2019.12.19

和歌山産アワビのパイ包み|オテル・ド・ヨシノ 手島純也|受け継ぎたい一品

26歳で渡仏し「ステラマリス」にて吉野健シェフに師事。5年の修業を経て2007年2月帰国時に芝パークホテル「タテルヨシノ」料理長、同年9月より「hotel de yoshino(オテル・ド・ヨシノ)」料理長として活躍中のシェフ手島純也氏。同店では和歌山の幸を活かした軽やかなクラシックフレンチを提供し、わざわざ食事のために遠方から訪れるフーディたちをも虜にしてきました。

その氏から受け継ぎたい一品を紹介していただきます。

料理ポイント1:時間と手間を惜しまず、一つ一つの工程を丁寧に準備

料理ポイント2:何回も作る。最後は気温・湿度とお客様の様子で料理をチューニング、うまい!を仕上げる


目次

1.受け継ぎたい一品とのエピソード
2.アプローチポイント
3.作り方
4.店のこだわり
5.店舗情報

オテル・ド・ヨシノ 手島純也

受け継ぎたい一品とのエピソード

—今日の一品とのエピソードをお聞かせください。

フランスで食べ歩いた時、パリ「ステラマリス」で食べた「ジビエのパイ包み」の美味しさに衝撃を受け、これが吉野シェフに師事するきっかけとなりました。

師匠である吉野建シェフから受け継いだパイ包みは、今では僕の看板料理です。

お客様からも一番リクエストが多い一品となります。
パイ包みを出す店は今はそう多くないですが、遠方からのお客様も「パイ包みが食べたい」と当店にご来店頂きます。
ただパイ包みは準備に時間がかかるため、予約のお電話にてお召し上がりになるかをお伺いします。

今回は和歌山で取れたアワビを中に入れました。
パイ包みは秋冬はジビエを入れたり、鳩を入れたり様々なバリエーションでお楽しみいただきます。

アプローチポイント

■もともと出来る人はいない。技術体得のために、何万回何千回も繰り返し作る。

—パイ包みを作る作業が素早く、しかも一つひとつの仕事がとてもきれいですね。

とても厳しい師匠のもとで修行しましたので、そのおかげだと思います。
「一つひとつの作業が終わったら、綺麗に片付けてから次の作業する」これは若い頃に身につけた習慣です。

もともと不器用で、小学中学の図工・技術の点数は「2」。

初めて勤めた山梨の店舗では、同期入社の同僚に比べて、僕は圧倒的に作業ができなかった。レストラン勤務し始めから叱咤されるの毎日でした。

その時に、僕が考えに考え抜いて思ったのは「最初はできなくても、結果できるようになればいい」ということ。周りが数回でできようが関係ない。僕が結果にできるようになるために、100回でも1000回でも練習すればいいんです。

—このパイ包みも何百回も作って今の看板料理となり得たわけですね。

そうとも言えます。修業初期に仕事への心構えが決まったことで、どんな厳しい環境にも耐えられるマインドができましたね。

作り方

1.アワビは殻付きのものを仕入れ、下準備しておきます。

この料理に使うアワビは大きめのものを使います。火を入れる前は身だけで250〜300gあります。それをブイヨン、白ワイン、にんにく、スパイスで圧力鍋で煮込んだものです。
アワビの周辺部位をハサミで切ります。周辺部位は細かく刻みます。

2.フォワグラをカットし、塩コショウで下味をつけ、冷蔵庫で休ませます。休ませたのち、両面を焼きます。

フォアグラの余計な油はペーパーで吸い取ります。

焼いたフォアグラは、冷凍庫で冷却します。

3.ファルス(詰める餡、フィリング)ですが、鶏肉、豚肉、鳩肉、タイム、ローリエ、パセリに塩コショウをしてマリネします。これを1晩寝かせた後にひき肉にします。少量で作ることができないため、一度に大量にまとめて仕込みし、パイ包み1つに使う分量に分けて保存します。

ファルスに1のアワビの周辺部位を細かく刻んだものを入れます。

冷凍すると香りが落ちるので、にんにくを包丁でたたきみじん切りにしたものを入れ、イタリアンパセリをみじん切りにしたものも混ぜます。

次にキャトルエピスを入れます。メーカーによって配合が代わりますが、僕が使っているものにはクローブ、ナツメグ、生姜、胡椒の4つのスパイスが入っています。

最後にコニャックとほんの少量の塩を入れます。これをよく混ぜて、ファルスが完成です。

4.アワビ・フォアグラ・アワビの順番になるように乗せ、周囲をファルスで囲みます。

上にもファルスをのせアワビ・フォアグラをすっぽり隠します。

これを冷凍庫にいれ、締めます。
締めたら、フィユタージュという折りパイ生地を用意し乗せます。

5.冷凍庫からパイを取り出し、折りたたむように上部分もパイで包みます。

今日のパイの形はショーソン(chausson)です。フランスのスリッパ型の靴を模した形です。

刷毛で卵黄を溶いたものを薄く塗ります。また冷凍庫で休ませしばらく経ったら、乾いた卵の上にもう一度薄く卵を塗ります。こうすることで卵の層が2層になり、きれいな焼色を生み出すことができます。

