「向いていない」を言い訳にせず、自分で決めた道を信じて進む

PONTE VECCHIO(ポンテ ベッキオ)
山根 大助

PONTE VECCHIO(ポンテ ベッキオ)料理写真提供:ポンテベッキオ

■料理人は、これまでの総決算の意味を持つ本を、自費でも作るべき。

当時と今で、ご自身の料理や考えに変化はありますか?

山根氏:
もちろん料理の腕は着実に上がっていますけどね、根っこの考え方みたいなのは変わってないかな。

今日も講習会をしてきたところなんですが、こうした発信するたびに自分の考え方がまとまっていく。講演だけでなく本を作るのも大好きです。自著も3冊ぐらい出してます。

本って、ここまでやって来たことの総決算で、自分の理論も語れるし、教科書代わりにも配れる。だから、料理人はみんな、自費でも本を作るべき、というのが僕の考え。

できるだけたくさんの人の手に渡るようにしたいので、販売価格を下げられるように、いつも数千部は自分で買い取るようにしていますよ。売値を500円でも1000円でも下げたいでしょう。

2000部ぐらいなら、周りで買ってくれる方もいるし、配ってもいい。海外のワイナリーの方とかには、サインして差し上げるようにしています。

海外でコネクションを広げようと思えば、本は武器になります。日本とは、少し位置づけが違うかもしれない。日本の料理専門誌やレシピ本って本当に安いと思いますよ。料理の理論や考え方、写真がまとめられたものを、3000円とか4000円で買えるなんて。

フランスなどでは料理の本は、ギフトに用いられるような嗜好品で、高級品ですよね。

山根氏:
そうなんです。料理本というのは、決して生涯の自分の考えをまとめた自叙伝ではない。料理の理論を、しっかりまとめて発表するものであり、名刺代わりなのです。

海外で自己紹介する時に、日本でイタリアンやってるやつが来たと言われても「そうかぁ」で終わり。でも本を持って、こんな料理をやってる見せたら、印象に残るし分かりやすいでしょう。自分が何をやっているか見せる時に、本は一発で伝わります。

出版にはそうした意味も込められているんですね。

PONTE VECCHIO(ポンテ ベッキオ)山根大助

■志向が異なる若いスタッフたちが、モチベーションを維持して続けられる仕組み作り。

料理だけでなく、器具の開発や本の出版など、山根さんは非常にエネルギッシュにさまざまなことをプロデュースされています。そのエネルギーはどこからくるのでしょうか?

山根氏:
いい時代に育ったのかもしれない。僕は小さい頃、決して裕福ではなかった。

だけど高度経済成長期がきて、万博があって。小学校3、4年生の時でしたが、カルチャーショックでした。白人も黒人も、テレビや漫画の世界でしか見たことなかった人たちがやってくる。動く歩道だとか自動車だとか、未来を予感させる博覧会で、クラス全員が毎日のように万博の話題。

直近では、アポロ11号が初めて月面着陸して、クラスに5人ぐらいは「将来は宇宙飛行士になる」って息巻いている。自分が大人になる頃には、車は空を飛んでいるはずだ!そんな未来がすぐそこにある。経済もずっと右肩あがりで、日本はこれからどんどん豊かになると。将来商売をやって、失敗するなんて思いもよらない。エネルギーが渦を巻いていた時代でした。

今の時代はある意味、真逆ですよね。そんな中で、料理人を目指す若い方をどのように一人前に育てるか、あるいは定着させるのか、多くの店が悩んでいます。様々な名料理人を輩出されている「ポンテベッキオ」ではいかがでしょうか?

