「創意工夫」「試行錯誤」の先にたどり着けた“シンプル”

天麩羅 ひらいし
平石 貴之

天ぷらひらいし 平石貴之

■続くのはクラシック。アーティストでなく、技術を受け継げる職人でありたい

平石氏:
料理の面では、かが万の親方は伝統的というか、“飾り立てなくていい、シンプルが一番”というタイプだったので、逆に色々試したくなって凝った事をしようとしていました。
食べ歩きの際は対極にある店に行ってみたり…。
最近ならエスプーマという泡料理が話題になっていましたが、本家のエルブジというスペインのレストランでは、エスプーマは単に奇をてらったものでなく、酸味を抑えるために使われているとわかったんです。でも日本では、流行りだからとか、表面的な部分しか伝わっていなかったんですね。
振り返って、「自分が引退するまで飽きられずにできる料理って何や?」と考えたとき、結局クラシックなんちゃうかな~と。
なので、今は天麩羅も素材を組み合わせたり包んだりせず、シンプルに仕上げたいと思ってやっています。
そのかわり、今はやりの米粉を十数年前に試したり、油の配合を変えたり、そういう面では今も試行錯誤をしながらやっています。

試行錯誤に関連して、やはり天麩羅でも流行りすたりってあるんでしょうか?

平石氏:
もちろんありますね。流行りすたりに左右されるから、店が潰れるんですよ。そこで流行りすたりに左右されない店っていうのは、奇抜な料理をするアーティストではなく、名人、職人なんです。フレンチでもミシュランで三つ星を取っているポールボキューズは、やっぱり名人なんですよ。その人にしかできない料理じゃなく、ちゃんと伝えることができて、これができれば崩しはできるでしょ、というのが名人でありクラシックなんだと思います。
天麩羅で言えば、奇抜な創作、独自性を求めていくと、本来の天麩羅ができなくなってしまう。野菜に特化すると穴子の揚がりがゆるくなったりと、結局ほかに支障が出てきてしまいます。

ということは、修業されたかが万の考え方に戻られたということなんでしょうか?

平石氏:
かが万に限らず、何十年もやっている名人って、変わったことはしないんです。天麩羅屋は特にそうですね。
「人と同じことをやりたくない」と創作天ぷらに凝っていた時に、東京の有名店で「こんなんやってるんですけど」ってお話ししたことがあったんですが、「平石君、“これは後々まで残るよ”って言われるものが何か一つでもできた?」って聞かれて、「まずくはないんですが、“そこそこ”を出ないんですよね~」と答えたら、「海老やキスや穴子は、長い歴史の中で天ぷらに合うとされてきたんやから、それらを上手に揚げる方法を考えた方がいいよ」とポツっとひとこと言われたのが一番衝撃でしたね。
京都にある割烹のお店で、酢の物にフルーツを使ったりする創作的なことが得意なお店があるんですが、そこでも「食材の質を上回ることは、料理人にはできない。食材が悪いのに技法に凝っても何の意味もないよ」と言われましたね。

天ぷらひらいし 平石貴之

■お客様との関係も大切に

名物のフカヒレの天麩羅があるとお聞きしました。また、ワインと天麩羅という組み合わせはどのように生まれたのでしょうか?

平石氏:
フカヒレは、色々創作を試した中で唯一“残る”と思ったものです。ほんとうに一つだけなんですが、僕のオリジナルです。
きっかけは、週に何度も来てくれていた会社を経営しているお客さんなんですが…
「オープンしたばかりで大変やろ、お前のとこでしか食べれんものをつくれ。商売やから、ちゃんと利益が出る高級食材で、“これを食べにわざわざ来る”くらいインパクトがあるものじゃないとあかん」って言われたんですよ。
それで思い出したのが、フカヒレの天麩羅を作ったというホテルの話を聞いたことがあったので話してみたら、「それでやってみろ!」と。
そういうノリで試すことになったんですが、単純にはフカヒレを天麩羅にする事ってできないんですよ。揚がらないんです。
躓いていた僕にそのお客さんが「試作にかかる費用は出す!」となって(一同驚き!)
それで僕も後に引けなくなって、本気でふかひれ天麩羅を研究しました。
企業秘密で話はできないんですが、色々試した結果、うまく揚がる“秘訣”がわかったんです。
そうして生まれたのが、ひらいしのフカヒレ天麩羅です。

ワインは、全然興味がなかったんですが、天麩羅屋を任されて1,2年のころに友人に紹介されて赤坂の有名な天麩羅屋に行ったら、大きなワインセラーがあったんです。
そこで年配のご夫婦がワインを選んでる姿を見て、「かっこエエなぁ。いつかやろう」と思っていました。やっぱり料理もワインも本物を出したい、という思から、フランス産とドイツ産が多くなっています。
最近は日本酒も見直されてきているので、これから取り入れていこうかな、と思っています。

天ぷらはクラシックだけれど、時代に合わせて変わっていく部分もあるということですね。独立のきっかけや看板メニューの誕生にお客様が関わっておられるのも、平石さんの人徳なんじゃないでしょうか。

平石氏:
お客様には本当に恵まれています。新規の方でも「おいしいものを食べたい」と言って来られるお客様は続けて来てくださいますし。若い方が結婚記念日とか年に1回必ず来てくれたり、親御さんを連れて来てくれたりすると、本当にうれしいです。やっぱり「ミシュランに載っているから」ではなく、「あいつの天麩羅を食べてみたい」という方に来ていただきたいですね。

さて、7年連続ミシュラン星獲得というのは本当に難しいと思うんですが、やっぱりうれしかったですか?

平石氏:
フレンチ志望でしたしミシュランが日本でも出るらしいと聞いたときは興味は持ったものの、関西版が出た年もまだ独立して1年で知名度もなかったので、他人事だったんですが。そしたら、その3か月後に「掲載されるかはわかりませんが、候補に挙がっています」という電話がかかってきたんです。
学校の研修旅行や新婚旅行でも本国の星付きのレストランに何軒も行ってその実力を知っていたので、最初は正直言って、「えー、どうしよ…」という星付きになるプレッシャーの気持ちが強かったです。
掲載後には、本社の社長さんも来日時に調査と関係なく食べに来てくれたのですが、驚きました。

天ぷらひらいし 平石貴之

天麩羅 ひらいし

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