京料理に求められるのは、冒険心と次世代への技術継承

祇園 さゝ木
佐々木 浩

祇園ささ木 佐々木浩

■人生観・仕事観をガラっと変えた親方のひと言

その二番手になられたのは、何軒目だったのでしょうか?そちらも滋賀のお店だったんですか?

佐々木氏:
5軒目ですね。ケンカして1週間で辞めた店も入れたら、の話ですが(笑)滋賀で3軒まわって京都に出てきたんです。

初めて煮方を勤めたそのお店で、なにか印象的な出来事はありましたか?

佐々木氏:
ありました。人生観が変わったできごとがありました。

そこは懐石のほかに一品料理もあったんですが、ある時、鯛の荒炊きのオーダーが入りました。でも懐石コースがあるので、一品料理はどうしても後回しになってしまうんです。そしたら、おかみさんから「佐々木君、鯛はまだ?」と聞かれる。ですが、ほんまに一生懸命やってても、鯛に手が回らないんですよ。

そうすると、3回目の催促はおかみさんは口調も変わってきて、4回目に「ほんまにやってるの?」と来た時に、プッチーンっとキレてしまって、思わず出汁としょうゆを入れてた鍋をおかみさんに投げてしまったんですよ。……ああいうときって、無心ですよね。

それで投げてしまってからハッと、「エライことしてしもた」「あーあ、クビやな」と呆然とした。その店の親方は3つ上だったんですが、「どつかれる」と思ってたら、その場で僕が投げた鍋をさっと拾って、自分で炊こうとするんですよね。……その姿を見て、もう土下座して謝りたい気持ちでいっぱいでした。

どつかれた方がマシですよね。「ほんますみません」「もういいから」「いや、やらせてください」「いいから。今お前の精神状態は高ぶりすぎてるから、味つけが辛くなってバランスが崩れる」と言われたんです。「料理人が少なくても、僕らの体調が悪くても、お客様はおいしいものを食べに来てはって、それで僕らはお金をもらってるんや」と。

その言葉で頭に10トンくらい錘を背負わされたみたいな気持ちになりました。3つしか違わない人間がそこまで言うわけですよ。こんな人間にならなくては、と思って。

その親方は、ふだんから大人な方だったんですか?

佐々木氏:
いえいえ、チリチリにパーマをかけて、ヒマがあったらパチンコに行ってる、ヤンキーの親玉みたいな方ですよ(笑)。それで、その日が終わってから、もう一度謝ったら、「料理人っていうのは、そういうもんやで」と言われたんです。逆に怖いというか身にしみた。

僕の人生観・仕事への考え方を何よりも変えた人ですね。この出来事で、トゲが落ちたというか、そこで、道場破りをしてきた人間が、ガラっと変わったんですよ。

それからは、親方から料理について相談を受けるようになって、ほんとに僕はその店で伸ばしてもらいました。

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■店全体のことを考え、人をまとめることを覚えた二番手時代

本当の意味での師匠ですね。親方も、その一件で佐々木さんが変わられたとわかったんでしょうね。

佐々木氏:
そうだと思います。二番手というのは、ものが炊けるだけではだめなんですよ。みんなをまとめないとあかんということを教えてもらいました。全体として今何が足りないか、どうしたらいいか、若い子にどういう立ち位置を与えたらいいかを考えるようになりました。その時には、「魚ならだれにも負けへん」という自信もあったし、道場破りとかはすっぱり辞めました。

当時は、箸が転げてもイライラするような時代で、木屋町あたりでケンカばっかりしてましたけど、そこからは“ケンカで手が折れたりしたらみんなに示しがつかへんなぁ”と、それも卒業しましたね。

自分の成長だけを考えていた段階から、二番手としての責任感に目覚めたんですね。

佐々木氏:
ものの考え方が変わりましたね。店の中での自分の立ち位置や、今店をどうすべきかなど、物事の優先順位を考え出しましたね。たとえば親方が出かけているときに、「おやじだったらどうするか」を頭においてやるようになりました。

そのお店には何年くらいいたんですか?

佐々木氏:
3年ですね。支店で料理長になったんですが、その店は寿司のカウンターがあって寿司職人もいるようなお店。

そこである時お客様から「じぶん、いっつも怖い顔してるなぁ」と言われたんですよ。それで気づいたんですが、自分は27歳だったので、寿司場を仕切る35歳とか40歳の人間になめられたらあかんな、という気持ちがあったんですよね。トゲは落ちたといっても、負けん気は相変わらずですから。でも、そのお客様の言葉を聞いたときに、寿司場と張り合うんじゃなくて、お客様の懐に入り込んでいくことを考えた方が、自分にとっても自然なのではないか、と思ったんです。
そうやって顔つきも温和になったら、あるお客様に呼ばれて、「君の料理は味付けもいいし、八寸の盛り付もきれいやし、店を出そうと思ってるから来いひんか?」と言われたんですよ。

祇園ささ木 外観

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