挫折の連続から掴んだ世界一

L'Ambroisie(ランブロワジー)
吉冨 力良

L'Ambroisie(ランブロワジー) 吉冨力良

◼優勝して知った、1位と2位との違い

そして、再度の挑戦の去年、2017年12月に、優勝します。2度目の挑戦はいかがでしたか?

吉冨氏:
前年優勝できなかった悔しさが忘れられず、再度挑戦することにしました。
2回目はさらに大変でした。前回と同じものは作れないですし数ヶ月前に参加した自分がベストだと思った前回の作品を更に超えなければいけない。
あと、フランスはオリジナリティを評価する国ですから、普通のただ美味しいだけのパテ・アンクルートでは勝てません。

初参加の前回は鴨や仔牛、豚のヒレ肉など色々な食材を使用したパテ・アンクルートを作りました。審査員の方から「美味しかったけれど、何を食べているかわからない。」と言われたという指摘がありました。

2回目の挑戦はできるだけシンプルに、自分が考える最良な素材の組み合わせで勝負しようと考えて、青首鴨とねずの実を主体にして作ることにしました。ジュレの味も更に改良しました。
それから2回目の決勝に向けてまた何回も練習を重ねました。三つ星レストランの看板を背負っての出場なので負けるわけにはいきません。目指すは優勝のみでした。

大会当日。長い審査が終わり、優勝者として名前を呼ばれた時は、支えてくれた周りの人達や故郷の事、色んな事を思い自然と涙が溢れてきました。

実は後日談で、大会優勝後大会主催者の一人のミッシェル・シャプティエさんが「ランブロワジー」にプライベートで食事にいらっしゃいました。
その時に少しお話しをさせていただいてこっそり教えてくださったことなのですが、過去9回行われたパテ・アンクルート全大会の中で、10数名いる審査員が満場一致で同じ人物を優勝者として選んだのは、自分が初めてだったそうです。それを聞いてとても嬉しかったです。

L'Ambroisie(ランブロワジー)

満場一致とは凄いですね!優勝によって得たこと、変わったことはありますか?

吉冨氏:
この大会を通じて一番得たものは賞金よりも名誉よりも、何度も挫けそうになりながらも励んだ練習で自分自身に勝てたことですね。本当の敵は自分自身なのだとわかりました。
優勝できた事をパコーさんに報告すると、とても喜んでくださいました。途中から材料費等で援助していただいたパコーさんに恩返しができて本当に良かったです。
パコーさんも友人を厨房に案内する度に「彼はパテ・アンクルートの世界一なんだよ。」と嬉しそうに私を紹介してくださいます。みなさんビックリして、「世界一?」って聞き返されます。

もちろん挑戦するだけでもとても素晴らしい事ですが、何かのコンクールに挑戦して結果を出したということは自分に厳しくできる人ということ。
何も語らなくても第三者に自分がどんな人間かということをすぐ知ってもらえる。挑戦して本当に良かったと思いました。

「ランブロワジー」で4年が経つ今、ご自身が作っていきたい料理について、今どんな風に考えていますか?

吉冨氏:
パテ・アンクルートで世界一になりましたが、それは一つの通過点にしなくてはいけないと思っています。パテの人ね、と思われるのではなく色々なことに挑戦していきたいです。
それと、もし将来シェフになることができたとしてもパコーさんの料理は絶対に作らないでしょう。自分がその食材をどういう風にお客様に食べていただこうと思うかは人それぞれ違いますから。

技術的には作れるものでも「どういう風に食べていただきたいか。」という気持ちがなければ、お客様を感動させることはできません。料理で人を感動させると言う事はそんなに簡単なものではないと思います。パコーさんの料理は、ある意味パコーさんにしか作れないですし、自分が同じレシピで作ったとしてもそれはコピーになるだけ。
その人の料理はその人が作らなくなった時点で消えていくのかもしれません。
でも、それでいいのだと思います。この時代に生まれて、例えばパコーさんが作った料理を食べられる時代があって、その今が幸せであればそれで良いのではないでしょうか?

時代が変わり、消えていく料理ももちろんあると思います。ですが、料理に対する考え方などは影響を受けた人の心の中に残り、受け継がれて行くものだと思います。

本当に波乱万丈の中から掴んだ世界一だと思いますが、若い人たちに何かアドバイスがありますか?

吉冨氏:
私は技術も無い、才能も無い人間です。ただ人よりもほんの少しだけ勇気と行動力だけはありました。パテ・アンクルートの大会に参加したのもそんな練習をする時間があるのか、そもそも自分にできるのか、という気持ちを乗り越えての挑戦でした。今でこそフランスで何とか生活をしていますが、少し前まで私には、日本に居場所も帰る場所もない。

逃げ道がないからフランスでやるしかないという崖っぷちの状態でした。そんな中、パテ・アンクルートで世界一になれた事は人生の転換点でした。

何度挫折しても諦めずに挑戦し努力する。その繰り返しで未来は拓けて行くのかもしれません。

(インタビュー・文:仲山 今日子、写真:Chihiro Masui)

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©︎Jonathan Thevenet

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