「料理をもっと知りたい」の一心で、たどり着いた「今」

Ta Vie(旅)
佐藤 秀明
Ta Vie(旅)佐藤秀明

Ta Vie(旅)佐藤秀明

■「人生の選択肢に料理人はなかった」

子どもの頃から、料理人になりたいと思っていたのですか?

佐藤氏:
いえ、むしろ自分の人生の選択に料理人はないと思っていたほうです。とにかく好き嫌いの多い子供で、玉ねぎ、人参、豚肉も嫌い、野菜はほとんど食べなかった。母は大変だったと思います。今、いらっしゃるお客様の中に、食事制限がとても多い方もいらっしゃると、昔の自分のようだな、と思う時があります。私の場合はアレルギーなどではなく、ただ嫌いだっただけなのですが。

そんな時代があったんですね。その好き嫌いが治ったきっかけがあったのでしょうか。

佐藤氏:
レストランでアルバイトをするようになって、賄いを食べていたら自然に食べられるようになりました。賄いは残すわけにいかない、という思いが強かったのかもしれません。実際、大人になって食べてみて、ただの食べず嫌いだったのだ、と気づいた食材もありましたね。

ご出身は、長野市でしたね。どんなお子さんだったのですか?

佐藤氏:
はい、でも長野市の山の方なんです、だから、就学前の頃はカブトムシ、クワガタ捕りに熱中していました。朝早く起きないと他の人に捕られてしまうから、朝4時に起きて、一人で4~5キロも山の中を歩きまわって捕まえるんです。

今考えると、まだ暗い時間帯で崖もあったりする山道ですから、小さかったのに危ないことをしていたと思いますね。4歳年上の兄がいたのですが、兄はそんなに興味がなくて、一人で夢中になってやってました。

そんな風に、何かに夢中になると、他のことを忘れて熱中するタイプで、小学校に上がると虫捕りがサッカーに変わりました。早起きが得意だったので、朝練習がしたくて、何があるわけでもないのに、校門が開く前に行って、開くのを待っていました。それに、誰もいない静かなグランドや校舎というのが、なんだか好きでしたね。

カブトムシを捕りに、誰もいない山に入っていったのとも似ていますね。

佐藤氏:
そうかもしれません。今も厨房に一番最初に入って、誰もいない所に足を踏み入れて働き始めるのが気持ちいい。その場の空気を自分で作るというか。白いキャンバスから始めるのが好きなのですね、きっと。

サッカーの経験が今に生きていると思うことはありますか?

佐藤氏:
小・中学校はずっとサッカー漬けだったのですが、サッカーで学んだ事は視野の広さです。厨房でもどこが手薄になっているとか、視野が広くないといけないというのはサッカーと同じです。当時はサッカー選手になりたかったのですが、高校に行って、それ以上、上にいける自信がなかったので、サッカーはやめてしまいました。

Ta Vie(旅)佐藤秀明

■サッカー選手、ファッションデザイナー、小説家。辿った道筋が今につながる

佐藤氏:
そこから進路に迷い始めて、次の夢は、ファッションデザイナーになることでした。高校生の時には、テレビ番組「ファッション通信」で、パリコレを見たりしていましたね。

今はファッション自体を楽しむ余裕はないのですが、レストランの仕事と重ね合わせることもあります。ファッションには時代のトレンドがありますが、一方で、色の組み合わせ、人の好きな形などの、基本的な路線は実は変わらない。

料理の世界も同じです。流行があって、はやりの盛り方切り方というのがありますが、盛り付けや見た目は変わっても根本的な色合わせとか食材の組み合わせに、そんなに突拍子のないものは生まれない。

例えば、鴨に対するソースや付け合わせが、流行に左右されて昔と大きく変わるものではない。そんなところは料理もファッションも似ていると思います。ですから、ファッションと同じように、料理も、流行の部分と普遍の部分というふた通りの見方をしますね。

でも、ファッションは、みんながオシャレに興味がある年頃になってきたら逆に飽きてしまいまして。長野ですから、オートクチュールを買ったり見たりできる環境にはなくて、次第に興味がなくなっていきました。

次の夢は、小説家になること。18歳くらいまで、実は全く本を読んでいなかったんです。読書の時間も国語も嫌いで、読めない漢字もたくさんありました。しかし、高校の国語の授業で、衝撃的な出会いがありました。

中島敦の「山月記」が教科書に載っていて、読んですごく衝撃を受けたんです。良い本というのは、自分の事を汲み取ってくれている気がするものだと思うのですが、「自尊心を温めすぎた男が虎になってしまう」という話が、まるで自分のことを言われているような気がしたのです。

そこから「人の心を表現するのは魅力的だ」と思って文学に傾倒し、3年くらい本を読み漁っていました。ものを書くというのは素材がいらない、文字だけで世界を構築していけるのはすごいな、と思いました。

文学だけではなく批評も読んで、一つの事象に関しての見方は養われましたし、ものを考える癖がつきました。何かを客観的に見たり、思考の仕方も勉強になりました。

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