何よりの賞は、星の数やランキングではなく、満席のレストランでお客様が笑顔であること

Odette(オデット)
Julien Royer (ジュリアン・ロワイエ)

Odette Julien Royer (ジュリアン・ロワイエ)■自然の中、豊かな食に恵まれた子ども時代

フランス、オーベルニュ地方出身、自然に囲まれた子供時代を過ごされたそうですね。

ロワイエ氏:
子どもの頃は、ずっと外で遊んでいました。森でマッシュルームを取ったり、ベリーを摘んだりして遊んでいたのです。現代の子どもたちとはだいぶ違いますね。

はい、父は農業コンサルタント、母は小さな農場を営んでいて、母と祖母が作った手作りの料理を食べて育ちました。パン、ジャム、シャルトキュリーなども全て代々家に伝わるレシピで作っていました。金銭的に豊かではありませんでしたが、上質の食材には恵まれていました。

鶏肉やホロホロ鳥、ウサギなども飼っていましたし、父がコンサルティングしている農場から、色々な食材を持って帰ってきてくれました。

掘ったばかりのジャガイモの泥を落として、オリーブオイルと塩で調理した、新鮮な食材のシンプルなおいしさを知っているというのは、今の自分の強みだと思っています。
豚も飼っていて、祖母は秋になると豚を潰してブラッドソーセージを作ったものです。ほぼ全ての食材が自給できたので、スーパーマーケットに行ったことはほとんどありませんでした。

世界中を旅しましたが、オーベルニュは世界で一番美しい場所ですよ。チーズと豚肉で有名なエリアで、特に地元のサレール牛は、脂肪分の多いミルクを出すので、チーズに向いているのです。特に、春先はホワイトリコリスを食べて育つので、とてもミルクが美味しいです。

父は農業コンサルタントを退職しましたが、今もコネクションがあって、このサレール牛を使ってチーズを作っているチーズメーカーの女性を紹介してくれたりと、父のおかげで地元の食材を色々と使えている面があり、感謝しています。

Odette Julien Royer (ジュリアン・ロワイエ)

料理のキャリアは、どのようにスタートされたのでしょうか?

ロワイエ氏:
たまたま私は学校での成績が良く、特に地理と歴史、絵画が好きでした。そのため学校の先生は料理学校に行かせたがらなかったのです。
当時は、料理学校は成績のあまり良くない子どもが行く所、という先入観があったからです。でも、私の両親は私の選択を尊重してくれて、料理学校に行く事になりました。

料理学校を卒業後、一番最初に働いたファインダイニングが、「ミシェル・ブラス」でした。独学のシェフですから、スタイルはとてもオリジナリティがありましたね。

そして、料理学校では現在の奥様、アニエスさんに会うのですね。

ロワイエ氏:
はい、そうです。籍を入れたのは2012年ですが、出会ったのは2001年、もう20年近く一緒にいる事になります。実は私は21歳までフランス国外に出たことが一度もありませんでした。
しかし、料理学校の同級生だったアニエスは、コルシカ出身の父とパリ出身の母の間にベルギーで生まれ、ベネズエラやバスクなど、フランス政府のもとで働いていた父の都合で、様々な国や地域で暮らしてきたので、とても旅好きでした。
そんな彼女の勧めで、21歳の時に、バルバドス諸島での仕事を受ける事にしたのです。この仕事において、旅に出るというのはとても重要な事ですし、彼女がそう勧めてくれて良かったと思っています。

Odette Julien Royer (ジュリアン・ロワイエ)

■リピーターを続出させる秘訣とは

このオデットのインテリアは、祖母の家というものがイメージにあったとお聞きしました。

ロワイエ氏:
そうですね、もちろん祖母の家より洗練されていますが、祖母の家のような、温かみと、歓迎されている雰囲気を表現したいと思ったのです。ファインダイニングといえば、暗い色合いの荘厳な雰囲気、というのが定番でしたが、それを変えたいと思ったのです。ですから、明るい色合いを使い、植物をできる限りたくさん置いています。

天井から下がっているモビールは、私がよく使う食材の写真をズームインしてプリントしたものを切り取って作りました。モビールにしたのは、空中に浮いているような軽やかさが欲しいと思ったからです。

Odettem内観提供:Odette

それから、びっくりしたのですが、ドレスコードがないのですね!

ロワイエ氏:
はい、ゲストが快適である、ということはとても重要だと思っています。高価なドレスや時計といったものではなく、食を楽しむということ自体がこのレストランの中心にあって欲しいと思うからです。
個人的には、レストランに行く際にはなるべくエレガントでいたいと思う方ですが、身なりがそのひとの価値を決めるとは思っていません。シンガポールでは、身綺麗にしている人が必ずしも高価なワインを頼むわけではなく、むしろその反対であったりする訳です。

料理もそうです。もっとも大切なのは味。食材や美意識も大切ですが、プライオリティの一番はやはり味だと思っています。今の料理は、コンセプトに焦点を当てたものが多いですが、私はそうではありません。

自分の料理を「エッセンシャル・キュジーヌ」と呼んでいます。自然をそのままに、フェミニンに軽やかに表現したいと思っているのです。

料理のコースを、少量の多皿構成としているのも、自然は全てを持っているので、その一部ではなく全てを表現したいと思っているからです。

私の料理は、伝統と革新の間にあるものだと思っています。火入れなどの技術といった伝統的な部分に、スパイスやアジアのアレンジを味のレイヤーとして加えますが、レイヤーは最大3つまで、加えすぎないように意識しています。

