お皿の向こうにはお客様。引き算の定義でシンプルな料理を

THIERRY MARX (ティエリー・マルクス)
小泉 敦子

料理の基本を学ぶためフランスへ留学

料理人を目指したきっかけを教えてください。

小泉氏:
普段忙しい父親がフランス料理好きで、小学生のときから誕生日になるとお店に連れて行ってくれていたというのが、ひとつのきっかけですね。子どもながらに「フランス料理っておいしいよね」と思っていました。

小学生からフランス料理に触れることができていたんですね。

小泉氏:
それがなかったら、フランス料理の道に進むことはなかったと思うので、きっかけを与えてくれた父には感謝しています。両親には、「なぜその道に行くの?大変じゃない?」と言われましたが(苦笑)

「女性で」となると、大変なイメージがあります。

小泉氏:
今思えば、確かに厨房の中は男性ばかりでしたが、自分ではマイノリティの中に入っていく意識はなかったんです。

フランスにも行かれていましたが、向こうでも男性シェフが多いのですか?

小泉氏:
フランスでは女性の料理人も多く、三つ星シェフもいます。出産してから戻ってくる人もいます。当たり前のように厨房の中に女性がいるんです。だから、フランスでは自分が特別なことをしている感覚は全くありませんでした。

でも、日本に戻って来てこのお店でシェフをされるとなったときは、「女性シェフ」と話題になりましたよね。

小泉氏:
私と同じような経歴をお持ちの男性シェフはたくさんいますが、ただ女性ということで注目してもらえるのは、ありがたいと思っています。

高校を卒業して、辻調理師専門学校に行かれたんですよね?

小泉氏:
そうです。2年目にフランス校にも行かせていただきました。

入学したときには、もうフランス料理を学ぶことと、留学することを決めていたんですか?

小泉氏:
そうですね。他の料理をするにしても、ベースとしてフランス料理の技術はきちんと学んでおいた方が良いと思っていたので、フランス料理以外は考えていませんでした。フランスにも、経済的な点が許せば絶対に行きたいと思っていたので、入学するときに両親に資金援助をお願いしていました。

シェフへの直談判で、留学時のリベンジを果たすべく再び渡仏

フランス校から帰ってきて、日本のフランス料理店「ミクニ・マルノウチ」で働いていたときマルクスシェフに出会い、フランスに行かせてほしいと直談判したというエピソードが有名になっていますよね。

小泉氏:
そういうとすごく格好良く聞こえますが、私はたぶん生粋の能天気で。マルクスシェフとお会いして、本当に軽いノリで聞いてしまったんです(笑)。

またフランスへ行きたいと考えていたのですか?

小泉氏:
フランス校での研修期間は、言葉も通じない、仕事もできない状態だったので不甲斐なく、あまりにも恥ずかしくて。いつかフランス人と同じ待遇で雇用してもらって働くために、絶対フランスに戻って来ようと思っていました。

それで、「フランスで働きたい」と直談判したらOKと言われたんですね?

小泉氏:
軽い気持ちで聞いたら「No problem!」と言われたので、こちらも本気にして、「マルクスシェフにフランスに来て良いと言われました!!と。」と。三國シェフと武井シェフには6年程、本当にお世話になりました。

フランスで、研修ではない形で実際に働いて、何が得られましたか?

小泉氏:
まずはフランス語ですね。研修時代は周りに助けられて何とかなってはいました。ただ、実際に色々な国の方とお仕事をしましたけど、コミュニケーションをとるにはやはり、言葉が通じないといけないんですよね。

海外では、語学ができるのは当たり前ですか?

小泉氏:
他の国は、フランス語・英語・スペイン語ができる状態で来るんです。コミュニケーションが取れない状態で来るのは日本人だけ。私も語学が身に付いていなかったので、最初は本当に迷惑をかけたと思います。

では、海外に行きたい人は、語学は勉強して行った方が良いと思いますか?

小泉氏:
私はそう思います。一方で、仕事では言葉ができなくても、かゆいところに手が届くように信頼を勝ち得なければダメだとも思うんです。

例えばどういうことですか?

小泉氏:
人がどう動いているのかを意識して見ていて、このタイミングでこれを準備しておくとか、これがあったら助かるだろうなということをキャッチして動くようにしていました。

先回りして動いたんですね。

小泉氏:
そうしていたことで「コイツわかってるな」と思われて、仕事がもらえるようになりましたね。

日本人は空気を読むのが得意と言いますからね。

小泉氏:
そうですね。彼らは「言ってくれないとわからない」という文化です。こちらが伝えたいことはきちんと説明しなければわかってもらえないので、フランス語もかなり鍛えられましたね。

周りには丁寧に説明し、自分自身は、彼らの表情を見て空気を読むといった感じですか?

小泉氏:
私は思ったことをバンバン言う。こちらは一歩先に感じ取る。彼らは直接言った方が良いので、すごくやりやすかったですね。

技術的には、フランスでどんなことを学びましたか?

