本心で向き合うことがバーテンダーにとって何よりも大切なこと

STAR BAR(スタア・バー)
岸 久

BAR(スタア・バー) 岸久

■さまざまな「関係性」を築いてきたからこそ生まれるチャンスに支えられて

岸さんが「STAR BAR」をオープンさせたのはお幾つの時だったのでしょうか。また何かきっかけがあったのでしょうか。

岸氏:
2000年、35歳の時です。

そのときに働かせていただいていたお店は居心地が良かったので、自分のお店をやろうという気持ちは正直ありませんでした。ですがお店の後輩もいますし、いつまでも自分がいたのでは彼らにチャンスも巡ってこないだろうなと思い始めて。

当時のオーナーにどうしたらいいですか?と相談してみたんです。そうしたら「自分でやってみるべきなんじゃないの?実は、ずっとできると思っていたよ」というお言葉を頂けました。思わず「やってみます」と言ってしまいました。

最初は住宅街が好きでしたから、ひっそりとやりたいですね、と話していたら「何をいってるんだ」とオーナーにもお客様にも同じ反応されました(笑)。
そのときはそんなものか、と思っていましたが、後々気づいたことですが、同じような状況でも、他に意見を言われない人もいるわけです。実家に帰るんです、とお客様に伝えても「ああそうなの、頑張んなさい」で終わったり。そう考えると、アドバイスを頂けること自体ありがたかったですよね。関係性があったからこそです。

岸さんもお客様と”いい関係性”が築けていたということでしょうね。

岸氏:
はい、そうして独立を考え始めました。

私の友達が銀座1丁目にお店を出していて、「一緒にこの地域で盛り上げよう。ここをバーの街にしよう」と誘ってくれたのがきっかけで、銀座1丁目でお店を探し始めました。

20年くらい前のこの地域は、並木通り一本入ると、12時を過ぎれば街燈もなく真っ暗になるところでした。そういう土地でしたので、不動産屋にいってもバーはもちろん、お店を出せるようなテナントがなかなか見つかりませんでした。

そんな時、今のオーナー(スタアバーの物件オーナー)の先代とお話をする機会があって「うちの地下が狭いけど物置になってるから、そこの段ボール片付ければできるんじゃないの?」と言って頂けたのです。

「会社名義で契約したほうがいいと思うのですが如何ですか」とオーナーに相談してみると、「うちの会社で契約しているからどっちでもいいよ!めんどくさいでしょ?」と。最終的に会社ではなく、個人で契約させてもらったのです。それ以降、とても良くしていただいておりまして、20年間、一度も値上げはないですよ(笑)。

なにかいろいろと展開がすごいですね(笑)。当時のスクールの校長とあわせて2回も勧められた銀座。やはり縁があるのでしょうね。

岸氏:
本当にありがたいですよね。

銀座にいる方々は、皆さんがそれぞれの銀座ってのを持っているわけです。魚じゃないですが、生息地域というのがやはりあるんですね。そんな地域に根付いている皆さんが、色気というか、フェロモンみたいなものを醸し出しているのが、銀座感といえばいいんでしょうか。

銀座はこうあるべきと言っているわけではないですが、もし違うことがあるとどうしても違和感を感じてしまうんです。

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■バーテンダーの接客において、大切なのは「本心」

それまでご自身は「接客」のタイプではなかったと。だから最初に技術の方を究めたと仰っていましたが、初めて自分のお店を持つことに不安はなかったのでしょうか。

岸氏:
もちろん不安でした。ですが、お店をオープンさせた後、最終的にうまくいくための鍵となったのはやはり「接客」でした。

バーの仲間たちの中には接客ですごい人だなと尊敬する方もいましたし、正直調子いいな、と思った方もいます。でも調子いいというのも技術ですよね。お客様から笑いをとって、何でも売ってしまう。
それはとても素晴らしいことですし、なりたいと憧れたこともあります。だから私とは「別のタイプ」と思いながらも、それを客観的に吸収できました。今でもそれは活きていますよ。

