の場でいきなり「私にはこんな案が!」と言っても、理解してもらえないですから。

大きな組織だと、仕事のかなりの部分を調整が占めていたりしますよね。

門脇氏:
処世術というんでしょうかね。ただ、気づいたらそればかりで、自分は何をやっているんだろうと。ですが、ホテルの料理長をやっている友人の話を聞くと、似た状況だった。大きな組織に共通することなんだなあと。だから、料理人としてもっと料理に集中できる環境を求めるなら、自ら店をやるしかないなと思ったんです。

独立を決めたとき、周囲の反応はどうでしたか?

門脇氏:
独立には借金をすることが必要でしたからね。ふたりの子どもがまだ小学生でしたし、安定した組織を飛び出すことには不安がありました。だから、子どもたちの面倒を見てくれているお袋にまず相談して、反対されたらやめるつもりだったんです。

すると、「小さい店ならいいんじゃないの。食べていくぐらいだったらできるはず。ダメなら、お前の料理人としての力量がそれまでだったということよ」と言われて背中を押されました。ただ、諸先輩には反対されましたよ。ちょうど大きなホテルの料理長の話もいただいていて、それもお断りしてしまったので、「もっと大きなタンカーの船長になれるのに、ロマンを求めて小舟で漕ぎ出すなんて、お前はばかだ。しょうがない」とあきれられました。それでも、決心は変わりませんでした。

麻布 かどわき

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