山根氏:
ものすごく難しいですよね。今でもみんな独立志向が強いので、最終的に辞めていく人間も多い。出ていくのは仕方ないし、出て行ったとしても親分として可愛がりたい。うちも、30周年パーティをしたら弟子が100人ぐらい集まってくれて、それはとても嬉しいこと。

でも本音を言うと、今いる大事な子たちは辞めて欲しくない。人材を輩出しているとおっしゃいますが、自分のところから人が離れていくのは、怖いんですよ。ただ、独立を歓迎して、どんどん辞めて好きなことをしろという風にしないといけないんでしょう。

でもね、独立だけでなく、多業態を展開して、その人のタイプに応じた道を選べる仕組みを整えていくことも大事だと思うのです。

本店のような格式高い位置付けの店と、西梅田店のような大型店舗、ルクアの「エキ・ポンテベッキオ」のような手頃でカジュアルなイタリアン…そういう店のジャンルによって、働く人のタイプって全く変えられる。アルバイト中心の店もあるでしょう。

今構想を練っているのが、「Dメン(仮称)」、ラーメンのお店。スープを作る装置から冷やして収納する設備まで、ほぼ完成しています。

あとは、「Dステーキ(仮称)」。その店用に、肉の繊維に沿ってカットして柔らかいステーキを楽しめる「Dカッター」を開発したりもしています。時間と体力を使っておいしいものを作るんではなくて、器具やシステムなど仕組み作りに知恵を絞って、手間はシンプルだけど、それがめちゃくちゃおいしい、という店をやりたいんです。

そんな風にして、多様な業態を作っていきたいですね。

時代の顧客ニーズ、人材育成の両面を考えて、いろんな業態に挑戦されるんですね。ちなみに、「D」は何の略なんでしょう?

山根氏:
「大助」のDですよ!(笑)。

それはともかく、今までは本店だけがあればよかったけども、マーケットも変わってきている。広い場所でなく、小規模なお店で食べたい人たちも増えてきているし、食事に使うお金への考え方だって変わってきている。本店は、料理の内容も、設備も、他の店と比べて負けているところはないんだけど、それだけでは難しい時代になってきている。多様になってきているんです。

この本店は僕の中心であって、スタッフのスキルアップとかモチベーションを上げたり、各店舗のための料理開発をする場所だから、ここは必要。でも、それだけではなく、多角的にニーズに応えていかなければならない。

だから、これまでのノウハウを生かして、誰が焼いてもジューシーに焼けるロースターだったり、柔らかい肉を焼けるカッターだったり。簡単に使えるけど非常に高度な料理ができる、楽しそうに笑いながら働ける、そういう店も必要だなぁと思って、別のお店を開いています。

一般的なアルバイトの子に、「料理を極めるために頑張れ」と言っても、そういう気持ちがないと、しんどいばかり。もちろん、笑いながら料理するなんてもってのほか、という子もいますから、いろんなタイプに応じて選べる道を用意していきたいなと。

昔ながらの職人指向の人が減っている中で、今の若い人が続けやすい店や場を、山根シェフならではの発想で生み出しているんですね。

山根氏:
僕も、少し前まで、イタリアンやリストランテという形式にものすごく執着がありました。でも、それを外してみたら、毎日のようにいろんな発想が湧いてくるんです。今はそれが面白い。

「Dメン」は友人がラーメン屋で成功しているのに触発されて。負けたくないから、スープの作り方を僕らイタリアンの理論でやってやろうかなと考えた。旨み成分の複合から発想してね。

例えば圧力をかけて骨を一旦柔らかくして煮出してスープを作るとか。従来のラーメン屋さんでは考えつかないことができたら、勝てるんじゃないかと。ただ、一番難しいのは、それを誰がやるのかってこと。