当時はすぐお店がいっぱいになることはありませんでしたので、時間があったこともあり、お客様がいらっしゃったらまずは「今日はどのようなご縁でお越しいただけたのですか」とまずご挨拶して。そのまま一緒に座ってお話していたら困惑されてしまったので、迷惑かなと思ったのですが、実はそれがすごい受けていて。ほどなく連日、お客様に来ていただけたんです!(笑)

突っ込んだサービスですから、慣れていない方たちにとっては驚かれることも多かったです。ですが、結果がついてきて、嫌なことじゃない、かえって喜ばれるものなんだということがわかったとき、自信というか「本心でやっていいんだ!」ていう確信が持てるようになりました。

今でこそ、私がお客様に「どうですか」と介入していくと「きたきた」だなんてお客様にざわついていただいたりして、まるで水族館のジンベイザメとかマンタですよね(笑)。特別何かやるわけではなくただ挨拶するだけですよ?でも、これも以前の「技術」のタイプの私ではできなかったことです。

もともとは苦手と思う「接客」も、学んで身につけていかれたんですね。バーテンダーに求められているスキルも時代とともに変わってきているのでしょうか。

岸氏:
エスプーマ(※6)を使用した真空調理など、新しいやり方は次々と生み出されています。

そういった手法からいいものが出てくるのかもしれないので、試行錯誤が続いている状態でしょうか。新しいやり方が求められているといいますか、業界のイメージを発展させるために必要なのかもしれませんが、最終的には万国共通ですが、”正味”ですよね。

※6 エスプーマ
亜酸化窒素を使い、あらゆる食材をムースのような泡状にすることのできる調理法

正味とは…?

岸氏:
「余分なものを取り除いた本当の中身」ということです。

新しいやり方を否定するわけではないですが、現在はやはりサービスの方に偏っており、すべて演出みたいになっている。エンターテイメントの一環として、すごいシェイクの技もありますし、それは素敵だと思います。
ですが大事なのは飲んでみてどうなのか、それをすることによって美味しくなるのか、ですよね。私の知人の料理人はシェイクの技を見て、「あんなことをやって美味しくなるんだったら、俺も魚回すよ」と言っていました(笑)。

私はカクテルを提供するとき、最初から美味しいものを作ろうと思っています。例えばマティーニでいえば、あの味を許容できるような方でなければ、どんなに良くてもただの刺激物に成り下がってしまう。

一番気を付けるべき点は、飲み物として違和感がないこと。違和感がないというのは、言い換えると「加減」。料理でいうところの「塩梅」です。私は良く「お風呂の湯加減」と例えています。熱いお風呂が好きな方がいれば、ぬるめの温度が好きな方もいる。大事なのはその方にとって心地いいかどうかです。

つまり、「加減」を知るためには、お客様の気持ちを理解しないといけない。料理もお酒も同じだと思うのですが、最終的には気持ち。特に、バー業界は料理で勝負できない分、そこに注力しないとなりません。

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なるほど(笑)。大事なのは本当の中身、そして相手の「加減」を理解する気持ちだということですね。

岸氏:
もちろん、これからは演出のようなスキルも求められているのでしょうけど。

昔のアメリカの格言で「自殺しようと思ったらバーに行け」という言葉があります。それは話を聞いてもらえるから。聞いてもらって初めて「大したことじゃない」と気が付ける場所でもあるんです。
バーというのは、人の喜怒哀楽がどの業種よりもストレートに色濃く現れる業態。バーテンダーというのは「バー」にいる「テンダー」。労わったりもてなしたりするいわゆる世話人。裏側にある意味合いとしては管理監督、仕切り人。半分用心棒みたいな人です。

お店に落ちこんだお客様が入ってきたら「元気出して」と励ますのも本当の姿ですし、アメリカ映画に出てくるような、目の前でショットグラスを銃で撃って、「お前らいい加減にしろ」という姿も本当の姿。
「接客」にも通じるものがあるけど、バーテンダーとしてのお客様との関わりは「本心」が大事と思っています。

失敗したらしょうがないと割り切ることが大事。例えば、お客様に「素敵な上着ですね」とほめたとき、「あなたみたいな若造に何がわかるの」と怒られてしまうことがあったとします。通常であれば「失礼しました」と訂正することが普通ですが、私の場合「それがいいと思ったから言ったんですよ」「思わないことは言わないですよ」と言ってしまいます。心からいいと思ったので、本心に従う。

