料理をモダンに表現すること、モダンな世界の流れの中に新しい料理を打ち出していくこと

Restaurant Le Cinq(レストラン ルサンク)
Christian Le Squer(クリスチャン・ル=スケー)

Christian Le Squer Restaurant Le Cinq(レストラン ルサンク) 料理Photo by Jean Claude Amiel

■伝統を守りながらも、時代に即した、一口目で心がときめく料理を作る。

フランス料理の伝統を踏襲しつつも、モダンなスタイルに変化させていくのですね。

ル=スケー氏:
そうです。私はフランス料理が築き上げてきた伝統に頼ろうとは考えていません。伝統を守り、モダンな世界に受け継ごうとしています。シャネルのデザイナーと同じですよね。全く同じカットをしようとは思っていません。いつもその時代の女性が美しく見えるように描き続けています。今日の女性が輝くように。

今日の女性は昔とは違います。仕事をしますし、モダンです。クラシックなスタイルであっても、それで仕事をしたり、アクティビティができるようなものを纏いたい。

料理も同じ。いつの時代でも、その時に訪れたお客さんが料理を全て食べ終わったとき、心地よいと感じるような料理を出したい。一口目でもう心がときめくこと。そして、食べ終わったときに気持ちが軽やかになること。

フランス料理のトレンドはどういう流れになっていると思いますか?

ル=スケー氏:
グランド・キュイジーヌ・フランセーズ(grande cuisine française:古き良き時代のフランス料理)の時代が来ていて、パリのどの有名レストランでも今ではソースを出しています。少し前はソースを使わないのがトレンドでした。いまソースを使わなくなっているのはビストロです。

グラン・レストランはいつでもソースを使っていましたが以前よりもっと風味が凝縮したものになっています。凝縮して印象の強いものを、皿の中に少しだけ使っています。フランス料理はソースです。私たちはソース使い。フランス料理の重鎮という人たちは皆ソース使いです。

Christian Le Squer Restaurant Le Cinq(レストラン ルサンク

■あくまでベースはフランス料理。お客さんはフランスらしさを求めてやってくる

海外から来る食材を使うことに興味はありますか?

ル=スケー氏:
うーん、あるとも言えるし、ないとも言えますね。

日本の食材は日本料理に任せましょう、とも思いますし。私たちフランス料理のグランシェフたちはラッキーなことに世界中旅行する機会に恵まれていますから、日本食をはじめいろいろな料理や食材を目にします。けれど、私たちは、寿司は作りません。カルパッチョを作るのは昔からそうやって生魚を食べる機会があったからです。

日本の新米は素晴らしく美味しくても、フランスで日本の新米を使って日本に対抗できるでしょうか。だから私はフランスのテロワール(地のもの)で料理します。米を使うならこちらの米でピラフにしたり、クリーム煮にします。リゾットは作りません。よそのものに頼る時代は終わりました。

私と、私の長年の友人であるエリック・フレション(Eric Fréchon三つ星Épicureのシェフ)が長く活躍しているのは、2人ともしっかりとしたクラシックの訓練を受けてきているからです。ちなみに今彼のもとで右腕をしているスーシェフの2人は私が育てて送り出したんです。他にも、私は若い人にパテやソース、フランスクラシックの基礎を訓練してモダンに仕上げる方法を伝授しています。

けれどその一方で、出汁などに関しては既に世界的な調理法の1つになっています。寿司も、ノブ(NOBU)のようにモダンに仕上げることもできるのです。ペルー料理だって生魚を多く使いますが、モダンなスタイルのものが多く出ています。私はオープンな人間なので、食に関するトレンドにはいつも興味があるのです。

今、料理に関して気になっていることはありますか?

