自らを悪魔のシェフと名乗り、食通を魅了し続ける唯一無二の三つ星シェフ

Bo Innovation / 厨魔 (ボー・イノベーション)
Alvin Leung(アルヴィン・レオン)

■料理が苦手な母だからこそ料理好きに

カナダで子ども時代を過ごされたとお聞きしています、ご自身について教えてください。

レオン氏:
はい、カナダで育ちましたが、生まれたのはロンドンです。当時父は、カナダのトロント大学を卒業後政府で働いており、奨学金を得てロンドンでエンジニアリングを学んでいたのですが、そこで家庭教師をしていた際に母と出会い、結婚したのです。
私は生後すぐ香港に戻り、1965年、5歳になるまで香港にいました。その後両親に連れられてカナダに移民し、大学を卒業するまでカナダにいたのです。

どんな風に料理の世界に興味を持つようになったのですか?

レオン氏:
実は母は料理が苦手で、三人兄弟の長男だった私は、食べる事が大好きだったので、自分たちで料理を作ることにしたのです。
当時のカナダの家は、香港と違い大きく台所も広かったのです。最初のうちはシンプルな卵を焼いたような料理を作っていましたが、9歳の時に、初めての「クリエイション」をしたのです。

それは、スパゲティミートソースでした。ベースはトマトソースではなく、キャンベルのトマトスープを使い、アクセントにカレー粉を少し入れてみたのです。
とても美味しくて、料理が楽しいものだ、と気づいた最初の瞬間です。家族や友達が食べても美味しいというので、楽しいし、もっと繊細なものを作ろうと、レシピの本を見てエンジェル・フード・ケーキ(卵白、小麦粉、砂糖で作られたスポンジケーキの一種)を作ったりもしました。

初めて作る時でも難しいものにチャレンジするというのが、私のスタイルです。卵と小麦粉、牛乳などを混ぜて作れる簡単なパンケーキと違い、エンジェル・フード・ケーキは、卵白をしっかりとあわ立てて小麦粉を入れますし、型も特別なものが必要です。
幼少期から、私は技術が必要なものを作りたい、人と異なるものが作りたいと思う性質がありました。

なぜ「人と違うように」と思ったのですか?

レオン氏:
普通のことをすると、注目を得るのは難しいと思います。例えば、ピアノでクラッシックな演奏をして注目を得るのはものすごい努力が必要ですが、クレージーな演奏をすれば、注目を集められると気づいたからです。

レシピは参考にしましたが、きちんとレシピ通りに作ったことはありません。レシピに従う代わりに、理解しようとしました。
私は科学の学位を取っていましたし、科学的に工程を理解して、変えても良いところ、変えてはいけないところを理解しようとしました。

こういった工程で大切なのは、より多くの人が好きになるレシピを作るということです。私は、変えることで味やテクスチャーにどんな変化が起きるのか、その結果自体はわかります。しかし、人々がそれを元のレシピより好むか、好まないかはわかりません。

文明も料理も、何千年も存在し、元のレシピは何百年も存在しているものもある訳ですから、人々の味覚が変わらない限り、より好まれる新しいレシピを作ることは難しいかもしれません。でも、新しいテクノロジーを使って、レシピのない料理を作るのは比較的簡単です。最初のものであれば、当分はベストなものとして存在できますから。

私の言う新しい、というのは、ブランデーをステーキに加えるような小さなことではなく、例えば香りと味の印象を最大化するために、鼻から飲むスープを作る、と言うような、革新的な新しさのことです。こういった料理は、今は存在しないですが、未来に出てくる可能性はあるでしょうから。

子どもの頃から科学が好きで、料理はとても科学的だと思います。パンやケーキを焼いたり、糖分をキャラメリゼさせるのは、生物化学的な反応を利用したものです。いかに効果的にキャラメリゼするかを考えるようなことを、発見するのが楽しいのです。
今の時代は、料理において、味が主なアトラクションではなくなっていると思います。心理的にユニークだったり、魅力を感じるものに人々は興味があると思います。

子どもの頃からシェフになりたいと思っていたのですか?

レオン氏:
いえ、当時はシェフというのは華やかな仕事ではありませんでしたから、料理は好きでしたがシェフになろうと思いませんでした。
子どもの頃の夢はテニスプレイヤーになること、俳優や神父になりたいと思ったこともあります。

大学を卒業して父と同じくエンジニアの職につきましたが、それはなりたいと思ったのではなくて、受け入れなくてはいけないと思ったからです。
俳優になるほど見た目も良くなかったですし。人生において、夢はあっても、どこかの時点で現実と向き合わなくてはならない時が来ます。
好きなことなのか、お金を稼げることなのか、選ばなくてはいけません。

情熱はあなたを導いてくれるでしょうが、その仕事で生きていけるかわかりません。歌手になりたいという情熱を持っていても、才能がなくて歌が下手なら仕方ないでしょう?
自分が得意なことから選んだのがエンジニアで、エンジニアになるための大学に行ったのです。


提供:Bo Innovation

■シェフに必要な才能とは

その後シェフになる訳ですが、シェフにとっての才能とはなんでしょうか?