小泉氏:
技術だけを見ると、日本とフランスではそれほど差はないのですが、時間のメリハリの付け方が違いますね。

時間をかければ良いわけではないない?

小泉氏:
時間をかけた方が良いものと、同じ結果が得られるなら早くできた方が良いものと、取捨選択しながら仕事をするのが彼らのやり方です。限られた時間の中で集中したときの、彼らの爆発力はすごいですね。

逆に、日本人の良いところはどんなところだと感じましたか?

小泉氏:
仕事にムラがなく、最後まできっちり詰めるのはやはり日本人ですね。だから、自分が上に立ったときは、均一さが求められる仕事は日本人に任せて、爆発力が必要な仕事はそれが向いている人に任せるというふうに、割り振っていました。

和食に通じる「引き算の定義」を考えたシンプルな料理

マルクスシェフの料理には、どんな特徴があるんですか?

小泉氏:
フランス料理なんですが、和食に通じるものがありますね。彼の教えは「引き算をしなさい」というものなんです。

引き算ですか。

小泉氏:
例えば新作を考えるとき、普通は不安になって「これを乗せてみようかな」「これをかけてみようかな」と、どんどん増やしがちなんですよ。でもそうすると、もともと何を食べてもらいたかったのかがわからなくなるんです。

なるほど。

小泉氏:
だから「どうしたいのかを整理整頓しなさい」と、いつも言われています。日本料理に通じるような引き算の定義ですよね。

確かに、小泉シェフの料理はシンプルな印象ですよね。

小泉氏:
それは、私が「ティエリー・マルクス」の名前がついたお店を任されている中で、表現すべきところだと思っています。フランスにいたときから料理を見てもらっていたことで、マルクスシェフの世界観というものが鍛えられましたね。

シェフとして凱旋帰国、女性としての役割・責任・課題

「こちらのお店でシェフを」と話が来たときは、どう思いましたか?

小泉氏:
ビックリして、私で大丈夫だろうかというのもありましたが、それより先に「すごく楽しそう」と思ったんです。だから、悩む前に返事をしていました。

「シェフをやりたい」という気持ちもありましたか?

小泉氏:
正直、自分の性格的には誰かのサポートの方が向いている気がします。ただ、日本人女性にシェフが少ない状況に、一石を投じたいという気持ちはありました。

確かに、専門学校には女性の学生も半数くらいいるのに、日本の厨房は男社会ですよね。

小泉氏:
続けられない要因はいろいろあると思うのですが、ある程度続けないと面白さもわからないんですよね。だから楽しさが感じられるようになるまで、頑張ってほしいなというのはあります。

小泉シェフは、最近は母校辻調の教壇に立たれたり、こうして取材を受けられたりと、幅広くご活躍ですよね。

小泉氏:
本当は、前に出るのは苦手なんです。でも「女性料理人」として何かできるのであればと思い、お引き受けしています。海外に比べて日本では、女性が結婚・出産後も料理人を続けていくのは難しいかもしれませんが、やっている人はいるので、できるはずなんですよね。

「できる」と証明するひとりになりたいと?

小泉氏:
ある程度の価格帯・ある程度の立地で、女性シェフとして存在する人に、誰かがならなくてはいけないと思っています。志摩観光ホテルの樋口宏江シェフなどは、やはり格好良いですよね。すごく尊敬しています。

今、日本の一等地のレストランでシェフをされていますが、女性ならではの苦労はありますか?

小泉氏:
例えば、シェフがフロアに出ると、男性シェフなら自然と料理の話になるところを、私が出ていくと「女性なんですね」とか「フランスに行ってたんですか?」とか、料理以外の話になることが多くて、そこが自分の中でとてももどかしいです。

それは確かにありそうですね。

小泉氏:
料理に詳しい方やグランシェフの方などは、対等に料理人として扱ってくださいますけど、一般のお客様に「女性なんですね、すごいですね」って言われる感じを超えたいです。

マルクスシェフの名前の看板を背負っていることについては、どう感じていますか?

小泉氏:
お話をいただいたときは、楽しそうという気持ちが勝って来てしまいましたけど、今思えば、ある意味自分の名前の方が気楽だったという感じですね。

責任がありますもんね。

小泉氏:
「ティエリー・マルクス」というお店は、フランス以外ではここが世界初出店で、それを任せていただいているので、下手なことはできないというプレッシャーがあります。このお店はまだミシュランの星がないこともあり、やらなくてはいけないことはたくさんあるなと感じていますね。

特に課題だと感じていることは、何かありますか?

小泉氏:
自信をもって料理をお出ししたいと思っていますが、自分より経験値がはるかに上の方にじっと見られると、まだまだ萎縮してしまうところもあるので、そこが私の課題だなと思っています。私の貫禄の無さで不安を覚える方もいらっしゃるかも知れませんが、お金をいただく以上、料理は絶対的に安心して食べていただきたいです。

THIERRY MARX (ティエリー・マルクス)

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