ル=スケー氏:
アフリカの食材ですかね。次のトレンドはアフリカの食材になると思います。まだアフリカの食材については知られていないので。

でもやはり、あくまでフランス料理がベースなんですね。

ル=スケー氏:
そうです。どんなモダンな料理を作っても、自分がどこから来たか忘れることはありませんので、フランス料理が土台であることには変わりはありません。

お客さんはフランスらしさを求めて来ています。香水もファッションも同じです。日本人がパラスが好きなのはもちろんのことなのですが、なぜクリスチャン・ル=スケーのところに来るかというと、アーティザナルなものが好きなことと、フランスらしい、パリジャンらしいスタイル、パリの美的感覚でアレンジされた花、サービススタッフの親切さなど、日本人の好きなものが揃っているからです。

私が日本に行くと、先々のキッチンで全員が私のことを知っています。フランス料理の最高のシェフの1人としてアラン・パッサール(Alain Passard)、パスカル・バルボ(Pascal Barbot)たちと並んで知られています。

Christian Le Squer Restaurant Le Cinq(レストラン ルサンク)料理
Photo by Jean Claude Amiel

■もし明日を生きたいのであれば、料理人であるという自覚だけでは足りない。モダンな人間である意識を持ち、精神を開いていること。

若い料理人のキャリアの中で大切なのはどのようなことですか。

ル=スケー氏:
グランメゾン(老舗高級レストラン)でリュクス(贅沢)なサービスを提供している環境で働くこと。リュクスはグランゼコール(Grandes Écoles:フランス最高クラスの高等職業教育機関)と同じです。最高の職人技や、伝統への敬意を伝えます。学びの場は重要です。明日を作る若い料理人にとって、訓練する学校を選ぶのは大切なことです。食材を変化させることを学ぶには時間がかかります。世間でよく作られているのは、組み合わせの料理に過ぎません。しかし、グランメゾンでは組み合わせの料理などしていません。

私が自分の子どもたちに言っているのは、例えば娘はアンスティテュ・ポールボキューズ(Institut Paul Bocuse:リヨンにある調理専門学校)を出ましたが、「リュクスの中で働きなさい、一度リュクスの中で働けばどんな仕事でも選べるから」と言っています。下から始めたら上っていくのは大変です。それが私の意見です。

いまビストロで働いているシェフたちも、グランレストラン(高級レストラン)での修業を経てきた人たちばかりです。

最初に最高の場で学ぶことは、若い人の個性を創り上げていくのに必要なことです。

辛い仕事の中でやる気をなくしている料理人がいるときはどのようにしていますか。

ル=スケー氏:
相手と一対一で接しています。どうしたら仕事を楽しくできるか。例えば、若い料理人の中に写真を撮るのが好きな人がいたので、カメラと携帯を買い与えて、ここで作るものここで起きていること全て写真を撮るように言いました。活躍する場面を与えたのです。撮った写真を私に送ってくれるので、私はそれを発信することができています。

料理人の仕事を選ぶ人は皆、モチベーションがある人です。三つ星で働こうと思った人は、なおさらモチベーションが高く、もっと遠くまで行こうと思っている人です。なので、そのようなモチベーションを持った若者が停滞しないよう気をつけるのはシェフの仕事です。

ルーチンの仕事ですが、入ったばかりの若い人にも試作をさせます。ハンバーガーが好きな人にはどのようなハンバーガーが好きなのかを実際に作らせて表現させます。シェフがそれぞれの料理人に、活躍する場面、活躍する楽譜を与えるのです。それぞれがモチベーションを維持し目覚めたままでいられるようにします。

Christian Le Squer Restaurant Le Cinq(レストラン ルサンク)

若い料理人に料理の技術以外に教えるべきことは何ですか?

ル=スケー氏:
キッチンで起きていることの裏で、世の中はすごいスピードで流れているということを感じさせることです。もし明日を生きたいのであれば、料理人であるという自覚だけでは足りません。モダンな人間である意識でいないといけないし、精神を開いていなくては。私は自分の子供も、若い料理人たちもそのように育てました。

私は田舎の出身ですが、パリに出てきて、世界を目の前にしています。パリだけでなく世界中に、豊かな世の中もあれば、貧しい世の中もあります。明日の世界はどうなっているのか知りたいのです。見るべきものがあるなら、たった1日のために日本まで足を運んだりもします。私は毎月一回は必ず遠くまで旅に出て広い世界を見ますし、たくさん旅行をします。

すごいことがたくさんある。行ってみないとわからないことがあるんだということを伝えています。

怖いことなど何もありません。モダンでいようという意識でいること、トレンドは何か理解しようとすること、モードが何で明日はどうなっているのか。

明日、人は何を食べたいと思っているだろうか。そんなことをいつも考えています。

Christian Le Squer Restaurant Le Cinq(レストラン ルサンク)内観

Restaurant Le Cinq(レストラン ルサンク)

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12:30-14:30、19:00-22:00
定休日
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