レオン氏:
情熱があっても、才能のないシェフはいるものです。
自分の才能は第一に、論理的であること。物事を論理的にコントロールできることです。
第二に、味の記憶があること。その味を正確に再現することができますし、料理のクオリティを一定に保つことができます。
第三に、社交的な人柄です。テレビのインタビューなどで、社交的な人柄というのは役に立ちます。インタビューで、相手が聞きたいと思う答えを返すことができるEQは大切です。

エンジニアになってから、どのように料理の道に進んだのですか?

レオン氏:
私は調理をするというよりも、クリエイトするのが好きです。
エンジニアをしていた頃も、家で料理をクリエイトしては、家族や友人に振舞っていました。
人が好きなものをクリエイトするというのは、嬉しいものです。人がクリエイトする時は理由がある。お金を稼ぐ、もしくは人を幸せにする、注目を集めるというような理由です。

2000年頃から、シェフという仕事が変わり始めたように思います。ゴードン・ラムゼイなどが注目を集めるようになり、シェフという仕事がクールなものとして注目されるようになり、シェフを仕事にしてもいい、と思うようになりました。
そこで、2003年に20席弱のこじんまりとしたバーを購入したのです。そこで、スタッフを雇い、セットメニューだけで料理を提供するようになりました。それが今の「ボー・イノベーション(Bo Innovation)」です。メニューは、モダンな広東料理をベースに、当時流行していた日本の食材などの日本風のひねりを加えたものでした。

資金はそれまでに貯めたりしていたのですか?

レオン氏:
いえ、家族がお金を持っていたから貯蓄する必要はなかったです。
今の時代は、成功の基盤を持ってスタートした人は非常にアドバンテージがあり成功する時代です。

第一、店を買うために貯金するなんて、論理的に正しくありません。時代はとても早いペースで動いています。店を買うのには、家を買うのと同じくらいのお金が必要です。そのために貯金するとしたら何年かかりますか?今は5年もすれば世界が変わって、新しい店も古くなってしまう時代です。

店を買ってオープンする頃には、当初持っていた店のアイデアは、古くて使えなくなってしまっているでしょう。もしフードトラックなら、貯金をして買う、というのはある程度現実的かもしれませんが。もしお金を持っていないのなら、どこかのレストランで一生懸命に働いて、誰かに見出してもらって、自分の店のために投資してもらうことです。
成功したいなら、知的な計画が必要です。

ご自身も、小さなバーから、何度か場所を移転して、今は最大52席の大きなレストランとなりましたね。「エクストリーム・チャイニーズ」と銘打って、モダンな手法を取り入れた中国料理を提供していますが、料理で大切にしているのはどんな事ですか?

レオン氏:
そうですね。2回移転をして、今は3番目の場所です。友人と共同オーナーとしてオープンしました。
大切にしているのは、多くの人に愛される料理を出す事です。
私は子どもの頃から広東料理を食べてきましたし、大学を卒業してから香港で働いて、広東料理を毎日食べていますから、自分がどんな広東料理を好きかがわかっています。

私は広東料理を香港の人々と食べているので、彼らが何を好きかも知っています。逆に、私は日本料理が大好きですが、日本料理を日本人と食べる機会はあまり多くありません。ですから、日本料理を観察して、どんな料理を日本人が好きかをそこから推定するしかないのです。

私はシェフですから、自分のために料理をするのではなく、あなたのために料理をします。もし日本料理を料理するなら、なぜ日本人が日本料理を好きなのかを学ばなくてはなりません。
日本人と中国人は、同じ料理を好きになる可能性がありますが、異なった理由で好きになっているのかも知れないのです。

デーモンシェフ(厨魔、悪魔のシェフと言う意味)という肩書きでやっていますから、私のレストランに来るときに人々はすでに、ここの料理はクラッシックではないだろうと想定しているわけです。
「三つ星を持っているから、このシェフは良い料理を出すに違いない」と思ってゲストは来ますが、実際のところ、彼らは何が「良い」かを知っているわけではないのです。

彼らにとって「良い」ものは、彼らが「好きな」ものなのです。でも、彼らが好きなものを私は知ることができません。
これまでにも、私がこれまでに食べたチキンライスの中で最悪のチキンライスをルームサービスで食べて、私が店で出すチキンライスよりも好きだ、という人もいるのです。それでも、私は全く構いません。それは「あなたの」選択だからです。私にとってそのチキンライスは洗練されていないものでしたが、それを好きになるのは自由です。

■中国、と言うアイデンティティにこだわる訳

オープンから16年が経つわけですが、常に「中国」と「イノベーティブ」という軸は守って来たそうですね、それは何故ですか?

