自分の好きなことを仕事にし謙虚でいること。そうすれば何でも習得できます

Le Bernardin(ル・ベルナルディン)
Eric Ripert(エリック・リパート)

Eric Ripert Le Bernardin(ル・ベルナルディン)

■違うスタイルを学びにアメリカへ

1989年にアメリカのレストランに転職しましたね。きっかけは何だったのですか。

リパート氏:
ジャミンのロブション氏が、いい仕事があるから修業に行って、違うスタイルを学んできたらと提案してくださったのです。当時独身で身軽に動けたので、このタイミングを逃す手はないと二つ返事でOKしました。転職先は、ワシントンD.C.のザ・ウォーターゲイトホテルにあるジョン・ル・パラディン(Jean Louis Palladin)でした。

そこで2年働き、次にニューヨークの友人、ブーレー(Bouley)のデービッド・ブーレー氏から声がかかりました。ニューヨークは好きな街だったし、デービッドのクッキングスタイルにも興味があったので、「もちろん!」と二つ返事で話を受けました。

1991年、ル・ベルナルディンに就職しましたね。また声がかかったのですか?

リパート氏:
創業者の一人、ジルバー・ル・コーズ氏から声をかけていただき、また「はい、もちろん!」となりました。いつも新しい機会やチャンスが向こうからやって来てくれたので、とてもラッキーだったと思います。

Eric Ripert Le Bernardin(ル・ベルナルディン)

■コツコツ努力して働いたら、ある日星のチャンスが到来した

1994年にエグゼクティブ・シェフに昇進し、コーズ氏他界後の1996年に共同経営者に就任しましたね。以降、星や賞を取り続け、特にミシュランガイドでは11年間、三つ星から転落したことはありません。星を獲得し保持するための秘訣は何でしょうか。

リパート氏:
星について忘れることです(笑)。そして今、目の前にある仕事にフォーカスし一生懸命に働くのです。私がいつも考えていることは星や賞についてではなく、キッチンでやるべきことについてです。そしてコツコツ努力して働いてきた結果、ある日星のチャンスが到来したというだけです。私の持論は、何かに固執している限り、それは叶えられません。

お金や富についても同じです。大金持ちなのに幸せではない人をたくさん見てきたから言えることですが、お金は生活にある程度必要ですが、お金=幸せではありません。それより謙虚でいつもいい笑顔の人、そういう人は幸せだと思います。私は若い頃「いかに学べるか」が重要だったので、お金や給料面について一度も考えたことがありませんでした。今はもっと稼ごうと思えば稼げるのかもしれませんが、必要以上の富を得ることに興味はありません。自分を失っては元も子もないですから。何ごともバランスが必要です。

では星を落とさないようにしなければというプレッシャーも特にないということでしょうか。

リパート氏:
プレッシャーは感じません。賞をいただくことは嬉しいことですし感謝もしています。受賞した日はシャンパンを飲みながらお祝いをします。でも賞がなかったとしても私は十分幸せですから大丈夫です。大切なことは、自分が好きなことをしているか、ということです。人は好きなことをやっている以上幸せで、プレッシャーなどを感じません。

2018年のミシュラン三つ星を受賞したときの様子が、Instagramにアップされている。

これまでの人生でもっとも困難だったことは何でしょうか?

リパート氏:
どのシェフも最初から高度な技術を持っているわけではありません。ナイフの使い方にしてもプロのシェフにとっては簡単でも、修業中は何度も自分の指を切ったりします。修業中は、ここで説明できないくらい困難なことがたくさんたくさんありました。

また若いときは、現実の自分とよい人になりたい願望がある自分のはざまでも揺れて苦労しました。以前の私はキレやすく、簡単に機嫌が悪くなるような性格でした。でもある日気づきました。私がイライラしている限り私は幸せじゃないし、周囲の人も幸せじゃないと。怒りと幸せは共存しないし、怒りから幸せは生まれないと。自己管理がきちんとできるようになりたいと思いました。自分にとって大きなチャレンジでしたね。そして仏教の教えと出会いました。まずは本を読んで勉強をはじめました。クラスを取ったり、先生に家に来ていただいたりして勉強は続けています。ダライ・ラマにも何度か会いましたよ。人生のガイドとして、仏教の教えにいつも助けられています。

仏教や哲学を勉強するのは、ベストマン(最高の男)になるためです。毎朝起きたら、今日も命があることに感謝し、「よりよくなるための機会を今日も与えてくれてありがとう」と感謝します。そして帰宅後、毎晩自分自身に問いかけます。「今日1日いい仕事ができたか?明日はもっとよりよくできるか?」ってね。私は今も学びの過程ですし、死ぬまで勉強です。学ぶことがなくなったら人生終わりです。

シティハーベスト(※4)の副会長として社会貢献したり、自身のメモワールの本『32ヨークス』やレシピ本を出版したり、テレビ番組『アベック・エリック』に出演したりとさまざまなことをされていますが、次にチャレンジしたいことは何でしょうか。

リパート氏:
私の挑戦はシンプルです。同じことをしているけど、毎日よりよくする、ということです。人生のゴールも、この世を離れるときに、人生が輝いたものになっていて、可能な限りベストマンに近づくことです。それを達成するためにはもしかして10回命が必要かもしれません(笑)。しかし私はいずれそれが達成できると信じています。

※4:
シティハーベスト(City Harvest)
ニューヨーク市にある非営利団体。食の救済や、食べ物を必要としている人々への供給などを行なっている。

メニューではずいぶん前から、近大マグロや和牛、出汁、ワサビ、ユズといった日本の食材をよく利用して、フランス料理にうまく融合させていますね。

リパート氏:
旅行が好きで、違う文化から学んだことを、店やメニュー作りに生かしています。今秋も東京、金沢、福井などを訪れ、人々と交流しながら、手作り包丁などのクラフトマンシップを見学したり、鮮魚市場、和菓子会社、酒蔵を訪問したり、そば打ち体験をしたり、緑茶をいただいたり、とても勉強になる10日間を過ごしました。また、寺院や旅館など日本の文化からも毎回刺激を受けます。

Eric Ripert Le Bernardin(ル・ベルナルディン)Instagram

最後に、成功するための秘訣をFoodionの読者にシェアしていただけますでしょうか。

リパート氏:
自分の好きなことを仕事にすることです。そして一生懸命に働いてください。おごらず謙虚であることも大切です。謙虚な姿勢で興味を持つことができれば、何でも習得できます。一人でできることはたかが知れているので、何かを成し遂げたければチームで動くとよいです。チームワークの場合、協調性は大切です。私が一緒に働きたいと思う人は、私と働きたい人です(笑)。また刺激を与えてくれて、自分とは違うことをしている人で、その知識を私とシェアしたいと思ってくれる人です。

(聞き手・文:安部かすみ、人物・外観写真:中村郷、料理・店内写真:ダニエル・クリーガー)

Eric Ripert Le Bernardin(ル・ベルナルディン)盛り付けBaked Striped Bass; Spaghetti Squash and Green Papaya Salad, Ginger-Red Wine Sauce 2017 (C) Daniel Krieger

Eric Ripert Le Bernardin(ル・ベルナルディン)料理Kampachi Sashimi; Crushed Niçoise Olives, “Greek Salad” 2017 (C) Daniel Krieger

Eric Ripert Le Bernardin(ル・ベルナルディン)内観(C) Daniel Krieger

Eric Ripert Le Bernardin(ル・ベルナルディン)外観

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