進化をつづけることが、料理の未来につながっていく

agnel d'or(アニエルドール)
藤田 晃成

 

agnel d'or(アニエルドール) 藤田晃成

◼リヨンのネオビストロ「アルカンジュ」で、初のシェフを経験

その頃には、フランス語もずいぶん上達されていたのでは?

藤田氏:
僕のフランス語はあくまで独学によるもので、文法が全然できていなかったんです。単語で話すような感じで、職場ではそれでも十分に意図は伝わっていましたが、やはりきちんと勉強した方がいいと思い、リヨンの語学学校に入学しました。

その一方で、リヨンでも働ける場所を探しました。リヨンには、伝統的な名物料理が味わえる「Bouchon(ブション)」という大衆食堂の料理ジャンルがあります。ブション料理を学ぼうと思って、二つ星レストランにいたシェフがやっているビストロと、ジョエル・ロブションやアラン・デュカスの店から来たシェフの下で1年ほど経験を積みました。

ビザが切れるタイミングで、一度帰国することになり、そろそろ日本でも働こうかを思ったのですが、その頃に東北の震災があって、もう少しフランスにいることにしました。新しい働き口を探していたところ、知人から「新規オープンのビストロがシェフを探している」という話を聞いて、面接に行ったのが「アルカンジュ」です。

ご自身にとって初めてシェフを経験されたのが「アルカンジュ」ですね。

藤田氏:
ゆくゆくは日本に帰って自分の店を持ちたいと考えたいたのですが、フランスでシェフを経験するのも、キャリア的に良いことだと思ってお願いしました。当初オーナーの考えとしては、簡単なビストロをやるつもりだったらしいのですが、僕が面接のときに作った料理がビストロというよりガストロノミー寄りだったことを受けて、お店の形態を変更することになりました。僕の一存でメニューの考案から仕入れまで、すべてを任せてもらえることになって、本格的な料理を出すレストランとしてオープンしました。

せっかく日本人のシェフの店なわけですから、和の要素を取り入れたメニューにしてみようと思いましたが、上手く行きませんでした。自分のやりたい料理が先行し過ぎて、お客さんが来てくれなかったんです。例えば、抹茶を使ってみたりしたんですが「金魚のエサみたい」なんて言われたりして。自分なりにモダンなテイストにしてみたのですが、それがまったく受け入れられませんでした。

これはいけないと思って料理を見直し、クラシックで本格的な料理に変えたところ、少しずつ予約が入るようになりました。少しづつ口コミで評判が広まり、地元の雑誌でも取り上げてもらえるようになって、最後の方には海外旅行の情報サイトでもリヨン市内で2位にランクインするなど、それなりの成果を残すことができました。後2年ぐらい続けていれば、ミシュランにも掲載してもらえたかも知れませんでしたが、1年半ほどで日本に帰国することになりました。

4年以上に及んだ修業が終わるわけですが、そのタイミングで日本に帰ることを決意した理由は?

藤田氏:
フランスに来た当初は、何もかもが新鮮に目に移ったのですが、4年半もいるとその感覚もだんだん薄れていきました。昔ほど刺激を感じなくなったということですね。それ以上フランスにいる理由がなくなったとも言えますし、逆にそれ以上いるとずっとフランスにいることになるかも知れないと思いました。

でも、僕がやりたいのは日本で店をやることでした。その頃にはミシュランが日本にも進出していて、料理界に注目が集まるようになっていました。まだまだフランスほど料理人の地位が高いとは言えませんでしたが、きっとこれからフランスと同じような形で評価されるようになっていくと感じた時代です。そんなマーケットの中で、せっかく料理人としてやっていくなら、僕も星の獲得を目指してみようと思いました。

2013年に「アニエルドール」を開業してから最初の3年間は、カジュアルに料理を楽しんでいただけるビストロノミーというスタイルでやっていましたが、徐々に僕の料理が変化していきました。より素材にこだわり、サービスの質にもこだわっていくには、それまでのカジュアルなスタイルには限界がありました。お客様からも「料理はいいんだけど、雰囲気がちょっと」という声も多くなり、提供する料理だけでなく、空間やその場の空気も楽しめるようなスタイルに移行する必要性を感じていました。

そして、2017年に店舗を全面改装して、本格的な料理を提供する店へとリニューアルオープンし、現在の「アニエルドール」になったという経緯です。

agnel d'or(アニエルドール) テーブル席

◼伝統を守ることと、進化しないことは違う

料理をつくる上で大切にされていることは、どういった点でしょう。

藤田氏:
フランス料理というのは、伝統や歴史的な背景を大切にしながら、進化することが求められます。どんなにモダンな料理も、根本はクラシックなんです。モダンに見えながらも、実はそのベースには、昔から受け継がれてきた素材の組み合わせや理論があります。

