[New] Foodionでのインタビューが書籍になりました!

料理を愛し人を信じる。この道57年、生涯現役を貫く料理人の心意気。

かが万
坂 博雄

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■きっかけは一冊の本。縁が結んだ、老舗料理店での修行

いつ料理の世界に入られたのでしょうか?

坂氏:
16歳の時ですね。出身は石川県の能登半島なのですが、三光汽船という大阪本社の海運会社に就職し、海外に行く船のクルーとして働きました。勉強が嫌いだったのと、船はお給料が高いというのがあったんですね。最初の1年間はボーイとして、続く4年間は船のコックとして働いていました。乗組員48人とお客様を乗せた大きな船で、時には4ヶ月分の食糧を積んで航海することもありました。行き先は香港やシンガポールなどのアジア諸国だったり、時にはアフリカの航路で喜望峰まで行ったり。調理中も船が揺れますし、船の中では下っ端だったので給仕の際にも士官の方に気を遣わなければならなかったりと、半端じゃなく大変な日々でした。料理のジャンルも和食だけにとどまらず洋食や中華など何でもありで、お菓子作りをしたりパンを焼くこともありましたね。食べることが好きだったので、当時高級品だったバナナをアフリカで買ったり、夜にチキンラーメンを作ったりなどしていました。
日本料理に進んだきっかけは、20歳の時、たまたま船の中で秋山徳蔵氏が書いた料理本を読んだことですね。すごいな、私も本格的に勉強したいな、と思い、日本料理の道に進むことにしました。

日本料理店での修行の日々はかがでしたか?

坂氏:
最初に飛び込んだのが老舗の有名店でした。そのお店は中途採用はしていなかったのですが、運よく親戚のツテで雇ってもらうことができました。
見習いという点では船上のコックも同じでしたし、船の方が大変だったので、修行時代を辛いと思ったことはありませんでした。船と違って足元が揺れませんしね(笑)
自分の店を出すまでに15年修行を積んだのですが、昔は斡旋してもらって店から店へと渡り歩く人が多かったので、例にもれず私も流しの職人をしていました。今思えば、いろいろな店を見ることができて良かったですし、「おいしい料理を作ろう」という飲食業界の気概は、今も昔も変わっていませんね。

独立までの経緯はどのようなものでしたか?

坂氏:
独立したいと思ったのは23、24歳くらいの時です。私自身がおふくろの味しか食べていないこともあり、家族への思いが強く、自分好みのストレートな味の、田舎の家庭料理を出す店をやりたいな、と思っていました。
35歳の時、北新地の地下に売りに出されていた店を2000万(注:2016年現在のレートで4800万円ほど)で買い、湯豆腐の店としてスタートしました。修行先の店ではカウンターに馴染みがなかったので、初めて自分の店に入った時、ヒノキのカウンターを見て「こんなにステキなのか!」と驚きました。「よし、勝負だ!」と思いましたね(笑)
店の名前の由来は、出身地の石川の「加賀百万石」+お世話になった「なだ万」です。
オープン当初は借金をして始めました。当然リスクはありましたが、怖くはありませんでした。自信満々だったというよりは、アカンかったら辞めたらええやん、と思ってましたから。どれだけ借金を背負うか、というだけの話なんですよ。元々地位も何もなかったので、怖がってたら何もできませんからね。「やったろやないか!」というだけのことです。

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■人を信じ、次世代を育てる。大切なのは「人間」

「かが万」は広大な店舗面積を誇っていますよね。ここまで大規模なお店は、なかなか珍しいと思うのですが。

坂氏:
うちはカウンターも個室もあるので、お客さんの要望に幅広く対応できます。でも、どんな形態でも、その場その場に料理人がいます。料理人1人で大勢のお客様を回すことはしません。この形態はお客様に納得のできるものを提供するという自信であり、お客様への約束なんです。
自分たちの都合でこうした形態にしたわけではなく、お客様のニーズや要望に応えていこうと取り組んできた延長で今があります。
お客様に合わせるというのは大切なことです。例えば、お客様に「目玉焼きが食べたい」と言われても、日本料理の範疇ではない、などと考えず、ご要望にお応えすればいいと思います。恥ずかしいことは何もない。お客様に合わせてあげられるのは、心が大きい証拠なのではないでしょうか。
また、うちには何十年もいるような料理人も多いので、店を多く持つことで彼らの活躍の場を「かが万」としてプロデュースするという側面もあります。

「かが万」では多くの料理人を抱えていらっしゃいますが、何か意図があるのでしょうか?

私は一人では料理はできなくて、チームでやるものだと思っているので、多くの料理人を抱えています。一人でお店をやる人が大勢いますが、それは良くないと私は思っています。
切磋琢磨できるということもありますし、みんながいるからこそ手を抜けないという面もあります。一人で何もかもやってしまっている人は人を集めることができないか、人を信用できないから、かもしれません。
後続を育てることは大変なことではありますが、これをやらない事には次に進むことはできません。自分の店の主役が自分だというのは分かりますが。
自分が主役じゃなくてもいいから、二番手を育てるべきというのが、私の考えです。

後続の育成に熱心ですね。育成の秘訣とは何なのでしょうか?

坂氏:
やはり、ハートですね。料理に魂がこもっていなくては料理といえませんし。料理の腕がどうのとか、難しく考える必要はありません。料理の腕とは言っても、つきつめれば人間です。技術ももちろん大切ですが、それ以上に大事なのは人が持っている味なんです。変に細工するのではなく、人間を売りにするんです。
店なんて、人がいなくなったら閉めてしまえばいいんですから。

やはり、人というものは大切ですね。

坂氏:
そうですね。店の建築に関して、ご縁があって知り合った凄腕の大工さんのおかげで、夢だった数寄屋造りで作っていただけました。内装にもこだわっているのですが、こちらも建築屋さんと相談して決めました。内装が気に入らなかったら仕事が嫌になってしまいますから。器なんかもそうですね。建築×料理×サービスっていいな、と思います。
また、お店の拡張の際には、お客様に銀行のお偉方がいらっしゃって、「何かあったら相談に来ぃや!」と言ってくださって。その方にお力添えをいただきました。他にも、ひな祭りの折に人形をお客様から譲っていただけたり…。ありがたいですね。

あと、運も大切だと思います。私はものすごく運が強くて、うちの料理人たちに対しても、「何かあっても、私と一緒にいれば幸せになれるで!」と思っています(笑)

かが万

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