進化をつづけることが、料理の未来につながっていく

agnel d'or(アニエルドール)
藤田 晃成

 

agnel d'or(アニエルドール) 藤田晃成

◼フランス料理の師匠と呼ぶ加古拓央シェフとの出会い

今度はオーストラリアですか?なかなかフランス料理にたどりつきませんね。

藤田氏:
オーストラリアはワーキングホリデーのビザが取得しやすかったんです。フランス語は全然できませんでしたが、英語圏ならまだ何とかなるかなと思いました。

シドニーに「テツヤズ」というレストランがあるのをご存知ですか?オーストラリアのグルメガイド「グッド・フード・ガイド」で、当時は3ハットを獲得していて、非常に人気があるお店です。安易にそこで働かせてもらおうと思っていたのですが、「テツヤズ」は世界中から料理修業に若者がやってくるような人気店ですから、門前払いでした。

困ったな、と思っていたところ、現地で知り合った人を通じて、レストランだけど和のテイストを取り入れた料理を出している店を紹介してもらえることになったんです。40席ぐらいの店に行くと「料理はできるか?」と質問されたので、とっさに「もちろん、できる」と答えてしまいました。本当はできるかどうかなんて分からないのですが、勢いでそう答えましたね(笑)。

で、実際にキッチンに入ってやってみると、自分でも意外なことに、結構できてしまったんですよ。でも、今から思えばクオリティも何もなくて、とりあえず「作る」というレベルでしたが。寿司屋での経験もあって、包丁技術だけはありましたから、何とかなったんです。焼いたり煮たりするのは、見よう見まねでできますから。

やっているうちに感覚もつかめてきて、独学ながら最後の方にはメニュー考案まで任されていました。店からは、もっと長くつづけて欲しいと言われたのですが、僕が本当にやりたいのは本格的なフランス料理でしたから、1年ほど働いてビザが切れるタイミングで一旦、日本に戻りました。

またすぐに海外に行かれたのでしょうか?

藤田氏:
いえ、日本では神戸にある「アノニム」でお世話になりました。そこにいらっしゃったのが、僕の師匠である加古拓央シェフです。そこでようやく、ちゃんとしたフランス料理を教えていただけることになりました。クラシックなソースで、地方料理も扱えば、パテやテリーヌも、ジビエ料理もあるレストランです。珍しい食材も扱う技術がきちんとあって、そこでは厳しく指導していただきました。オーストラリアで自信をつけて天狗になっていましたが、しょせんは独学の料理です。自分が全然できないことを痛感しました。

加古シェフと2人の先輩は、とても面倒見のいい方々で、今でも恩師だと思っています。厳しく鍛えられましたが、加古シェフがお父さんで、先輩たちがお兄ちゃんのように感じられ、家族的な雰囲気の中で勉強させていただきました。その頃には、フランス料理で一人前を目指す覚悟ができていたと思います。

「アノニム」には、どのくらいいらっしゃったんですか?

藤田氏:
2年半ほどお世話になりました。先輩の1人がフランスへ修業に行くということで、僕もそれにつづいてフランス行きを決心しました。「アノニム」を辞めさせてもらって、1年ほど他の仕事をして資金をため、フランスに行きました。

海外への研修を斡旋してくれるところを先輩から紹介してもらって、いくつかピックアップされた研修先のレストランの中から選んだのが、ノルマンディーの店でした。できるだけ日本人がいないような場所がいいと思ってノルマンディーにしたのですが、その選択が本当に大変な経験へとつながっていきます。

agnel d'or(アニエルドール) 藤田晃成

◼慣れない土地、話せない言葉、1人の時間が怖かった

料理修業の場としては、あまり聞かない土地ですね。

藤田氏:
最初に働いた店は、ドーバー海峡に近い海の街・ディエップからさらに車で1時間ほど離れた人口700人ほどの村にありました。ミシュラン一つ星のオーベルジュです。日本人がいない場所がいいと思って選んだのですが、とにかく田舎で周りには何もありません。そのせいで、生活面で非常に苦労しました。

ディエップへ行くにはバスしかありませんが、僕はフランス語もろくに話せませんでしたから、休みの日はずっと寮に引きこもっていました。仕事中は忙しくしているのでいいのですが、休みになると本当にやることがないし、話をする人もいないし、どんどん気がめいっていってしまって、何もやる気が起こりませんでした。1人の時間が怖くて、何のためにこんなところに来てしまったんだろうか、と相当滅入りました。

