レシピ通りでも同じ料理は生まれない、そこにプロの仕事がある

京料理 本家たん熊
栗栖 純一

京料理 本家たん熊 魚を捌く栗栖純一

■プロの料理人とは、均一に同じ味を出せること。

今はお父様と一緒に献立を作られ、調理現場の方も取り仕切っていらっしゃるわけですが、栗栖さんの料理を作る上でのこだわりを教えてください。

栗栖氏:
料理人のプロフェッショナル性がどこにあるかというと、いつでも均一に同じ味をお出しできるかだと思っています。それが一般の家庭料理との違いですよね。

料理って不思議なもので、同じ素材に同じ調味料を同じ量入れたからといって同じ味ができるわけではないんです。自分の舌の感覚がすごく大事。「柿傳」の大将が、「いい加減は、『良い』加減だ」と言っていたのがすごく深いなぁと思っていて。

吸物の味をととのえる時に、塩をぽとぽと落として、かき混ぜて味見をして、足りなければパラリと加えて。その絶妙なさじ加減が大事なのですが、実はそれを学べるのが「まかない」なんですよね。

私は修業時代の3年間、最後は焼場も任せてもらいましたが基本的にまわりは先輩ばかりでしたので、まかないをずっと作らせていただいていました。余った材料を使って、限られた時間の中で追い込まれながら作ることで、段取り力とか味付けとかを習えるわけです。おろそかにしがちですが、このまかない作りは侮れません。

私も慣れない最初の頃は、先輩に「これは何ccですか?」と聞いたりしていました。ですが、「どの調味料を使うか覚えていたらいい、あとはバランスだから舌で覚えろ」と言われ、必死に勉強しました。その結果、「お前の味はぶれないなぁ」と褒められた時はうれしかったですね。

均一性というのはそういうことなんですね。定められた量があるわけではない中で、自分の舌を磨いていくと。

栗栖氏:
例えば、甘鯛一つとっても海がしけっていて鮮度のよくないものしか獲れなかった時なんかは、塩を少し多めにして身を引き締めて、調理する時もお酒をたっぷり使う。海老芋なんかでも、甘みがない時は塩を入れて甘みを引きたてたり、素材の状態に応じて調理法を変えます。「第六感」を使って素材の声に耳を傾けないといけないんです。

なるほど、「第六感」とは、どこを調整したら目標とするゴールに近付けるかの感覚なんですね。そのようなセンス的なものは後から身につけることができるのでしょうか?

栗栖氏:
できます。でも年齢的に言えば、人間形成がされる30歳までの間に、いかに良い料理を見て、吸収して、舌や技術を磨くかにかかっていると思います。そういう意味で、お茶席に出向く仕事で、うつわや花、書、茶道具に触れて総合芸術に触れられたことはとても良い財産になったと思います。

今の時代、若い子の間でも、見た目の華やかさや恰好良さとかでカウンター割烹も全盛期を迎えていますが、やはり本質を見失わないでほしい。下積み時代に、いかにきちんとした基本を勉強するかが、料理人人生で必ず重要になってきます。若い時ほど、スタンダードな料理や技法を身につけてほしいと願っています。

京料理 本家たん熊 内装

■分け隔てなく、世界中の人をもてなせる日本料理の力。

伝統的な日本の料理というと、最近は海外の方も京都の日本料理店で修業をされている方が多いようですね。

栗栖氏:
京都にも何店舗かありますね。「たん熊」にお声がけいただくこともございます。実は「海外」というキーワードには大いに関心がありまして。

私は大学時代、バックパッカーをしていました。大の旅行好きなのです。特に興味を持っているのがシルクロード。というのも私は祇園祭の囃子方をしているんですが、祇園祭の山鉾にかかるタペストリーが室町時代のペルシャ絨毯で、そのルーツに心惹かれたんですね。

今は信じられませんが、内戦中のシリアも当時は安全で。シリアやレバノン、ヨルダン、アフリカなど70カ国ほどの国を一人で旅しました。

その経験が、今の仕事に生きている部分があるのですか?

栗栖氏:
世界中を旅する中で、特にアラブが大好きになりました。家族を大事にして、かならず一緒にご飯を食べたり、謙虚な姿勢を重んじたり、昭和30年代の古き良き日本の雰囲気というか、雅で品があって、京都人とすごく近い空気を感じたんです。

旅行中も町の方がとても親切に道を案内してくれて、ウェルカムモードで迎えてくれました。そうした思い出から、アラブの文化にとても親近感が湧いて、3年前に京都ハラール評議会様から「ハラール認証」をいただきました。

きっかけは3年前、京都にムスリムの観光客が増えたことです。アラブ人の大半はイスラム教徒で、戒律が厳しく、厳格な方は日本の食べ物には何が入っているか分からないから、自国からカップラーメンを持ってきてホテルですすっているという話を聞きました。