答えはただ1つなんです。起きたこと、言われたことをひとつひとつ後悔していたら接客はできません。悲しいことも嬉しいことも、しっかり「本心」で受けていく。

「本心」で向きあうために、大切にしていることを教えてください。

岸氏:
若いころから大切にしているのはちゃんと生活できること、「普通」に生きることです。
銀座に来ていただくサラリーマンの方は、私たちから見るとしっかりと勉強して、成功している方たちが就く職業と考えています。心構えとして、その方たちのお相手をしているこちら側もしっかりしないと、と考えていました。

実は私、「酔っ払い」は好きではないのですが、一方で「どんなにくだを巻いているようなお客様でも、仕事では凄いことを成し遂げた方々なんだよ」と、自分のスタッフにもそんな話は良くしていました。
そんな方々が相手ですから、自身の生活が安定していないとコンプレックスを感じてしまう。もちろん、そもそもそれが仕事に反映されてしまっているようじゃ、接客としてだめなんですが、普段の生活から、それを意識するようにしていました。そうすることで、「本心」でぶつかることができる。

「予備校の先生をやっていますが、やる気出ないんですよね。」というお客様がいらっしゃったときです。お話を伺うと、今まで負け知らずで勉強してきたのに、業界に入って、頭脳の日本代表みたいな方たちを初めて目の当たりにして自信を無くしてしまった、と。
まず私が言ったのは「ばかじゃないの」という一言でした。「先生ね、そんなくだらないお酒飲むなら家で飲んでください。負けたんだったら引き下がればいいじゃないですか。勝てない人がいたんでしょ。そんなの当たり前です。上には上がいますからね。」と本心でお伝えしました。

全て言い切るとしょんぼりしてしまって…。正直少し言い過ぎてしまったかなと思ったのですが、お店を出る際に「今日はパワーもらってありがとうございました!」と言って頂いたんです。

たまに暴言バーなんてこともいわれますけど(笑)、最終的にはタイプなんです。ニコニコと聞きに徹しているのもタイプだし、私みたいに本心をぶつけるのもタイプです。
タイプによってやり方は異なるかもしれませんが、大事なのはスキルよりも、ニュートラルな立ち位置、ものの見方でお客様と相対すること。だからこそ、体裁としてずっと良い雰囲気づくりをしていたとしても、最後はその方の人間性が店の方向性を決めるように思います。

一方で、接客で「本心」を貫くことは、場合によっては怖いことでもありますよね?

岸氏:
もちろん。だからこそ、ただ本心を伝えればいいわけではないです。

私はまず同意することを徹底しています。相手のことを認めずに、はじめからどうこういわれるとやはり腹が立ってしまいます。自身の意見がまず同意されることで、人間の留飲というのはある程度下がりますから。まずは認めることが大事なんです。

サービスの中で、お客様がワイルドターキーロックと頼まれていたのに、いざ提供すると「俺はジャックダニエルと言ったんだよ」となったとします。そこですぐ違いますよ、と否定しても水掛け論になるだけですので、一度失礼しましたと謝るんです。

それか代えの品を出したときこそ、しっかりと話す。「さきほど確かにワイルドターキーと言ったんですよ」とね。すると今度は聞く耳を持っているので、そうだったかな?と聞き入れてくれる。

起きた問題が解決するかどうかは関係なく、口に出すことでこちら側もスッキリするんです。
また、時には同意するだけでなく、自己完結も必要です。

常連様に非売品の特別なウイスキーを出し、それを見ていた初見のお客様も気になって注文した際「あっちには出してなぜこっちには出せないんですか」となったとします。
気持ちはわかりますが、初めてお店に来てそんなサービスできませんよね。ないがしろに否定するのではなく、「申し訳ないですができないんですよ。しょうがないからにおいだけですよ?においが高いんですからね」とうまく持っていくんです。そして相手が見てようと見ていまいとお酒をしまい、じゃあこれでと終わりにしてしまうんです。

最近の方たちは感情を表に出さないですから。昔と違って社交辞令というのが通じなくなっているのも事実ですね。申し訳ないものは申し訳ない。できないものはできない。徹底的にやらないと、トラブルに繋がります。