レオン氏:
私は広東料理を多く食べてきましたが、だからと言って広東料理しか作れないわけではありません。
例えば、私が素晴らしい日本料理を作ったとしましょう。それで日本に渡ったとしても、日本の文化は私を受け入れないでしょう。
日本人だけが良い日本料理を作れると信じる文化だからです。

私はそこの文化に行って、「私は日本人ではありませんが、素晴らしい日本料理を作ります、だからあなた方は私のことを好きにならなくてはいけません」と強制するわけには行きません。どんなに上手に料理しようとも、私は日本人にはなれないのです。

それを非難するつもりはありません。それは文化だからです。例えば日本人のうちの誰かが、もしかしたら私の料理を気にいるかも知れませんが、それは少数派です。成功するには、多数派を相手にしなくてはなりません。そちらの方が、チャンスがあるからです。

同じように、イタリア料理が上手だとしても、受け入れられないでしょう。私が中国人だからです。イタリア料理でもそれぞれの皿にアジアの要素を入れれば「アジア人シェフだから」と人々は納得するのです。人は自身の中にすでにあるものを、乗り越えることができないのです。

ですから、私はイギリスとカナダのパスポートを持っていて、自分の国籍が一つだと感じることはありませんが、中国人に見えることは変えられないのです。
ずっと料理において中国らしさにこだわるのは、そんな理由からです。


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「ボー・イノベーション」をオープンするときも、既にそう考えていたのですか?

レオン氏:
もちろんです。「ボー・イノベーション」はミシュランの星を取るにも、ベストレストランに入るにも、戦略は必要です。
ボー・イノベーションは5年連続ミシュラン三つ星を獲得していますが、アクシデントのようにたまたま入るということはないのです。
とはいえ、私のプランはシンプルです。「人が来るレストランを作る」、という事。人が来るようになれば、ドミノ倒しのように、ミシュランも自動的にやって来るのです。

時々、とてもクレージーなコンセプトのレストランをオープンして、ミシュランの星が取れるに違いない、と信じているシェフもいますが、90%は失敗します。多くの人に来てもらえる、戦略がなくてはならないのです。

世界中にコンサルティングをしているレストランがありますが、旅が好きですし、チャレンジも好きなのでやっています。パートナー会社が何を結果として期待しているのかを推定しないといけない仕事です。
ホテルであるならば、ホテルとして注目を集めたい、という所もあれば、プレステージブランドを持ってきたいとか、私にコンサルティングを依頼する理由は様々です。その理由をきちんと認識していないといけないと思います。

世界にレストランがあり、とても大きなチームだと思いますが、どのように管理していらっしゃいますか?

レオン氏:
管理するための小さなチームを雇っています。私は、厨房に行って、全員の名前を知っていて、一人一人と働いている、などというつもりはありません。軍隊にしたって、戦うには司令官もいれば下士官も兵卒もいるでしょう?

では、その管理するためのチームには、どのような人を選ぶのですか?

レオン氏:
マネジメントスキルがあり、私が必要とするアイデアを提供してくれること。私の延長線上にある立場なので、私が何を好きで、私が必要とすることを知っていることも重要です。
いちいち細かい解説が必要な人は雇いません。インテリジェントで自発的に働ける知的な人を雇うようにしています。


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■コンサルティングしているレストランは20軒近く、成功の秘訣

成功の秘訣はなんでしょうか?

レオン氏:
成功したいなら、自分が何を持っていて、何を持っていないかを知るべきです。そして、持っていないものを買う、例えば、記憶力が悪いなら秘書を雇うというように、持っていないものを知って外部から補い、自らが持っている才能やスキルを最大化させるのが成功の秘訣であると思います。
レストランのゴール、成功というのは実は簡単なものです。食事が安定して美味しいというのは、一つのゴールです。
ですから、ゲストが食べて美味しいと言ってくれたらそれは一つの成功ですけれども、その先にはもっと大きい成功があります。私は20近くのレストランをオープンしましたが、これで終わりではありません。

今私は、とても成功していると思います、人々は私が提供するサービスに満足して、安くはないお金を払ってくれているのですから。

もちろん、人生にはアップダウンがつきものです。アップしてばかりなら退屈だし、ダウンしてばかりならその仕事を諦めるでしょう。私は、挑戦をやめたら、すぐ飽きてしまうでしょう。もちろん失敗することもあります。でも、常に間違いから学んでいます。失敗したのはダイニングコンセプトがうまく行かなったからで、次から気をつけるということです。

今は、プランを自分で作る必要がなく、向こうからやってくるプランを選ぶことができます。パートナーとの相性や、考えているゴールが近いか、そして十分な食材やスタッフが得られるかなどを検討して選びます。

今、私は幸せです。私は浪費家ではないですし、使うよりも稼ぐ方が多いと思います。成功しているとは感じていますが、挑戦を止めることはありません。
(インタビュー・文・撮影:仲山 今日子)

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