せっかく美食の街・京都に来ているのに、なんてもったいないんだ、と。自分は、アラブ諸国であんなに楽しくあたたかいひと時を過ごしたのに、一方でかの国の方々に対して、とても失礼なことではないか。そう思って、ハラールで日本料理をできないかと考え、勉強を始めたのです。

いろいろ制限がある中で成立させるのは、大変なことだったのでは。

栗栖氏:
戒律によって豚肉は使用できないのですが、日本料理はその点、魚介類が中心ですから、実は他国の料理よりアドバンテージがあると気付きました。

でも一番ネックだったのが、日本酒とみりんが使えないこと。みりんはアルコールが含まれていますからね。でも逆に、この2つを使わなければハラールの日本料理ができるということも、発見しました。

そもそも、酒の役割は臭み消しと素材を柔らかくすること。ではその役割を代替するにはどうすれば良いかと考える。生姜や葱など香味野菜を隠し味に使えば臭みは消せますし、圧力鍋で出汁をたっぷりはれば柔らかさもクリアできます。

みりんは、甘みやツヤ、それから焚き物なんかで塩と醤油だけだと尖りが出るのでマイルドにするために入れるもの。であれば、甘みについては少量の砂糖で代替し、ツヤだしは水あめを使えば何とかいけると。

実際ご接待で、お酒とみりん、醤油で味をつける幽庵焼きを、ハラール用に代替調味料でお作りしたことがありますが、見た目も味も近くて日本人が食べても「違和感がないね」とご評価いただきました。

完成までに苦労はあったかと思いますが、日本料理の価値を再発信できる素晴らしい取り組みですね。それは京都全体の動きなのですか?

栗栖氏:
いえ、実は私が個人的に興味を持ってやっているんです(笑)。せっかく京都に観光にきたのだから、日本食を味わってほしいなと。恩返しの気持ちもありますしね。

ただ、最近は、ホテルからもオファーを受け、ハラールだけではなく、ユダヤ教のコーシェルという戒律に対応する日本料理についても研究を重ねているところです。

この店にきたら、イスラム教の人もユダヤ教の人も、一緒にご飯が食べられるということですね。

栗栖氏:
それが私の夢なんです。京料理、日本料理というのは、世界の宗教に対応できる食としての魅力があると思うんですよね。

イスラエルとアラブは対立しているかもしれませんが、日本に来たら、食を通じて平和を実現できるのではないか、その懸け橋になれるのではないか、と。今は、日本料理は、分け隔てなくみんなをもてなせる可能性があると強く実感しています。

食による文化の融和というのは、中国の「満漢全席」など、数多く見られたことでもありますよね。素晴らしい考え方だと思います。

京料理 本家たん熊 栗栖純一

■人の和を大事にした気持ちいい関係が、おいしい料理を生む。

最後に、店作りで大事にされていることを教えてください。

栗栖氏:
私どもの店は、ひとことで言うとアットホーム。お客様からいただいたお手土産なども、仲居さんから調理場のスタッフまで全部みんなで分けるんです。

表千家様の考え方なのかもしれませんが、私どもが新年恒例の茶事・初釜にいくと、その時のお差し入れなんかも、私たち下々の者まで持ってきてくださる。

上下関係もきっちり筋を通した上で、平等性や人の和を大事にする、当時の家元の姿勢を見習わせていただいています。チームワークを大事に、気持ちよく働けていたら、不思議と良い料理が生まれるものです。

スタッフの気持ちをモチベートし、育てる上で心がけていることはありますか?

栗栖氏:
均一に分け与えるということにも繋がりますが、やはり惜しげもなくオープンにいろいろ教えることでしょうか。

ただ、なぜ「柿傳」の先輩たちが当時こんなにいろいろ教えてくださったのかなぁと考えた時に、きっと真似をされない絶対的な自信があったからなんだろうなぁと思うんですよね。合わせ調味料一つとっても、同じ配合でもその人のカラーって出てきますし、その人らしさが出る、それが料理の面白さでもあります。

レシピをもらってそれを簡単にコピーできたら、料理屋さんっていらないですよね。でも、そこには実は、それだけでは語れない、プロとアマチュアの差があるのです。

若い子たちには、分け隔てなく、均一にすべてを伝授しますが、その裏には厳しさがある。そこからいかに微妙なさじ加減の違いを追求していけるか。料理にストイックに向き合う力が求められるのです。

プロの料理人として大成するには、そんな第六感を磨き続ける努力が大切だと思いますので、それを伝えていきたいですね。

(聞き手:齋藤 理、文:田中 智子、写真:逢坂 憲吾)

京料理 本家たん熊 内観

京料理 本家たん熊 外観

京料理 本家たん熊

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