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■日本ならではのバーテンディングに誰よりも誇りを持ち、世界へ伝えるための挑戦は続く

東京ミッドタウン日比谷に新しくSTAR BARをオープンされましたね!今後の展開や、これからの岸さんの夢や目標をお聞かせください。

岸氏:
まずはなるべく健康を意識して、できればあと最低17年、70歳になるまではこのお仕事を続けていきたいと思っています。そこから先もやりたいのですが、自分が70歳を超えたときにできるかは想像できないので、とりあえず70歳までが目標です。

お店をもっと増やしたいという想いは、実はないんです。むしろ、「原点に回帰したい」というのが目標。原点というのは、昔に戻りたいという意味ではないですよ。

原点に回帰したいというのは、自分の範疇の中で意見や提案ができるお店を作りたいということです。先ほどもいいましたが、STAR BAR開店当初のお客様ひとりひとりにしっかりとパーソナルなサービスできるお店。

現実にはお店にいつもいられるわけではないし、展開している全てのお店が自分のお店だと言うつもりもありません。実際に運営している人たちがメインであってほしいですしね。

例えば、昔はダイレクトマティーニといって、グラスに直接注ぐサービスがあるというのをお客様から伺って、「それならやってみます!こんな感じですか」と実践したらかなり喜んでもらえたこともありました。でもお店が繁盛してしまったあとでは時間がなく「少し待っていてください」と言うしかなくて、お客様も時間があったらでいいよ、と言っていただいたのですが、結局時間ができる事はなくて。

そういった以前できていたサービスを復活させようとも考えています。
他にも、「ジャパニーズバーテンディング」、つまり、日本式のバー技術のやり方というはっきりしたものがないので、その要点をまとめた本を出したいと思っています。

面白そうな取り組みですね!岸さんが確立させてきた技術や知識の集大成としてでしょうか。

岸氏:
今はまだバーの仕事は誤解を受けていることも結構ありますし、氷の質やどうやって切るのかなど、シェイクも日本独特のものがあるということをまとめようと思っています。

また、今の関心を持っているのは、日本という中で発展してきたバーの成り立ちだとか、全国に点在しているバーのやり方、バーテンダーが育っていく環境のこと。なぜかというと、日本の場合はすごくそこが特殊なんです。

バーのお仕事は、お互いの共通認識というか「流儀」というものを覚えないとできない仕事だったんです。今はだいぶ失われていますが、残っているところもあります。

昔ながらのしきたり、のようなものでしょうか。

岸氏:
明確なルールとして決まってはいないんですが、ここではこういう風にしなさいというもの。

たとえば、私の店の従業員も休みの日にあるバーに飲みに行ったとき、そこのマスターがどこかでSTAR BARに来ていたみたいで、顔を知られていたんです。一方で彼らが、お店に入った時に名乗らなかったのが気にいらなかったらしく「銀座のやつが来るんじゃねぇ」とたたき出されてしまいまして。

本来は自分の身元を明かすべきですし、そこで名乗らなくても「私は入ったばっかりでまだ名乗るほどの実力を持っていないと思っていたので、名乗りませんでした。失礼するつもりで入ったわけではありません」としっかりと説明するべき。そのまま受け入れて黙って帰って来るなんて、何をやっているんだと。

そういう、渡世人のようなしきたりが、まだ残っているんですよ。
バーで使われるカウンターの木もいろいろと面白い話があります。海外の人は日本の木が好きで、今は中国の方とかがよく日本に買い付けに来ているみたいですね。そういうものの買い方ね。

不動産の話とか、街の話とか、氷、シェイクのやり方、しきたり。日本独特のバーテンダー文化を、本にまとめて、世界に発信していきたいんです。

実際にもう書かれ始めているのですか?

岸氏:
まだですね。これからです。これから2年くらいで、写真も自分で撮って、最初は英語で出そうかなと思っています。自分を育ててくれた、「ジャパニーズバーテンディング」をもっと世界に知ってほしいんでね。それが、今の目標です。

(聞き手:齋藤 理、文:吉田 登、写真:刑部 友康)

BAR(スタア・バー) 外観

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