お皿の向こうにはお客様。引き算の定義でシンプルな料理を

THIERRY MARX (ティエリー・マルクス)
小泉 敦子

最高のスタッフとともに、シーンごとに使える店づくり

マルクスシェフはどんな方ですか?

小泉氏:
料理人として考えていることが、料理の枠を超えているんです。子どもたちに無料で料理のトレーニングをしたり、刑務所を慰問してデモンストレーションを行ったりと、社会的な活動もされています。

なかなか、簡単にできることではないですよね。

小泉氏:
多くのシェフがいる中でマルクスシェフはいつも、すごく先を考えているんです。料理人というだけではない、もっと大きなものを背負っている感じがします。

そういう姿を身近で見させてくれる存在がいるのは大きいですね。

小泉氏:
全く同じ発想はできませんが、でもずっと同じことに満足しているだけでもダメなんです。それだと「料理人」ではなく、ただの「調理人」。その2つは全く意味が違うなと、シェフの広い背中を見て感じていました。

今でも、マルクスシェフからお店に対してアドバイスはあるんですか?

小泉氏:
基本的には任せてもらっています。

それだけ、スタッフを信頼されているんですね。

小泉氏:
このチームは本当に、キッチン・サービス含めてみんなすごいんですよ!私がトップに立っているというより、助けてもらっている感覚が大きいです。オープンのときも準備が全然できていなかった中、皆さんのプロ意識でズバッとスタートし、非常に頼もしく感謝しています。

小泉シェフは、お客様にこのお店をどう利用してもらいたいですか?

小泉氏:
お店は、1つのフロアをコンセプトが違う2つのスペースに分けています。窓が大きくて明るい「ダイニング」の方は、赤ちゃん連れもOKにしています。

家族で利用できるのですね。

小泉氏:
フランス料理というと、敷居が高いと感じて少し構えてしまうような方もいらっしゃいますが、家族で食べる楽しみを体験してもらいたいです。例えば日曜日には三世代でお孫さんの誕生日会をするなど、いろいろな形で使っていただきたいです。

かつて小泉シェフのお父様がしてくださったような、家族の時間に使ってほしいということですね。

小泉氏:
「サロン」の方は、少しクローズドな空間です。銀座という立地も影響して、様々なお客様にご来店いただいています。このお店のスタッフならスキルもあり、ご接待など特別なシーンにも対応ができます。そのため、クローズドな空間を生かして、お客様に合わせた空間を提供できています。

銀座の真ん中で、立地も最高ですしね。

小泉氏:
「サロン」の方は、お料理に集中しやすい環境にもなっています。小さい厨房が脇にあって、お客様にお出しするまでの距離がとても近いので、料理がどうやって出て来るのかも楽しみながら、大人な雰囲気を味わっていただけると嬉しいですね。

お皿の向こうにはお客様がいる

今は、どんなことを大切にしてお仕事をされていますか?

小泉氏:
自分の作った料理の先には、食べるお客様がいるということまで考えないと自己満足になってしまうので、そこは気を付けたいと思っています。調理師学校の授業ではよく「お皿の向こうにお客様がいる」という表現をしていましたが、下手をするとやはり「自分がこうやりたい」で終わってしまうんですよね。

それだとダメなんですか?

小泉氏:
例えば、見た目はすごいけれど、実際はフォークとナイフで食べにくいとか、サイズ的にどう食べれば良いかわからないとか、お店でたまにありませんか?

確かに。

小泉氏:
そういうストレスを感じてほしくないんですよね。だから、常にお皿の向こうには食べる人がいるというのを、絶対に忘れてはいけないと思っています。

小泉シェフの料理は、本当にシンプルで食べやすそうですよね。お店の高級感からすると少し意外な感じですが。

小泉氏:
今の流行や傾向からすると、少し地味かもしれません。もう少し「映える」感じも必要かもしれませんが、あまりやりすぎないよう気を付けています。

みんなが「映える」のを追求しているからこそ、シンプルなものが逆に目立つというか、ひとつの個性になるようにも思いますね。

小泉氏:
お店によっては、サービスさんの説明や、合わせてもらうワインがあって完成するというパターンもあると思います。そこにストーリーがあれば楽しいとかもしれませんが、場合によってはお店のこだわりのあまり、お客様を置いてきぼりにしてしまう可能性もあると思っているので、そういったバランスには気をつけています。

女性シェフとして、未来を創る役割を担う

小泉シェフは、女性であることをうまく強みとして活かしている感じがします。

小泉氏:
昔は肩ひじ張っていましたよ。26歳くらいのとき。助けてもらえば良いことも、「大丈夫です」と言って断るみたいな(笑)

今はそんな感じではないんですか?どうして変わったのでしょう?

小泉氏:日本だと、こちらから「重いから持ってもらえますか?」などとお願いして、初めて気づいてもらえるんですけど、フランスでは言う前に気付いてくれるんですよね。それが目からウロコでした。

日本の男性にも、そうなってもらいたいですよね(笑)

小泉氏:
ただ女性も女性で、重いものや届かないものをお願いするときに頼みやすくするためには、普段から自分ができることをしておくことが大切ですね。

普通は、お願いしてやってもらったら「ありがとう」ですよね。でも日本だと「すみません」と言ってしまうんです。そのモヤモヤはずっとあります。

確かに、謝ることではないですもんね。

小泉氏:
謝るんだったら頼まなくて良いんです。海外のやり方がすべて良いわけではありませんが、そういうのは見習いたいですね。私も今は、頼るところは頼っています。その方がやりやすいです。

できる人がやれば良いんですよね。

小泉氏:
きれいごとかもしれませんが、そうなればこの業界はもっとみんな、楽になるんじゃないかと思いますね。

料理界は厳しいイメージがありますが、時代もどんどん変わっていますもんね。

小泉氏:
「昔はこうだった」という考えは無駄だと思うので、時代の流れに合わせて、みんなで一緒に試行錯誤していけば良いわけです。昔の良いところは残しますけど。

先人のおかげで今がある部分もありますよね。

小泉氏:
過去の先輩たちがフランスで、「日本人は仕事ができるね」というルートを作ってくれました。次に繋げていくためには、私たちの世代が覚悟を持って、それを伝えていかなくてはいけないと思っています。

たくさんの期待がかかりますが、まだまだお若いので、楽しみつつ頑張ってください!

小泉氏:
自分がやりたくて料理を作って、それを美味しいとお客さまに喜んでもらえて、誰も不幸せな人がいない。こんな良い仕事は他にないと思います。

これからも、若い女性の料理人の方があきらめずに目指していける道を作っていってください。本日はありがとうございました。

(聞き手・文:向井雅代、写真:刑部友康)

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