60歳にして京大でMBAを取得した、異色の料理人。 あらゆる人の心に栄養を。それがたとえ終末の人であろうと

梁山泊
橋本 憲一

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■芝居三昧の毎日から料理の道へ

とてもステキな空間ですね。橋本さんが料理人を志されたきっかけを教えてください。

橋本氏:
ここは私の生家なんです。22年前、これから外国人客が増えるだろうと、土と木と紙とで作る、純和風の家に建て替えたんです。素人だった嫁さんが10年勉強して設計して、僕が配線段取りなんかを考えたり、行程表を作ったり、業者に相見積もりをとって発注してつくりました。

料理人になったきっかけ、でしたね。僕は鹿児島大学で食品工学を学んでいたんですが、いわゆるアングラ演劇にハマって役者や演出をしていたんです。芝居をやりながら、土本典昭さんの水俣病の上映運動なんかをやっていた。そこで、動員数をものすごく成功させたから、当時鹿児島に来ていた東京の黒テント(※1)からスタッフとしてスカウトされたんです。その気は無かったんだけど、コピーライターにならなりたいと言ったら、「ツテはいろいろあるよ」と調子のいいことを言われて、だまされた(笑)。それで、上京しました。

ところが、母親が病気になった。僕が大学に籍を置きながら、東京に行ったりしたものだから、心労もあったんでしょうね。僕も責任を感じていたし、京都に帰ることにしたんです。

「さて、何をしようか」と思ったときに、責任は自分で持たないといけないけれど、自分の好きなように生きていきたいなぁと考えて、「商売がいいんじゃないか」と思いついて。じゃあ、どんな商売にするか。

もともと食べることが大好きだったし、高校時代から母親に祇園の割烹に連れてもらって「板場ってカッコええな」と憧れをもっていた。ならば、ここで飲食店をしようと決めました。それに、料理をすれば、一番旨いもんが集まって来ると思ってね。でもまさか、こんなに長く続けると思ってなかったですね。料理なんて、なにもできなかったからね。

※1…黒いテントで旅公演を行う劇団であったためその名が付いた劇団。60年代後半~70年代前半のアングラ演劇ブームを代表する存在

数年の間に、京都から鹿児島、そして東京と移られてまた京都と、激動だったんですね。

橋本氏:
そうなんです。大学紛争もあったし、その影響もあって、店の名前も『水滸伝』にちなんで、常識にとらわれない・最後まで現役で生きることができる場所にしたいという思いを込めて『梁山泊』とつけたんですよ。今思うと派手な名前ですよね。反骨の時代でした。

それで、玄関と応接間は芝居時代の経験から自分で改造した。庭は昔からのつきあいの庭師をくどいて手伝わせた。「うちの親に世話になったよな?」って言ってね(笑)。それで、1ヶ月後には店をオープンしていましたね。1973年、24歳のときでした。

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■クリエイティビティを大切に、独学で京料理店を経営

料理の道に入ると決めて1ヶ月でオープンですか!?その間に料理の修行をされたんでしょうか?

橋本氏:
いえいえ、僕は料理屋での修業はしてないんですよ。何もできなかったんだけど、姉が料理上手で、僕は出汁の味を付けるのだけは上手だったので、おでんからやろう、となった。最初はおでん屋だったんです。

3ヶ月くらいすると、近所の魚屋から「おまえ魚のおろし方もしらんのか」と煽られて。魚も使うようになった。おろし方を教えてもらいながら、魚も仕入れるようになったんです。おでんは辞めてね。ただ、言われたとおりに魚を仕入れていたら、さっぱり儲からない。実は相場よりもかなり高かったんだよね。騙された、と思って今度は錦市場(京都府)の魚屋に移って。そこではフグの捌き方まで教わって、フグ処理師の免許も取った。10年もすると、丸山さんという元漁師の行商の魚屋に出会った。それで、錦市場にもない、うまい魚を探すために漁船に乗った。そうやって学んでいきました。野菜や酒の勉強もそんな感じですね。

料理店での修業はせず、お店をしながら魚屋に通って勉強されたとは驚きです。その頃から卸業者や生産者とのお付き合いを大切にされていたんですか?

橋本氏:
そうですね、それが手っ取り早いと思ったんです。芝居をしていたせいか、専門的な料理屋や学校で教わる知識は常識は作るが、実はクリエイティビティの邪魔や、という考えがあった。自分のやり方でやりたいと。

加えて、大学で食品工学を学んでいて、タンパク質がどう変化するか、アミノ酸の変移とか、食品の製造工程についての知識は持っていた。化学的な知識ついては、料理学校の先生に負けない知識はあるだろう、という自負はありました。

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