確かにポンテベッキオのイタリアンを目指して入ってきた方が、ラーメンを作りたいとは思わないかもしれません。

山根氏:
そうです。だから、今考えているのは、スープ工房を作ること。その工房での仕事を各店舗のスタッフがローテーションで回していく。

スープの仕込みというのは、彼らにとって決して嫌な仕事ではない。毎日スープを作ってますからね。ラーメン自体は別のスタッフを雇います。

働いている人もいろんな形でチャレンジができると、飽きずに働けるかもしれませんね。

山根氏:
そう、楽しいんですよ。今も外販用の釜焼き冷凍ピッツァを、みんなで作っています。

各店舗から一人ずつ、2週間に1回ぐらいピッツァ制作チームを編成してね。週に2、3日工房で一気に焼く日を作る。

そうすると全体で採算も合いますし、みんなにとっても月に1回ぐらいだったら気分転換になっていいんです。ずっとそのラボでピッツァを毎日作っていたら嫌で辞めてしまうでしょうけど、こんな形なら良い効果も生まれる。

30周年を迎えられて、お店としてはある意味完成形とも言えると思います。それでも、まだまだ新しい取り組みに積極的に取り組まれているんですね。

PONTE VECCHIO(ポンテ ベッキオ)山根大助

■「向いていない」を言い訳にせず、自分で決めた道を突き進むのが大事。

こういう人が欲しい、というのはありますか?

山根氏:
本店であれば、若い発想があって力がある方、本当に料理をどっぷりやりたい方が、集まって、やりたいようにやってくれたらいいと思っています。正直、僕でなくてもいいと思っている。いや、まだ負けたくないですけどね(笑)。

でも、もしかしたら今の時代に求められているものは、僕より若い人の方がわかるかもしれない。

もちろん、料理の腕はね、今の自分の料理が一番おいしいと思っていますよ。でも、皿数が多いもの、あるいはフォトジェニックな料理が受けていたり。なぜ高級食材をそんな使い方するんだろう、敬意も慈しみもないなあと思うような料理もある。そこを自分は批判的に思えてしまうけど、それでも予約が3、4ヶ月取れない店とか、ありますからね。自分が全てわかっているわけではないんです。だから、若い人にも活躍してほしい。

彼らが、しのぎを削れる場所でありたいですよね。うちの厨房システムは、メインフロアと同じぐらいの広さを持つ、今もほぼ最新鋭と言えるものですし、僕が考案した器具も入っています。そこで、技術を磨いて、自分のやりたい料理やサービスをどんどん提案してくれたらいい。

彼らが名声を得たら、新しく展開する店舗を任せていったりね。だから若い人には、ぜひ本店を目指して、頑張って欲しいな。

逆に「Dステーキ」とかは、独立も経験して、自分のやりたいことは散々やって出し尽くしたという40代、50代の方で、ある程度のクオリティラインを守った料理を、マイペースにやっていきたい方に携わってほしい。他の店が絶対にできないことを、システマチックにクオリティを維持しながらやってのける、そういう店作りに協力してくれる経験者が欲しいですね。

若い方、経験のある方、それぞれ活躍の場があるんですね。さて、料理人を目指す若い方に向けて、これから飲食業で働く上でのアドバイスはありますか?

山根氏:
一般企業の大きい組織に入ってしまうと、自己実現がなかなか難しいので、「自分がやりたいことをしたい」という独立志向の方にとって、飲食業ってとてもいい仕事だと思います。ただ、これからのこの業界はなかなか難しい。価格競争も激化して、お客さまの数も減って、労働時間や人手不足の問題…。

独立するのはいい、そのチャンスはいくらでもある。大事なのは、それをいかに維持するかを考え続けること。例えば、3人で回している店というのは、はっきり言って、3、4ヶ月でみんなメンバーが辞めます。当店のように、17年18年間、辞めない社員がいるのは、これだけの広さがあって、多彩な店舗展開をしていて…企業としての体をなしているから。

組織が立っているからこそ、事業基盤の安定性や、キャリアの描きやすさ、生活の見通しが立ちやすいなど、いろんな安心感があってみんな続けることができるんです。

僕は、「弟子に厳しい」「怖い」と巷では言われているけれども(苦笑)、大きい組織だからこそ、べったりじゃなくて、適度な頻度の接点で、緊張感を持って関わり合うことができる。成長には緊張感が必要ですからね。これが、2人、3人の組織で…例えば、僕とスタッフ2人で店をやっていたとしたら……。明日からその子は来なくなりますよ(笑)!

