日本の伝統文化の魅力を知るきっかけになる、「種」を生める場所でありたい

日本料理 柏屋
松尾 英明

日本料理柏屋 松尾英明

■理想と現実のギャップを乗り越えさせてくれた、師の言葉

 料理の道に入られた経緯として、日本文化の伝統が息づく総合的なおもてなしをしたいという思いがあったわけですが理想と現実のギャップはありましたか?

松尾氏:
差はすごくありましたね。でもこれは、若い料理人は皆、感じることだと思います。「こんな毎日しんどくて、自分のやりたいことができる日がくるのかな」と。その時に支えられたのが、茶の師匠からいただいた言葉です。「急ぐことはない。朝起きて夜寝るまでの間に1個でも2個でも何か掴めたものがあったなら、良い。それでも、気付いたら案外たくさんのことができているものだよ」と。そこを焦って、「全然進まない」と投げ出してしまうと、成長が止まる。着実に1歩でもいいから進みなさいと。

その後、理想の店への実現まで、どのように歩んでいかれたのですか?

松尾氏:
父の店に戻ってきて4年目の夏、ヘルプに入られていた料理長も8月末で独立されることになったので、そのタイミングで、「僕が料理長をする」と申し出ました。帰ってきてからの4年間で、むくむくと「自分ならこんな店をやりたい、こんな料理を出したい」という気持ちが湧きあがっていたので。「きっと今以上に、お客さんが喜んでくれるものを作れる自信が自分にはあるから、任せてくれと」と言って、若いスタッフを入れ始めたんです。

その際、父が「いっそのこと建て替えよう」と話が出て、数寄屋建築の名匠・中村利則氏に依頼し、広い座敷と茶室を有するほぼ現在と同じ形となったのです。建て替え中は、「招福楼」時代の師匠に無給で良いのでとお願いにあがり、店を手伝わせてもらいました。自分なりに色んな経験を重ねた後に、由緒ある掛け軸や香炉が置かれた「本物」の空間に触れ、改めて自分が目指したい料理やサービススタイルのイメージが明確になりました。

日本料理柏屋 内観

■バブル崩壊後、価格競争へ突入。「柏屋」が舵を切った方向とは。

いよいよ松尾さんが思い描いた店のオープン。客足は、順調だったのですか?

松尾氏:
ちょうどバブルがはじけた頃で、天井知らずの高級店が軒並み低価格競争へと突入しました。ホテルなどのコース料理の店も、1万円以上がスタンダードだったのが、2980円、3980円のラインが出てきて。厳しい時代でしたね。

当店も客足が減り、1週間の半分はお客さまが誰も来ないという時期もありました。リーズナブル路線も取り入れるかという意見は出たのですが、市内から少し外れたこの場所でしょう? 価格勝負に入るのは厳しいと判断して、うちの店でしか味わえない、体験できないことを提供していこうと。例えばコースの最後にお出しするデザートも手作りにするなど、喜んでいただける趣向を盛り込むようにしていきました。

当時はワンコインランチが出始めた頃で、500円玉でお腹いっぱいになれるわけです。私たちの店はその何十倍、あるいは何百倍近い金額をお支払いいただいて、何を持って帰ってもらうのか? お腹が満たされた、おいしかった、珍しいものを食べた、とかそれだけではいけない。心地の良い空間や幸福感、また来たいと思える「余韻」を感じてもらわないといけないと思ったんです。

お客さまの「また来たい」を生むのは、どの飲食店も永遠の課題だと思います。

松尾氏:
その実現において、究極的に何が大事かというと、「相手に合わせること」です。これは言いなりになるという意味ではありません。お客さまは何を望んでいるのかを推察し、自分が打てる手をいかに出すか。料理を作る時もそうです。

例えば、毎日芋を焚いていると、火の通りの良い芋と悪い芋がだんだん分かるようになってくる。この芋は前にもあった固いやつだ、お前は早めに湯がいてあげた方がいいなとか。未熟な頃って、お湯が湧き出してから何分とか、数字で覚えようとしがちですが、それはあくまで目安です。芋の状態を見極めてなければ、ベストな焚き方はできない。

うちでは料理のレシピを基本的にスタッフに全部公開しますが、これは目安であって正解じゃないよと伝えています。そこが早く見えるようにならないといけない。接客も料理も、その状況や場面を見てベストが何か探ることが大切なんです。それを見過ごす人があまりに多い。「指示通りやったのに同じ味ができない、これは自分のせいじゃない」で終わってしまいがちですが、絶対にどこか原因があるはずなんですよね。

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