料理人、生産者、お客様の三位一体で持続可能なガストロノミーを

La Table Lucas Carton(ラ・ターブル ルカ・カールトン)
Julien DUMAS(ジュリアン・デュマ)

La Table Lucas Carton_Julien DUMAS

■ルカ・カールトンシェフ就任までの経歴

あなたの経歴について教えてください。

デュマ氏:
幼い頃から、とにかく食べることがとても好きでした。調理師学校を卒業後、ボー=リュー=シュール=メールにあるクリストフ・キュサックの元で働いたのが、料理人としての最初の職業体験です。1シーズンを過ごした後、キュサックがプラザ・アテネのエリック・ブリファーに私を紹介してくれました。その紹介をきっかけに、私がパリに来た時期にちょうどアラン・デュカスとジャン=フランソワ・ピエージュが「プラザ・アテネ」のレストランの指揮をとることになったため、彼らの元で働くことになりました。2000年のことでした。

「プラザ・アテネ」での修行の後、ジャン=フランソワ・ピエージュと共に、クリヨンに移籍したんですよね。

デュマ氏:
そうです。ピエージュはその膨大な知識で、私に料理に関するあらゆることを教えてくれました。料理における厳密さの重要性も彼から教わりました。

La Table Lucas Carton_Julien DUMAS

そして、再びデュカスの元に戻るのですね。

デュマ氏:
まずは、南仏にあるデュカスグループのレストラン、「ドメーヌ・デ・ザンデオル」で仕事をしました。その時期にデュカスから「レッシュ」の指揮を任された、ジャック・マキシマンとの出会いがありました。これは、私の人生における決定的とも言える出来事でした。

最初の半年間、マキシマンとの仕事は、とても辛いものでした。彼からの信頼を少しずつ獲得するために、日々努力しました。料理は固定化されたものではなく、常に流動的であるべきだということ。レシピに囚われてはいけないことは、マキシマンから教わりました。

その後、どういった経緯でケベックに渡ったのですか?

デュマ氏:
料理人としての仕事を始めてから、セップ茸、モリーユ茸、トリュフ、舌平目、、、と毎年同じリズムで同じ食材を調理してきました。ある時に、何か他のものを見つけて、このサイクルを変えてみたいと思ったのです。これが、カナダのケベックに行ってみようと思った最初のきっかけです。
最初は、ケベックという土地固有の野生のハーブや海藻といった未知のものを活かした料理を作ろうという意欲がありましたが、うまくいきませんでした。

ケベックの人達は、私が作りたい料理よりも、彼らに馴染みのある料理を求めていました。私はどうしてもそういった想いに適応することができませんでした。また、心地よい春と夏の後に来る、数か月におよぶ過酷な冬は、私にとって長すぎました。そういった敬意で、ケベックの地の素材を料理するという試みは、失敗に終わってしまいました。

La Table Lucas Cartonの料理

「ルカ・カールトン」での仕事のために、パリに戻るのですね ?

デュマ氏:
マキシマンが、彼の友人であるアラン・サンドランスに私を紹介してくれました。ちょうどその頃は「ルカ・カールトン」を売却する交渉の最中でした。売却が決まった後、サンドランスが引退するまでのしばらくの間は、彼と共に仕事をしましたが、2014年の秋から一人で厨房の指揮を任されることになりました。

パリではなく、故郷のグルノーブルに戻るという選択肢は無かったのですか ?

デュマ氏:
様々なチャンスを掴めるという観点から、パリを選びました。ケベックでの経験から、やはり私の料理が求められている場所で仕事をすべきだという強い思いがありました。グルノーブルの人々は、山やスポーツへの関心が高い一方で、ガストロノミーへの関心は低く、私の仕事は求められていないと判断しました。

La Table Lucas Carton_Julien DUMAS

■ジュリアン・デュマの料理哲学 -地の素材と持続可能な環境

仕事を通じて学びの多かったピエージュ、マキシマン以外のシェフで、あなたの料理哲学に影響を与えた料理人はいますか ?

デュマ氏:
はい。オリヴィエ・ロランジェは、私の料理人としての人生に大きな影響を与えました。彼との最初の出会いは、私がまだ「プラザ・アテネ」の厨房にいた頃なのですが、彼のシンプルながらも配慮の行き届いた料理には、驚かされました。それ以来、彼には尊敬の念を抱き続けています。

もちろん他にもパスカル・バルボ、アラン・パッサール、ミシェル・ブラス、クリストフ・プレ、アレクサンドル・クイヨン等のシェフたちとの出会いが無ければ、今の私は存在しえません。彼らはそれぞれ確固とした強烈な個性を備えながら、惜しみなく私に多くのことを教えてくれました。

La Table Lucas Cartonのアスパラの一品

あなたの料理を特徴づけるとしたら ?

デュマ氏:
料理には、その背景に必ず何らかのストーリーがあります。何の背景も無く、ただ料理だけが存在するということはあり得ません。

私の料理に関して言えば、これまで訪れたり過ごした場所で培われた私のパーソナリティが反映されています。もし、私が別の場所を旅したり、暮らしていたりしていたなら、私の料理も当然違ったものになっていたでしょう。それは単純に土地ごとに素材が異なるということにとどまらず、それぞれの土地で感じるエネルギーが違うからに他なりません。

具体的には、私のこれまでの経験すべてから再現された口当たり感や酸味の感覚をベースに、料理が構築されていると考えています。例えば、子供の頃にバカンス先のブルターニュ地方で見た、魚卸業者の棚に並んだ魚の色は、今でも鮮烈な記憶として残っています。そういった子供の頃から感じてきた豊かな香りや美しい色を料理で再現したいと考えています。

