日本の伝統文化の魅力を知るきっかけになる、「種」を生める場所でありたい

日本料理 柏屋
松尾 英明

日本料理柏屋

■大事なのは、明確なイメージ。ゴールが見えない仕事に成功はない。

 松尾さんご自身も色んな気付きを得ながら、研鑽を続けておられるわけですが、若い料理人が技術を磨く上でのアドバイスはありますか。

松尾氏:
目標が見えないまま闇雲に試すのはありえない、ということです。例えば、若い子に簡単な親子丼を作りなさいというと、手順通りに、玉葱を剥いて、切って、出汁を合わせて、卵を溶いて…と進める。すると卵はぼそぼそ、鶏も固い。当然です。行き当たりばったりで、ゴールが見えない仕事をしているから。

ほわぁっと湯気が立って、鶏もぷりっとして、卵も半熟のところがあって…その完成形を明確にイメージできていたら、そこに至るまでの、鶏の包丁の入れ方や卵を入れるタイミングを綿密に計画できる。料理に限らずどんな物事もそうです。

最終的な終着点をどれだけイメージできるか。そこが到達できる最高地点ですよね。

おもてなしについても、そうです。「柏屋」は基本的にコース仕立てですが、一品目から最後まですべて、それぞれの料理を前にどんな会話が展開していくか、お客さまが何を思ってお帰りになられるか、具体的にイメージができています。それに向かって何を準備するか、どう工夫するかを常に考えていますね。

日本料理柏屋 松尾英明

■一緒に店の未来を見据えてくれるスタッフを育てることが大事

2015年に出店された香港支店を任された方は「柏屋」で20年、現在の本店の料理長も17年と長く勤めてきた方だそうですね。何か秘訣はあるのでしょうか。

松尾氏:
長く勤めてくれる子たちは、今振り返れば、コミュニケーションを頻繁にとっていたと思いますね。当時、バブル崩壊後に予約の無い日が続いた時に、一緒に美術館や工芸品の展示会にいったり、私が目指したいことをたくさん共有してきたと思います。

オープンから十数年経った頃、従業員の給与や労働条件をしっかり改善するためにも、これから規模を拡大すべきか他の方法を模索すべきか、転換期を迎えた時がありました。彼らにも想い描く未来があるので、独立を考えているなら支援すると伝えました。その上で、もし柏屋という集団として僕が描く店を共に目指してくれるなら、私もそちらに舵を切って頑張りたいと。そこで「一緒にやっていきましょう」と言ってくれたので、香港への出店も決意できましたし、2016年の2月に行なった、5室から7室へ増築する改装にも踏み切れた。需要に応えるまま闇雲に拡大するのではなく、3年後、5年後のことを考えて、従業員と一緒に歩む姿勢が大事だと思いますね。

コミュニケーションの量は一つのポイントだと思います。例えば今行なっている取り組みの一つが、私が書いた献立を、厨房スタッフに試作してもらって、それを一緒に食べながら、一品に込められた意味合いや日本のならわしとの関わり、器選びの意図などをみんなで語りながら、理解を深めるものです。これを継続的に1年2年と続けるうちに、何か料理やサービスをする上での核みたいなものが、生まれてくれるんじゃないかと思っています。

「集団」として同じ方向を目指す、というのが大事なのですね。採用や教育面では、どの飲食店さんも永遠の課題です。

松尾氏:
調理場も難しいですが、それ以上に厳しいのがサービスの方です。特に私の店は、コースの中に日本の伝統的な文化、美意識、心を織り込み、料理として表現することに重きを置いていますから、それをお客さまに伝えるサービススタッフの存在は、店の要とも言うべき大事な存在です。私たちの若いころは老舗の料亭には「名物の仲居さん」がいて、もてなしの技術や作法、知識、日本文化への深い理解のあるプロフェッショナルな職業、一つの生業として認知されていました。今は位置づけが非常にあいまいです。

確かにフレンチなどはソムリエの登場で、サービスの「プロ」としての認知が高いように思います。和食の世界も同じのはずですよね。

松尾氏:
ソムリエの方が店を出す、なんて話題になることもあります。ワインの深い知識が生かされた料理やサービスが一種のブランドになるわけです。

それと同じように「柏屋」で10年15年サービスを磨いてきた方が、自分の表現したいもてなしを一緒に実現してくれる料理人と、店を開いたりして。「あの、柏屋のサービス出身の子が店を出したみたいだから行こう」って、そんな時代が作れたらおもしろいなと。サービススタッフの地位が高まる新しいキャリアの地盤を整えていきたいですね。

飲食業の人材事情を日々見ている身としては、非常に共感するお話です。素晴らしい考えですね。今後のさらなる夢はありますか。

松尾氏:
日本人が1000年以上の歴史の中で育んできた、自然への畏敬の想いや心遣い、それに基づく行事やならわしなど、そういったものを織り込んだ料理を通じて、日本の文化を感じて欲しい。それは、今やあまり伝統文化に触れることのない日本の若い方に向けてもそうですし、外国の方に向けても日本の良さを知る上で、入口になるような場所にしたいなと思っています。

お店での食事を通じて、日本の文化に触れ、そこから興味が広がって、日本の良さや魅力に気付く種のようなものをお客さまに持って帰ってもらえたら。外国からの友人に、「日本を楽しむには、どこがおすすめ?」と聞かれ、「柏屋に一度行ってみなさい」と言われるような、そんな存在になっていきたいですね。

(聞き手:齋藤 理、文:田中 智子、写真:逢坂 憲吾)

日本料理柏屋 内観

日本料理 柏屋

お問い合わせ
06-6386-2234
アクセス
〒565-0851 吹田市千里山西2-5-18
大阪市営地下鉄御堂筋線「江坂駅」北口からタクシーで5分
阪急「千里山駅」西改札よりタクシーで5分
営業時間
12:00-13:30(最終入店)
夜18:00-20:00(最終入店)  
定休日
不定休
求人情報
柏屋