料理だけでなく、いいサービスがあるか、 繁盛レストランの秘訣

メゾン タテル ヨシノ
角本 明

■料理人志望で入ったフレンチレストランで、サービスに従事

30年以上サービスの道を歩んできた角本さんですが、この世界に入ったきっかけは?

角本氏:
小学生の頃、父親がカウンターだけの小さな中華料理店を営んでいて、料理には親しみがありました。高校生になると喫茶店で厨房のアルバイトを始め、フルーツパフェやスパゲッティを作ったり、コーヒーを淹れたりして…次第に社員さんと同じような仕事をするまでになって、「早く働きたいな」と思うように。決して裕福な家庭でもなかったので、早く手に職をつけて自立したいと考えていたんです。

そこで当時、料理界の東大とも言われていた辻調理師専門学校へ入学することを決意。その時はまだ、フレンチなのか中華なのかとか、具体的な先の目標があったわけではありません。ただ、卒業と同時に調理師免許を取得できたので、持っていればいずれ父親の店の助けになれるかもしれない…という気持ちでした。

まずは料理人を目指してのスタートだったのですね。就職先については、入学後、早い段階から意識していたのですか?

角本氏:
具体的に行きたいお店を描き始めたのは、秋頃だったと思います。当時の辻調理専門学校は1年制で、和洋中をすべて経験できるカリキュラム。その中でもフレンチに興味を抱き、「ルポンドシエル」というお店を知りました。
当時、西日本初の超高層ビルとして完成した大阪大林ビル(現:北浜 NEXU BUILD)の30階に構えられた本格フレンチレストランです。眺望もすばらしく、「こんな場所で働けるんだ…!」と、すごく興奮したのを覚えています。
また、フレンチを「洋食」という枠組みの中でしか捉えられてない段階でしたので、本場のフランス人がシェフを務めているというのも大きな魅力でした。

そうして、卒業後は「ルポンドシエル」へ入られたわけですね。

角本氏:
ところがいざ4月1日の入社式に赴くと、そこで「厨房に空きはない」と言われるわけです。求人票にも、募集職種は料理人とあって「サービス」なんて文言は一言も書いてなかったので、面食らいました。
その時点で既に、3人の先輩が厨房に空きが出るのを待っておられる状態とのこと。「お前は4人目だ、しばらくはサービスをやってもらう」と説明を受けて、サービスの制服とジャケット、蝶ネクタイを渡され…内心では、「本当にサービスにいくの?」と困惑しました。しかし当時はまだ19歳でしたし、「そういうものか」と受け入れました。
それがサービスの道に入ったきっかけですね。

そして今もサービスを続けておられるわけですが、料理人を目指していたところからどのような経緯で今の仕事に?

角本氏:
学生時代に喫茶店のアルバイトをしていたので、キッチンの仕事は何となく分かっていたのですが、そこで初めて「サービス」という仕事の全貌を知り、気付くわけです。お客さまが数万円を支払うのは、食事に対してだけではない。「サービス」が介在することで、より価値のある時間が生まれる、それに対するトータルの対価なのだと。

カトラリーの並べ方ひとつにしても、知らなかったことばかり。色んな奥深さを知っていくと同時に、サービスって面白いんだなと思い始めました。それと、海外のスター俳優や時の首相など、日頃テレビでしか見ないような方たちをもてなすシチュエーションというのも、自分にとっては楽しみの一つでした。その当時、本格フレンチを提供するお店は限られていましたので、VIPクラスのお客さまがよくお見えになられたのです。

そうして2年経つ頃には、サービスを続けたい意志も固まり、厨房に入るチャンスが巡ってきた時もお断りしました。それが、自分の中で岐路を決断した時だと思います。

■マニュアルがない、正解がないからこそ面白いのが、サービスの世界

サービスの仕事の介在価値を知り、その道に目覚めたのですね。角本さんご自身は、サービスが何のために存在するのか、サービスの本質をどうお考えですか?

角本氏:
良い料理があれば、そこには良いサービスが必要。良いサービスがあってはじめてすばらしいレストランになる。これは必然です。料理を出してただお皿を下げるというのは、サービスではなくて“作業”です。

いいサービスのためにはお客様にストレスを感じさせないよう徹底する必要があるのです。そのためにはずっとその席を観察せねばなりません。
例えば、食べ終わっているのは間違いないけれど、まだお口が動いている…この皿をお下げして次のテーブルに行きたいけど、そこで待てるかどうか。「まだ食べているのに…」っていう顔を絶対にさせない。料理の説明にしても、どんな背景があって、シェフがどんな思いで作られているかを全部お伝えした方がいいお客さまもいれば、さらりと説明して「ごゆっくりどうぞ」で終わるほうがいい場合もあるわけです。

マニュアルが存在しないからこそ、難しさを感じますね。もちろん、だからこそ面白い、という部分もあると思いますが。

角本氏:
そうですね。私自身も、いまだ確立されたものがあるわけではありません。理論がない世界ですから。お客さまが何を求めているかを感じ取るセンスだと思います。

そして、もちろん知識やテクニックも必要です。
例えば、肉を切りさばき、お皿に美しく盛りつけるパフォーマンスも一つ。魅せ方ひとつで、料理の価値をあげる。ワインの開け方、デキャンタの方法、チーズの知識、言語の理解。レストランの中では、フランス語か英語で対話できる必要がありますから。極めようと思えば、星の数ほどやらないといけないことがでてきます。

当然ながらシェフの料理の“オリジナリティ”を伝えるには、ソースの作り方といったフレンチの基礎も知る必要があります。それが分からなければ、何が特長なのかを理解できないので、お客さまに魅力を語れません。

そして、慇懃無礼過ぎてもいけない。お客さまがリラックスして笑えるような、ウィットに富んだ返しができる素養も必要です。心地良いなと思ったら、お客さまはこちらのことを覚えてくれます。「○○くんいる?」と言ってくださる方を、自分のサービスの力で、一人でも多く作っていく。それが目指すところの一つであって、やりがいです。顧客をどれだけ繋いでいけるかが、サービマンとしての力量だと思います。

何が正解というのもないですし、優劣というよりは個性で勝負する世界のように感じます。やはりキャラクター性も大事なのでしょうか。人間味を出すといいますか。

角本氏:
レストランのカラーやブランドがありますから、それを逸脱しないという前提ではありますが、私は大事だと思っています。
お客さまにとっても、「彼がしっくりくるな…」「彼女の方が心地良いな」という相性があり人それぞれです。

また、いくら知識やテクニックがあっても、傲慢だったり、人を選んで態度を変えたり…という姿勢があると、お客さまは離れていきます。どんな方にも心地良いおもてなしをできる力をつけるには、色んな引き出しを増やすことが大切。それが武器になりますし、そうした個性の集まりが強いチームを作っていくのが理想です。

メゾン タテル ヨシノ

お問い合わせ
06-6347-1128
アクセス
〒530-0004 大阪市北区堂島浜1-3-1 ANAクラウンプラザホテル大阪2階
京阪中之島線「大江橋」徒歩3分、JR東西線「北新地」徒歩7分、大阪メトロ御堂筋線「淀屋橋」徒歩7分
営業時間
ランチ11:30〜14:30 ディナー18:00〜21:30
定休日
無休