さらに、私は皿の上の表現だけではなく、豊かな海を守るということを視野に入れて料理をしています。もちろん、それは子供たち世代のためであり、将来のシェフたちのためでもあります。海産資源保護は、魚を扱う料理人の務めだと考えているからです。海産資源が枯渇してしまったら、そもそも私たちの仕事も継続できないということは強く認識すべきと考えています。

La Table Lucas Carton_Julien DUMAS

ガストロノミーと持続可能な環境とを両立させることが、あなたにとっての重要な料理哲学なんですね。

デュマ氏:
数年前からこのことを明確に意識して、料理に取り組んでいます。魚介類に関しては、エティック・オセアンという海洋保護団体の活動に参画することを通じて、料理人の視点からメッセージを発していますし、日々取り扱う魚介類のほとんどは、小規模の漁師さんたちがガスコーニュ湾で獲った素材をその日に使う分だけ仕入れています。

野菜に関しては、使用する野菜とハーブの80%をパリ近郊にある持続可能なスタイルで運営する農園から調達することができるようになりました。
地の素材を使えば遠方から運んでくるよりも環境への負荷が少ないですし、近ければ生産地に頻繁に行くことができるので、素材をよりよく理解することができます。

旬の野菜がどのように生育しているのかを知り、生産者とのつながりを強めるために、私は時間があれば必ず菜園に足を運んでいます。それだけでなく、毎週土曜日には八百屋のジョエル・ティエボーとは必ず顔を合わせるようにしています。復活祭の休暇の際にはブルターニュに出向き、取引先の漁師、エマニュエル・マリーと共に船で漁を体験しています。

まずは、日々扱う食材を熟知することが、環境への負荷を低減できるということを厨房の料理人達に伝えるようにしています。そして、食材を熟知することで、食材を丸ごと使い、無駄を出さない配慮をしています。具体的には、魚のアラはスープ・ドゥ・ポワソンや粉状にして再利用し、野菜クズはピューレやソースにしたりといった工夫をしています。

ガストロノミーと持続可能な環境の保全という大きなテーマは、料理人だけで取り組むことは到底できないので、生産者およびお客さんとの信頼関係を構築し、みんなで取り組まなければいけない課題だと考えています。

生産者の仕事に敬意を払い、それを料理で表現することでお客様へと伝えていく。それを積み重ねていくことが、持続可能な環境維持に寄与し、ひいてはガストロノミーを今後も継続させるために、重要だと認識しています。

La Table Lucas Carton_Julien DUMAS

■将来の展望と若手料理人へのメッセージ

パリのガストロノミー界における殿堂ともいえる「ルカ・カールトン」で、その厨房を指揮する立場としての重圧は、相当なものだと思います。

デュマ氏:
格式のあるメゾンのシェフを任されることとなり、当初はかなりのプレッシャーを感じました。シェフ就任当時は、「このメゾンの伝統と歴史を継続するには、何が必要か。」ということを常に自問自答していました。今はもう思い悩むことは無く、日々の仕事を楽しみ、進化し続けるしかないと理解しています。厨房チームの統率に関しては、かつて既に「レッシュ」や「ケベック」でもシェフの経験があるので、そこで学んだことを活かしながら、今では17人のチームを率いています。

厨房スタッフの採用方針はありますか?

デュマ氏:
候補者の履歴書よりも、まずはその人のエスプリ(考え方、精神)を把握するように努めています。仮にエスプリが私の求めるものと合致しなければ、たとえどんなに立派な経歴の候補者であっても、私が採用することはありません。
もちろん、華々しい経歴を重ねることの大変さについては良く知っているつもりですが、過去の経歴それ自体には全く興味がありません。

今、私が率いる厨房には、かつて「ジャック・マルコン」で働いていたコミが一人いるのですが、彼は自然と季節感を大事にするエスプリを備えています。私には、このことはただマルコンで働いていた事実よりもよっぽど大事なことです。

フランスのレストラン業界における労働市場をみると、いい人材を確保することが年々難しくなっていると感じます。そのような状況で、愛情をもって素材に接する日本人の料理人を私はとても気に入っており、彼らの存在はとても貴重です。

私は、常にチームに2、3人の日本人を採用するようにしています。例えば、特に魚に関しては、「活締め」の技術を用いて慎重に素材を扱う姿勢を高く評価しています。今のところ、「活締め」の確かな技術を備えた漁師はステファニー・ウッズくらいしか面識がありません。そのため店で「活締め」の魚を取り扱うことはしていませんが、いつか使ってみたいですね。

La Table Lucas Carton_Julien DUMAS

「ルカ・カールトン」での将来の展望を教えてください。

デュマ氏:
「ルカ・カールトン」で仕事を始めて、既に6年もの時間が経過しました。私の職業人生において、同じ店で3年以上働いたのは、この店が初めてです。この店にいるとエネルギーが満ち溢れ、自由に表現できるので、ここでの仕事はとても心地よく、気に入っています。ここで私はやりたい事は何でも挑戦することができています。

今後も「ルカ・カールトン」の偉大な歴史と伝統を守りながらも、将来的にはサービスと現代的な料理の両面で、さらにお客さんが寛げるような温もりのある空間づくりをしていきたいと考えています。

(聞き手:石黒陽子、文: 石黒陽子、写真: ピエール・オリヴィエ)

La Table Lucas Carton(ラ・ターブル ルカ・カールトン)

お問い合わせ
+ 33 (0)1 42 65 22 90
アクセス
La Table Lucas Carton 9, Place de la Madeleine 75008 Paris
最寄りメトロ駅 : マドレーヌ駅 (8, 12, 14番線)
営業時間
ランチ12時-14時15分(L.O.)
ディナー19時30分-22時15分(L.O.)
定休日
日曜日、月曜日
1/1, 5/1, 7/14, 8月最初の3週間、12/25