皿の上に留まらない食体験を届けていきたい

Sola Factory co.
吉武 広樹
Sola Factory co. 吉武 広樹

Sola Factory co. 吉武 広樹

■ジャンルに縛られない。学んできたのは自由なスタイル

料理人を目指したきっかけは、テレビ番組「料理の鉄人」をご覧になってとお聞きしたのですが、どんなところに影響を受けられたのでしょうか?

吉武氏:
番組を見ていたのは、小学生の頃。ですので明確な理由というよりも、ただただカッコいいと思っていたと思います。姉がパティシェをやっているので、昔から側で何かを作っていたのを見ていた経験もあるのかもしれませんが「料理の鉄人」を見て得た影響が一番大きいですね。

その後、「料理の鉄人」でも活躍された坂井宏之シェフ率いる「ラ・ロシェル」で修業を積まれていますが、そこで学ばれたことは?

吉武氏:
誰もがそうかもしれませんが、最初の修業時代は上の人に言われる通りに何もわからないまま修業していますよね。
自分自身何を得ていたのかその時は気づきませんでした。けれど今の自分を作っている大部分は「ラ・ロシェル」で得たことが生きている実感はあります。掃除の仕方から片付け、もちろん調理の基礎知識まで。
結局今も引っぱりだしてくるのは、そのときに学んだことが多い。その後に得たいろんな経験が上乗せされてカタチになっている気がしています。

上の人が手取り足取り教えてくれるわけでなく、姿を見て学ぶことの方が大きかった。なかでも、とりわけ学んだのは坂井シェフの「フランス料理はこうでなければいけない」といった縛りのない創作の姿勢です。中華料理の脇屋友詞さんからいい調理法を聞いたとすぐ店で実践したり、道場六三郎さんから教わった和食の技法を用いたり、普通のフレンチにはない自由なスタイル。それは今も自分の中で生きている気がします。

画像:店舗提供

■料理人はクリエイターであり、デザイナーである

海外での料理修業に飛び出されたきっかけは?

吉武氏:
食は世界どこに行っても必要なこと。その土地その土地に、日本にない食材や香辛料、調理法もあります。そういうものを知るだけでも自分の料理の幅になると考えていました。

それを使うかどうかは自分次第。ですが、世界を旅して知見を得られたことで、何かしら他の方には出来ない挑戦ができるのではと思っています。

海外は、中東など含め40数カ国まわりました。シェアハウスみたいなところをずっと転々として、その厨房とかレストランで料理をつくらせてもらって、その代りにタダで泊めてもらうといった旅のスタイル。料理人は料理がひとつのコミュニケーションツールになるので、世界中どこでも生きていけるっていうのは強いですね。

世界を旅して得た経験とは?

吉武氏:
世界を旅していると「日本ってどう?」と、聞かれることが多くあります。確かに日本は島国ということもあり、日常的に異文化にふれる機会が少ないような気がしています。
国同士が隣接している国では、自然と自分たちとは違う文化と触れ合う機会も多い。だからなのか、他の国のことを「知りたい」という思いが強い印象があります。日本にいたら知り得ない、そんな感覚を学べました。知見を広めるきっかけをつくるには、実際に海外に足を伸ばしてみるのが一番の近道になる。若い人やスタッフには、「もっと世界を見た方がいい」と話しています。

パリでお店を出された経緯は?

吉武氏:
パリで料理人は、クリエイターでありデザイナー的な存在で捉えられています。人種も多種多様で、料理のジャンルもたくさんあるのですが、求められるのは料理におけるクリエイティビティです。そんな中で自由に表現してみたいという思いがありました。

また、時代や今の世の中に必要とされることにとても敏感。そうした文化の在り方からもたくさんの刺激を受けました。

画像:店舗提供

■敢えて引き算の表現を。原点回帰で挑んだRED U-35

パリで「sola」を営まれている2014年、日本で開催されるRED U-35 2014にエントリー。見事グランプリ(レッドエッグ)を獲得されましたが、そこではどのような挑戦を試みられたのでしょうか?