ずっとそんな状態がつづいたのですが、ある時シェフが自転車を貸してくれたんです。「よし、これで街まで行ってみよう」と思い立ったのですが、とにかく遠いんです。最初の日は、3時間ほどかけて半分ぐらい行ったところで諦めました。次の休みの日にもう一度チャレンジしてみて、ダメで。また次もダメで。そうこうしていると、「街に行って何かをしたい」というよりも、もはや「街まで自転車で行く」ことが目的になってきました。ようやく5時間かけて街にたどり着いたのですが、街に10分ほどいるだけで帰ってきたんです。

何だかよく分からないのですが、何か1つのことを決めて夢中になっているうちに、仕事に対するモチベーションのようなものも出てきて、活力が湧いてきました。

それまでは職場でも簡単な英語を使っていましたが、英語は一切使わないようにしました。バスに乗って街に行けるようになりたいと、ようやく本格的にフランス語も勉強するぞという気持ちになりました。

その時に、悩んでいた状態から吹っ切れることができたんですね。慣れない生活環境と言葉にまいっていましたが、仕事もおもしろくなり、日本では経験できないことが楽しく感じるようになっていきました。

店では、どんな料理をつくっていたのでしょうか?

藤田氏:
海が近いので魚料理が多かったです。非常にクラシックで本格的な料理を出す店で、日本では出会えないような料理ばかりです。地元の郷土料理を中心に学ぶことができました。

1年ほど経って帰るタイミングになったときは、軌道に乗るか乗らないかぐらいのタイミングでした。修業先は本当に田舎ですから、日本人どころかアジア人も全くいない土地柄が左右して、少し閉鎖的な考えの方もいらっしゃった。その時、このまま日本に帰ったらフランスのことが嫌いになってしまうのではないか、と不安になりました。もう1件違う店で修業をしてみたいと思い、ゴーミヨ(フランスで著名なレストランガイド)の15点以上、つまりミシュランで一つ星に相当する有名店に向けて、フランス語で200通ほど手紙を書きました。自分は日本人で、今はこんな仕事をしている。できれば、そちらの店で働きたい、といった内容です。

そのうち30通ほど返信があったのですが、ほとんどが断りの連絡でした。「せっかく手紙をもらってうれしいが、今は雇えない」というものです。それでも、律義に返事をくれたのはうれしかったですね。

幸いなことに、2つの店から働いてもいいという手紙が届きました。1つがブルゴーニュの店。もう1つがバスクにある店です。僕の本命はブルゴーニュだったのですが、電話でしか連絡が取れず、電話でのフランス語は聞き取りも話すのも難しくて、電話は切れてしまいました。もっとフランス語を勉強しておけばよかったと後悔したのですが、後の祭りです。

そうしていると、驚いたことにもう1つのバスクの店の方から、わざわざお店に電話をしてきてくれたんです。そちらの店に日本人がいると聞いているが繋いでくれ、と。電話越しに話をしたのですが、やはり相手の言っていることがよく分かりません。対面であれば、ジェスチャーも交えながらどうにか意思疎通できるのですが、電話だけではうまく聞き取れませんでした。

するとシェフがふとやってきて、電話越しに相手と交渉をしてくれたんです。ゆっくりと僕にも分かるように話を要約して伝えてくれて、いつまでに、この場所にいけば、君も働けるよ、と話をまとめてくれました。おかげで次の働き口が見つかりました。

新天地であるバスクでの生活はどんなものでしたか?

藤田氏:
バスクもノルマンディーに劣らないほどの田舎町です。車よりも牛の方が多いような典型的な田舎です。でも、ノルマンディーと違ったのは、地元の人がみんな陽気で、外国人にもとてもフレンドリーだった点です。スペインの国境に近い街で、観光客も多い土地柄だったため、他の土地や国から来た人に対する抵抗感もなく、とてもオープンに接してくれました。

ちょうど夏のバカンスのシーズンスタッフとして採用されたので、気候もよく、休憩時間にはスタッフでプールに行ったり、休日はスペインまで国境を越えて遊びにいったり、仕事だけでなくプライベートでも仲の良い仲間ができました。今でも当時を思い出すと本当に楽しい時間を過ごせたと思います。僕にとってはいい思い出が多い土地です。

働いたのは星付きではありませんでしたがホテルレストランで、本格的なフランス料理を提供している店でした。僕もホテルの一室に住まわせてもらい、休日には厨房も食材も自由に使う許可までいただいて、かなり学ぶことが多い職場でした。

鴨や唐辛子を使った料理やしっかりとした郷土料理を扱う店で、シェフやスタッフも日本人の僕を受け入れてくれ、いろんな役割を任せてもらいました。最終的には、ス―シェフのような立場で経験を積ませてもらいました。

ビザの関係で1年ほどの期間しかいることができなかったのですが、みんなとの別れ際には思わず泣いてしまいましたね。一旦、日本に戻ってビザを申請して、次は語学留学という形でリヨンに行きました。

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