個店は、まさにそういう世界ですね。

山根氏:
そうなんです。10席ぐらいの店を出そうと思ったら、規模で考えると、仕入れにしろ料理にしろサービスにしろ、やっていくのは簡単に見える。でも少人数の店で、みんなが10年、20年と気力を持続させ続けるのは、とても難しい。そんな時でも、一人でやり続ける覚悟があるかどうか?それを見極めると良いと思います。

もし、そこまででないなら、私たちの店のようなある程度の規模の店で、長く勤めるつもりで頑張るというのも、良い選択肢だと思う。もちろん、ぬくぬくとぶら下がってと言う意味ではなく、その中で、「企業内独立」のような気持ちを持って、仕事にのぞむべきでしょうけども。

ただ、組織に甘えて、「教えてもらってない」とか言うのは、ダメだと思いますね。だから、「自分で勉強しろ」「やりたいことがあるなら、提案してやりなさい」というのは、いつもスタッフに伝えています。

うちだって店で大きな利益が出たら、それをきちんと分配していく用意はあります。ですが、単に、雇われて手伝っていると言う感覚で、「何年かしたら別の店に行く」とか、「独立するための腰掛け」とはなから考えている人に対して、大きな報酬を出すことはできません。

どちらにしろ、この道で進むと決めたら、覚悟を決めてとことんやるべきです。この道が正しかったのかな…、これって自分に向いているのかな、向いていないのかな…とか眠たいことを言うのはやめてね。

バカじゃできないけど、バカにならないとできないんです。自分は、これしかできないんだ、これしかできないからこそ、自分はこの分野に関して、何か天才的な才能を持っているんだと信じ込んで、言い聞かせてね、やるんです。

どの仕事もそうかもしれません。

山根氏:
そうでしょう!みんな揺れすぎるんです。すぐ疑ってしまう。

でも、自分を信じるしかないんですよ。「他に何かあるんじゃないか」なんて、そんな当たり前のことを言うなよと。この僕が、山根大助が、他に何もできなかったと思うか?と言いたい。

みんな、料理以外のもの、何か絶対にできるはずです。絶対にね。クリエイターやったら、一つのジャンルに限らず他のものもクリエイトできますよ。「○○しかできない」人なんているわけないんです。いろんなことできるんです。

僕はデザインもしますけど、デザイナーから見たら三流かもしれない。でも、何かに成功している人は、根底にものづくりの発想を持っていて、それを持っている人は、他のこともできるものなんだ。僕だけじゃなくてね。

その中から、一つ、「それをやるんだ」と言う覚悟を決めて、続けて、努力して、道を極めるところまでやるから、モノになるんだと思う。

何かに向いている・向いていないを言い訳にしてはいけないですね。

山根氏:
“向き”なんてないんです。

例えば、みんなの前で人を惹きつけて話すのが苦手な子がいたとする。そこですぐに「僕には、こんな話できない」と言う人は、努力が足りない。声が小さいなら、大きい声を出せと。

こちらが一生懸命考えてたくさん話している時も、一言しか話さないような人…あなたが使っているエネルギーは、僕の何分の1ですか? 口下手で済ませるな、と。それじゃ済まないんですよこの世界は。

ましてや独立しようと思えば、銀行の人とも話して説得する力が必要だし、そもそもお客さまを惹きつけるコミュニケーション力がないと。そこまでして初めて、みんな自分の顔を見に来てくれる。お世話になる業者さんとだって、対話を重ねて、良好な関係を築かないといけません。その道で食べて行くなら、根性を出せと、強く思います。

PONTE VECCHIO(ポンテ ベッキオ)山根大助 厨房

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