Odette Julien Royer (ジュリアン・ロワイエ)

また、日本の食材を多く使っていますね。

ロワイエ氏:
食材の多くは日本から来ます。築地を介さずに、下関、福岡、札幌などと直接取引しているのです。

フランスの食材はパリのランジス市場を経由しないと輸入できず、ランジスからもフライトで13時間かかりますが、日本からなら各地の生産者から直接輸入でき、輸送時間も比較的短いというのが理由です。また、日本の神経〆の魚は、通常処理の魚なら3日程度しか保たないところが、10日ほど保つなど、メリットが大きいですね。

フランスにいた頃は、限られた魚しか市場に並ばなかったですが、日本にはたくさんの種類の魚があります。そういったダイバーシティーを含めて、自然の多様な豊かさを表現していきたい私のスタイルにもあっています。

食材の種類が多いので、ポーションは小さめで、最後まで美味しく楽しめ、食後感が重くない分量を考えています。訪れてくれる方の7割が実はシンガポール在住者。食後感が軽い方が、何度も訪れてもらえる、というのも理由です。オープンからの4年間で、125回も来ている地元のゲストもいるほどです。

Odette Julien Royer (ジュリアン・ロワイエ)

フランス料理ではありますが、軽やかな味を表現するために、日本の出汁もよく使っていますね。

ロワイエ氏:
もちろんフランス伝統のジュやコンソメ、フュメも使いますが、食材や料理に合わせて、出汁も使います。よく使うのは、グルテンフリーの醤油、みりん、酒をミックスしたオリジナルの調味料。オーブンだけでなく、備長炭も火入れをする際の大切な熱源でもあります。

Odette Julien Royer (ジュリアン・ロワイエ)提供:Odette

■強いチームが導いたアジアNo.1と三つ星

今年はアジアNo.1に続き、ミシュラン三つ星も獲得。大きな変化の年になりましたね。

ロワイエ氏:
これまで、料理における自分のアイデンティティを探してきた部分もありましたたが、今はとても幸せで、これが自分のスタイルだと感じています。

アジアNo.1、そして三つ星を獲得し、チームを誇りに思います。これは、決して私1人で成し遂げたものではないからです。

3人のスーシェフは、皆あなたの下でとても長く働いていますね。長く働いてもらうために必要なことはなんでしょうか?

ロワイエ氏:
ラヴィンは10年、シオン9年、アダム7年、確かに長いですね。一歩引いて、知識を共有することが大切です。

より多く共有すれば、途中で辞めずに残ってくれるようになると思います。実際に、スーシェフは料理の味作りにも深く関わります。一つの料理に「一つの真実しかない」ということはない、と思うからです。

Odette Julien Royer (ジュリアン・ロワイエ)

新しい料理ができると、全員で食べてみて、フィードバックを出し合います。例えば、私は酸味が好きですが、レヴィンは好きではありません。そうして話し合う中で、みんなが好きな味のバランスを探していくのです。

2人はマレーシア人で、1人はシンガポール人。全員がシンガポールかその周辺の出身です。10年前にシンガポールに来た時は、初めてのアジアで、アジア料理にも馴染みがありませんでした。だから、彼らから多くのことを学びました。

また、旅もアジアの食を理解するために重要な要素だと思います。味わって、嗅いで学ぶのです。今では昔よりも、アジアの人々が好む味がわかります。フランスにいた時は、「旨味」という感覚は知らなかったのですが、旨味そのものについても知るようになりました。

実は、旨味というのは私にとってとても新しい感覚なので、表現するのが難しいのです。旨味を初めて感じたのは、シンガポールに来て1年後です。日本に食べ歩きにいった際に、焼き鳥屋で初めて焼き鳥を食べた時でした。アジアの人々にとっては、旨味というのがとても大切というのも感じているので、料理にも取り入れています。また、シンガポールにはスパイスを使った料理が多く、来た当初全く食べられなかったスパイシーなものも食べられるようになりましたから、私自身の味覚もこの10年で大きく変わったと思います。

Odette スタッフ
提供:Odette

■頂点を極めて見える今の景色とは

6月には、香港にカジュアルなレストラン「ルイーズ」をオープンし、新しい挑戦も始めていますね。

ロワイエ氏:
はい、実はルイーズは父方の祖母の名前でもあります。フランスらしい名前をと探していてたどり着いたものです。香港には高級フランス料理店とビストロはありますが、その間のレンジの店が少ない。なので、そこをターゲットにしています。

オールデイダイニングで、全部がアラカルト。ランチやディナータイムだけでなく、例えば、美味しいコーヒーとペストリーをちょっと食べたい、レストランに行く前に軽くアペリティフを楽しみたいなど、色々なシチュエーションで楽しめる、フランスの本場の味を日々の生活の中で気軽に楽しんでもらいたいと考えています。

10年後、どうなっていたいですか?

ロワイエ氏:
幸せに料理をしていたいと思います。祖母の料理は、私たちを笑顔にしてくれました。私もそんな料理を作り続けて行きたい。何よりの賞は、常に笑顔のお客様で満席である、ということなのですから。

(インタビュー・文・撮影:仲山 今日子)

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