吉武氏:
お客さまが何を求めているのか?時代の空気が何を求めているのか?まずテーマへのこだわりや、コンセプトを考えました。そこでたどり着いたのが「原点回帰」です。

料理人としての技術を全て注ぎ込むのではなく、素材を主役に敢えて引き算の表現に挑戦してみたんです。「原点回帰」に沿って、食材だけでなく、器から水まですべて故郷から取り寄せて使いました。

特に最終審査の食材で選んだイノシシは、地元では駆除の対象。料理人のチカラで、何かしらプラスのモノに持っていくことができないかという思いも込めた一皿でした。

※1:RED U-35
新時代の若き才能を発掘する日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35 (RYORININ’s EMERGING DREAM)」
RED U-35についての詳細はこちら

イノシシを使った一品

画像:RED U-35提供

■世界へつながる福岡の海辺から、飲食の新しいを生み出す

「Sola Factory co.」を九州・福岡に出店した理由は?

吉武氏:
これからの情報の中心は、インターネット。場所にこだわる必要はないと思いました。
また、料理人という職業をクリエイターと位置づけると、やっぱり料理人の個の時間の過ごし方も大切です。やはり表現のインスピレーションを得られるものは海や山、自然の景色であったりします。それを強く感じられる環境に身を置いた方が、自分の表現の幅が広がると思って福岡を選びました。

物件探しは海辺を中心に探しました。海辺ならどこでもいいわけではなく、こだわったのは活気のある場所。生きている港でした。海を見晴らせるのはやはり開放的ですし、いろんなところとつながっているのを感じます。こんなロケーションなら、食事をしながらの会話も夢が広がりそうですよね。

フランスで働いていると、同じアジア人というだけですごく仲良くなれたし一緒にがんばれた。近くには韓国からの船が就く港もあります。中国のクルーズ船などもやってきます。今の国際情勢をみると、日本と近隣諸国の関係は、いろいろ問題を抱えています。しかし、料理を通して国境や関係も超えてつながりを深めていきたいですね。

Sola Factory co. テラス席

Factoryという名にふさわしいかなり広いお店ですね。そのこだわりは?

吉武氏:
これから飲食業界は、どんどん変わっていくでしょう。レストランの在り方も大きく変化するはず。いろんな可能性を模索していくためにも、これくらいの規模感が必要でした。将来的には、お店に足を運べない方にも美味しいものを届けたいと考えています。そんな可能性を考えると、海辺にも空港にも、インターにも近く、流通にも特化できるのは魅力的な場所でした。

また、毎月のようにケータリングのイベントにも出店していますが、そこで蓄積されてきたノウハウや経験も今後の展開に活かしていきたいですね。

Sola Factory co. 吉武 広樹

スタッフのみなさんが、とても楽しそうに仕事しているのも印象的です。

吉武氏:
お客さまにも「すごく楽しそうに仕事しているね」という声はいただいています。
パリのお店から引き続き働いてくれているスタッフも多いです。
僕たちがやろうとしていることに場所はあまり関係なくて、先週、先々週は大阪のイベントに出店して、来週は東京みたいなスケジュールです。スタッフも福岡に住んでいる実感はないかもしれません。
パリの頃からイベントにはたくさん参加していましたが、その時はパリが拠点になっていました。それが今は福岡が拠点みたいな感じですね。仕事というより、同じ楽しみと目標を共有できる仲間です。

Sola Factory co. 吉武 広樹

吉武シェフご自身がこれから挑戦してみたいことは?

吉武氏:
いろいろあります。例えば、先日世界的な時計メーカーのイベントで、空間デザインや照明デザイナーの方と協働して食の場をつくらせてもらいました。

「Sola Factory co.」でもそうなのですが、料理はお皿の上だけがすべてじゃないと思っています。空間とかすべてを含めた食体験を提供したい。
それも、他では経験できないようなものを提供していきたいですね。

もう一つ挑戦したいのが、食に関するさまざまな課題を技術で解決したいということです。例えば、うちは港のすぐそばのロケーション。漁獲されても規格外であったり、傷があれば流通にのれなかったり、売れ残ったりする魚もあると聞いています。これは、農家さんでも同じことが言えるでしょう。そういった食材を「僕らの技術で何とか美味しいものに変えていけないだろうか」といったことを考えています。そのためには、手間と時間、そして今までにない技術も必要です。そんな挑戦のためにも、大きなキッチンや流通に特化した場所は必要でした。

また、当店で使用している薪は、2年前の福岡県朝倉で起きた水害によって発生した流木です。つまり災害ゴミとして捨てられる予定のものでした。これを薪として活用することで被災地に雇用を生み、その売上の一部は復興支援にあてられています。
捨てればただのゴミですが、僕らの技術で価値のないモノに、価値を与えられればと思っています。何一つマイナスにならないような試みを、料理人の手でつくっていければいいですね。

(聞き手・文:植村康子、写真:中西ゆき乃)

Sola Factory co.

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