へストン・ブルメンタールとともに、世界をつかむ。盟友との19年間で見つけた、「チームを共鳴させるため」に必要なこと

Dinner by Heston Blumenthal(ディナー・バイ・へストン・ブルメンタール)
Ashley Palmer-Watts(アシュレイ・パーマー ワッツ)

Dinner by Heston Blumenthal(ディナー・バイ・へストン・ブルメンタール) 厨房

■まだ見たことがない世界、その一部になりたい

そうして、念願叶って足を踏み入れた、ファット・ダックのキッチン。いかがでしたか?

アシュレイ氏:
実際にキッチンに行ってみたら、まだ草創期というべき、当時のファット・ダックは今とは全然違いました。小さなパブを改装した店で、厨房は古ぼけて小さく、5人位しかシェフがいなかったのですが、常に進化を続ける実験室のような場所。科学者や歴史家、心理学者などを巻き込んでのその実験量はものすごくて、一言で言うとカオスでした。

既成概念にとらわれないアプローチをされていたのですね。

アシュレイ氏:
何をどうすればどうなるのか。それを全て検証していきました。フェラン・アドリアがやる前から、私たちはそれをやっていたのです。ただ、いかんせん、厨房はお粗末な限りで、とても火力が弱いコンロしかありませんでした。例えば、グリーンピースを茹でようと思っても、綺麗な色に茹でられない。色よく茹でるためには、伝統的には塩を加えるといい、と言われています。本当にそうなのかを検証するために、私たちは、塩を加える場合と加えない場合、どちらでもやってみました。そうしたら、結果は変わらなかった。だから、グリーンピースを茹でるのに、塩を使うのはやめました。

とにかく、私たちは、グリーンピースを「限りなくグリーンに」したかったのです。そして、2週間ほど色々実験を繰り返したあと、水よりも、アルコールの方が、沸点が高いということに気づきました。試しに、ウォッカを鍋に入れて、グリーンピースを茹でてみたら、本当に綺麗な緑色になったのです。当時、貧乏だった私たちにとって、ウォッカは気が狂いそうに高かったのですが、それでも、私たちはウォッカでグリーンピースを茹で続けました。

美しい色も、料理の大切な構成要素の一つと考えるからこそのこだわりですね。今でこそ、五感で楽しむ料理というのは主流になって来ていますが、ファット・ダックはその走りだったと思います。そう行った意味では、盛り付け、プレゼンテーションについても同じでしょうか?

アシュレイ氏:
ええ。当時は陶器の皿に料理を盛り付けるのが普通でしたが、へストンは常識にとらわれなかった。2000年へストンは初めて、通常はグラスにしか使われていなかった、ガラス素材を使って皿を作ったんです。ロンドンのガラス器メーカーと一緒に開発したその皿は一つ60ポンド(現在のレートで約8160円)もして、今の通常のレストランの価値観と照らし合わせても高いと思います。だけれども、私たちにはそんなことは関係ありませんでした。結局25皿作りました。貧乏だったけれど、自分たちの表現に必要なものを買うに糸目はつけなかったのです。

となると、当然高給は望めませんよね。不満はありませんでしたか?

アシュレイ氏:
一度、税金の支払いとクリスマス休暇が重なって、1ヶ月給料が払えない、とへストンに言われたことさえありましたよ(笑)。最終的にはなんとか工面したようで、支払ってもらえましたが、実はそんなことはどうでもよかったのです。当時は週に120時間働いていて、レストランの外の生活なんて全くなかったですし、仕事にとても深く関わっていて、全てを料理に捧げていました。誰もが探してすらいないことを見つけるのに、夢中になって毎日を過ごしていたから、そんなことは全く問題にならなかったです。毎日が刺激的で、楽しかったからです。

Dinner by Heston Blumenthal(ディナー・バイ・へストン・ブルメンタール) 内観

■へストンとの信頼関係について

そこまで思えるためには、へストンがとても魅力的であり、信頼関係で結ばれていた、ということですよね。そんなワッツさんから見て、へストンの料理を、どんな風に表現しますか?

アシュレイ氏:
彼の料理は、今もそうですが、10年先を行っています。今、理解されないことがあるかも知れませんが、時代が立つと、ああ、そういうことだったのか、と納得してもらえるような、そんな料理です。

へストン自身についてはどのように思いますか?

アシュレイ氏:
メンターであり、先を見通す特別な能力を持った人であり、同時に、ありえないくらいフラストレーションが溜まる相手でもあります。

例えば、私が信じられないくらい、素晴らしいものを作ったとします。それをへストンに見せると、ヘストンは「もっと素晴らしくなる、もっと良くならなくてはならない」、いつもこう言うのです。

何か具体的なエピソードはありますか?

アシュレイ氏:
はい、例えば、ファット・ダックが初めて三つ星をとった時、へストンはスペインにいて、一報をもらったのは私でした。すぐさまレストランからへストンに電話をかけて「ファット・ダックが三つ星をとったらしい」と興奮して伝えると、へストンから返って来たのは、「もっと頑張らなくちゃな」と言う言葉でした。喜びの言葉を期待していた私は一瞬あっけにとられましたが、次の瞬間、心の中でよし!と思いましたね。それでこそへストン、と。

あなたはへストンと19年間働いていて、一番一緒に長く働いているシェフになります。長い年月の中で、嫌になったことなどはありませんでしたか?

アシュレイ氏:
嫌になることはありません。私たちは今まだ、知らないことを学び、新しい料理の境界線を押し上げている最中なのです。これからも、ずっと学び続けなくてはいけないと思っています。

今でも心に残る、へストンからのアドバイスはありますか?

アシュレイ氏:
三つ星を獲った後、「もっと頑張らなくちゃな」の言葉通り、へストンの要求度が上がって、本当にきつい時期がありました。2001年頃のことです。スタッフも、次々にやめていって。休憩に行くと言ってそのまま帰ってこなかったりと、本当に大変でした。

そんなある日、ランチサービスが終わった後に、へストンに呼び出されて、カフェで話をしました。そして、ヘストンからこんな言葉をかけられたのです。「本当によくやってくれていて、ありがとう。自分たちは正しい、これをやり続けよう。今やっている努力は全て絶対に将来報われる、約束する。」それは、アドバイスというよりも、自分たちが未来を切り開いて行くのだ、という思いを共有する、一種の決意表明でもあったのだと思います。

あの時の思いを心に留め、信じ続け、やり続けたから、今があります。20年近く経って、あの時の言葉が実現し、私たちは今、6つのレストランを持ち、450人のスタッフがいる大きなグループになりました。1日に5000人の人が、私たちのグループのレストランで食事をします。私たちが正しいということが実証されたのです。今でも、当時の苦しかった時のことを、ヘストンと笑い話で話すことがありますよ。

本当に、師弟でもあり、盟友でもある、という感じですね。

アシュレイ氏:
そうですね。へストンと一緒に色々な新しい挑戦をしてきました。ランチメニューをなくし、アラカルトもなくして、昼夜共通のテイスティングのお任せメニューだけにした当時のイギリスでは革新的な試みも私たちが始めました、その全ての工程をへストンと一緒に作り上げてきたのです。あの頃を振り返ると、夢中になっているうちに、毎日が振り返る間も無く過ぎていきました。当時の嵐のような毎日を、うまく言葉で表現することができないのですが、へストンと共に、料理の世界に没頭し、一緒に呼吸して、同じ時間を生きてきた、そんな風に思っています。

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■Dinner
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Friday & Saturday 5:30pm - 11:00pm
定休日
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