個人的には、そうした背景や理由を考えながら、料理をつくりあげていくことを大切にしています。有名なシェフの手法を真似るのではなく、自分なりの理論によって構築していくのが僕のスタイルと言えるのではないでしょうか。

ビストロのように、手間をかけずカジュアルでモダンな料理をつくるには、ものすごくセンスが必要なんです。簡単につくっているようでいて、実は簡単ではありません。一方、僕がやりたいのは、1つのコースの中に流れをつくって、前後のつながりの中で起承転結が感じられるような料理です。

いわば、モノづくりと一緒だと思います。きちんと全体の設計図を用意しておいて、論理的に各パーツを当てはめていき、ディテールにもこだわり全体の完成度とクオリティを高めていくようなやり方です。すべてが計算の上に成り立っているからこそ、素材の組み合わせにも理由が必要になります。その根拠こそが、フランス料理の伝統であり歴史的な背景に他なりません。

直観的でセンスが問われる料理、そして論理的に構築していく料理。どちらが優れているんでしょうか?

藤田氏:
どちらが優れている・劣っているという問題ではなく、たまたま僕は構築系の料理人であったというだけです。だからこそ、ビストロのようなスタイルでは僕がやりたい料理を追求することができず、今のような美食を追求するガストロノミースタイルになったのだと思います。

僕たち料理人は、常に新しいモノをつくっていく立場にあります。でも、そのベースにはクラシックなフランス料理があるわけです。でも、伝統的な料理と、時代から取り残された料理とはまったく別モノです。伝統的な技術を土台としながらも、常に時代のトレンドを反映した創意工夫を加えつづけていく難しさがあります。そのためにも、常にアンテナを張って、いろんな情報を取り入れることが欠かせません。

現状に満足して、進化を求めない料理こそが「古臭い料理」です。それを感じ取れるかどうかが、料理人として成長できるかできないかの大きな差を生むと思います。

agnel d'or(アニエルドール) 藤田晃成

次の目標にされているのは、どんなことでしょう?

藤田氏:
まずは、一つ星から二つ星になることが当面の目標ですね。そのために必要な「創造性」と「完成度」を追求していきたいと思います。「創造性」というのは、僕だけのオリジナリティです。料理以外の芸術やカルチャーから刺激を受けながら、今の時代、そして次の時代が求める料理を追いつづけたいと思います。

一方の完成度に関しては、僕一人の力では高めていけません。完成度を高めていくのは、チームの力です。提供する料理にブレがないこと、温度などの管理がきちんと徹底されていることなど、チームの力で完成度を高めていくことが求められます。チーム力を高めるのも、最終的にはオーナーである僕自身の力量です。自分自身のレベルがワンランクでも高くなるよう、常に上を目指していきたいと思います。

将来的には、時代に左右されない確固たる自分のスタイルを確立したい。ロブション氏の料理は誰が見ても一目瞭然でしょう。僕らしい料理スタイルを作り上げたいですね。

プレッシャーを感じることはありませんか?

藤田氏:
もちろんありますよ。現状に満足していては、絶対に上にはいけませんから。上に行けないどころか、むしろレベルが下がっていくと思います。だからこそ、常に上を向いて頑張っていきたいですね。

二つ星、さらには三つ星になるということは、二つ星・三つ星を獲得している先輩方の店と肩を並べるということです。関西で言えば「HAJIME」さんや「La Cime」さんといったお店です。そうした有名店と対等な評価をされることそのものが、大きなプレッシャーですね。今の僕の力では、先輩たちにまだまだ敵いません。同じレベルになるのは簡単なことではありませんが、どうすれば少しでも近づけるのかを考えながらやっていきたいと思っています。

後は、僕の同年代が関東に多く、関西にはあまりいないことが気になっています。もっと同世代で関西を引っ張っていきたいですね。その下の年代の料理人とも一緒に盛り上げていきたい。でも、関西を今よりもっと元気にするには、まずは僕自身が影響力や発信力を持たないと。そのために星がほしいんです。今は、もっともっと自分の力を高めていきたいですね。

(聞き手:市原 孝志、文:上田 洋平、写真:岡 隆司)

agnel d'or(アニエルドール) 内観

agnel d'or(アニエルドール) 外観

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