絶え間のない探求心と 独創的なスタイルで世界に挑む、 異端の寿司職人

寿し芳
中ノ上 公起

寿し芳 中ノ上公起

■海外での経験が自分の殻を破るきっかけに

2つ目のターニングポイントはどのようなものでしたか

中ノ上氏:
27.8歳の頃には江戸前寿司の店としてメディアにも取り上げてもらえるようになり、それがきっかけでホテルのフェアやイベントなど、海外の仕事が入るようになってきました。仕事は順調だったのですが「全然楽しめてない」ということにある時気が付きました。
いつの間にか「こうじゃなきゃダメ」という自分の決めたルールに縛られていたのです。

江戸前寿司には伝統的なルールが沢山あります。憧れて江戸前にすると決めたけれど、いつの間にかそれに縛られて、江戸前寿司というフレームから出られない。そして海外で寿司を握ってみて、ちっぽけな日本で、ちっぽけなこの8席の店で満足していることに気づいたのです。そこで思い切って「江戸前」を捨てることを決断しました。

看板にも「江戸前」を貼っていたのですがそれも取って。今まで自分がやって来たことを全て捨てて、新しく自分がやってみたいことに挑戦し始めました。一時期、握り寿司を一切出してないこともありましたから、その時はさすがにお客さんも逃げましたね。

「こうじゃなきゃダメ」というのが嫌いで、「なんでこうじゃなきゃダメなのかな」と考えることからいつもスタートしていますし、そこからしか新しいことは生まれません。そうすることで、全く違う視点で物事が見えてきて、新しい発見に繋がることもあります。海外で仕事をして、それを発見できたのは良かったし、今いる環境を出て殻を破らなければ次には進めません。

寿し芳 中ノ上公起

■本当の挑戦をし続けることが喜び。

海外の活動はどのような点が刺激的でしたか

中ノ上氏:
海外ではいつも予想外の出来事の連続です。例えばフランスのプロヴァンスにある二つ星のレストランでは毎年コラボレーションをさせていただいているのですが、思っていたような表現は全然できないですし、その度に本当に落ち込みます。

ある程度シミュレーションして挑むのですが、やはり素材が全く違いますし、お願いしていたような魚が届かないこともあります。でも向こうのシェフもその素材でやっている訳ですから…自分も現地の食材を使って同じ土俵で戦いたい。先日のイベントでは2日目に自分的には少し納得いかない感じがあったのですがすごく凹みましたが、次の日には絶対挽回しようと必死に考えましたし、納得いく手ごたえがあったのでとてもうれしかったですね。来月もバンコクと香港でコラボレーションの企画があるのでとても楽しみです。

寿し芳

食材は最初から現地で調達されているのでしょうか?

中ノ上氏:
最初は日本の魚がベストだと思っていたので、日本から全てを持ち込みましたが、今は辞めて魚は現地で調達しています。

食材を全て持って行くのは場所が変わっているだけで、日本でやっているのと変わらない。そんなことをしても進歩がないし、向こうの魚を前に苦しんで、生み出して、落ち込んで…。そうして得られるものが素晴らしかった。「これじゃなきゃダメ」と思ってると何も変わらないし、誰でもができることをしていても本当の挑戦にはならない。

生み出したものを壊して挑戦し続けるモチベーションはどのようにして保たれているのですか

中ノ上氏:
僕は挑戦しようと頑張っているわけじゃなくて…簡単なことや楽なことをやっている自分に飽きてくるのです。

海外で初めて出会う食材を前にすると…もう興奮で目がいっちゃいますね笑。世界中にはまだまだ新しい食材や技法があって、それらと出会う喜びがあるからまた頑張れるし、もっともっと進化したいという気持ちが沸き上がってきます。

中ノ上氏が考えるこの仕事の喜びとはなんでしょうか

中ノ上氏:
今、僕の店はミシュランのおかげもあり海外からのお客様がほとんど。短い滞在時間の中でうちを選んでくださっていますから、その責任はとても大きいし、プレッシャーもすごく感じています。

昔の僕と大きく違うのは、今は「お客様を楽しませたい」という気持ちしかないことです。
昔の僕はとにかく仕込みが大好きでそれに没頭していた時期がありました。江戸前寿司ができるその事だけに悦に浸ってしまっていた時期です。
それにのめり込むあまりお客様に対して横柄な態度をしていたのです。「おれが丹念に仕込みをした寿司をたべさせてやってるんだ」ぐらいの気持ちでいましたから、お客様にも当然それは伝わってしまいますよね。多方面で総スカン食らったり苦い思いもしました。
いま振り返れば若気の至りなのかもしれませんが…。

そんな自分が変われたのが海外での経験でした。お客様を楽しませることを常に意識したサービスと料理。
どれだけ美味しい料理を提供してもその時に嫌な気持ちになってしまうと、せっかくのその美味しい料理が無価値になってしまうという事を知りました。

それからです、自分の中でホスピタリティというのをものすごく意識するようになりました。
いまは料理や素材が良いのはもう自分にとっては当たり前ですから、それにプラスする形で、どう楽しんで貰えるのか、驚きを与えられるのか、店の空気感をどうやって作るのかを懸命に考えています。
たまたま一緒になったお客様同士の空気感も影響することなので、そんなところにも気を配りますね。

そこまで全力でやっているので営業が終わるとクタクタだし、プライベートでは一言も喋りたくない、電話も出たくないという風にもなるのですけど…
今日入ってる予約のお客様をどう楽しませようかと考え始めるとまたスイッチが入って「また今日もやろう」とテンションが上がってきます。

その日に予約して頂いているお客様の為に本当に捧げているので、そのお客様がお店で楽しんでもらえること、美味しいと言ってもらえること、それが本当にいまの僕の喜びだし、モチベーションになっていますね。

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