最後にパイに切り込みを入れ、模様を作ります。

6.ソースを作ります。赤ワインにポルト酒・コニャック、フォンドボー、先程整形時に切り落としたフォアグラ、鶏のブイヨンを入れ煮詰めます。
煮詰めた後、フォアグラのテリーヌを足し味の骨格をはっきりさせます。鮑の肝とバターを入れ更に煮詰め、仕上げに赤ワインビネガーを加えます。

7.パイ包みを焼きます。焼き加減はその日の気温湿度、オーブンの状態など感覚や経験値など体感にこだわります。
参考までに今日のオテル・ド・ヨシノの厨房の場合は、コンベクションオーブン210度で14分、台下オーブンで250度で4〜5分焼成します。

オーブンから出したパイはしっかり休ませ、最後はパイをパリッとさせるためにコンベクションオーブン280度に1分入れます。

8.パイを切り盛り付けます。

つけ合わせにオリーブオイルで伸ばしたじゃがいものピュレにセップ茸とジロール茸のソテーを添え、パイに7のソースをかけ、仕上げにゲランドの塩をかけて完成です。

店のこだわり

■高品質の食材が揃う和歌山とフランス食材の融合

—和歌山は山も海もあり、食材が豊かですね。

東京は全国からあらゆるトップクラスの食材が集まりますが、和歌山はそれにも負けじ劣らずな高品質の食材を地元で消費しています。
そんな高品質の食材を仕入れられるのが、この土地の魅力です。
生産者との距離も近いことも強みですね。

港もいくつかあり、様々な魚が取れます。港ごとはそれぞれ漁獲に個性がありながら、切磋琢磨に競争してお互いを高めあっているんです。

オテル・ド・ヨシノ 手島純也

—それはいい魚が手に入りそうです。

オテル・ド・ヨシノでは、夏は和歌山で取れる魚介を中心としたメニュー、秋冬はジビエと和歌山産の食材をお楽しみいただきます。
オテル・ド・ヨシノの僕の料理スタイルは、和歌山の新鮮な食材とフランス産の食材を組み合わせたクラシックなスタイルのフランス料理。伝統的な手法を大切にしています。

■「うまい」料理を作り続けることを最優先に考える

—オテル・ド・ヨシノさんは正統派クラシックフレンチにこだわる貴重なお店ですね。

料理業界ではクラシックな料理を作っている方は大先輩ばかりで、クラシックな料理をする若手料理人がめっきり減っています。

僕は31歳で店を任され、当時は同じ方向性を目指すライバルが少ないことをチャンスと思っていましたが、今は心配が圧倒的に勝っています。

かつてはクラシックなものを勉強された後に個人のアイデンティティを生かした料理に移行される方も多くいましたが、今の若い方は修業先でクラシックな技法を触れる機会が少なくなっています。
僕の意見としては、将来個人のアイデンティティを生かした料理をされる場合でも、若い時にはもっとフランス料理の基礎をしっかりと学んでほしいと思います。
今はいいかも知れないですが、これから先10年後、20年後のことを考えて技術を習得してほしいんですね。シェフになってからの人生こそが長いのです。

オテル・ド・ヨシノ 手島純也

—なぜクラシックの担い手離れが起きているのだと思いますか?

クラシックなフランス料理を提供する店がなぜいま少なくなってきているか。
その理由は3つ。1つは手間、もう1つは費用、最後はお客様の支持が離れたからです。

昔はなかったWorld’s the best 50やミシュランなど多様な料理ジャンルを評価する場ができ、個人の力で世界に挑戦できるようになりました。これも理由の1つかもしれません。

先程述べた業界の課題はありますが、僕がいつも目指しているのは「うまいを作り続ける料理人」であり続けること。

日本でトップシェフたちの料理は、様々なスタイルがありますが、一律して料理が「うまい」のです。
すごいシェフがすごいのは、料理がうまいから。
それは時代が変わっても変わらないことだと思います。

■レストランはジャズとクラシック

—厨房は随分広いですね。

はい、ちょっとしたホテルの厨房並みの大きさで贅沢に使わせてもらっています。

厨房では、パティシエ2人を含む7人が勤務します。
うちは和歌山の店なのに、今は和歌山出身者0人。みんな地方からうちの厨房で働きたいと志願してきます。
この人不足の時代に、連日志願者から問い合わせがあるんです。

オテル・ド・ヨシノ 手島純也

—めちゃめちゃ人気ですね。

ただ、新卒で入った場合、最初は雑用の仕事から始めてもらいます。
若い方が「雑用の時間がもったいない、早く技術を習得したい」と思うのはわかっていますが、でもこの雑用、絶対に必要なんです。
チームの中で誰かがやらなきゃいけないことですし、自分で店をやるときには必ず生きてきます。
細々したことをすっぽかして大きいことは成し得ない。
一つひとつをきちんとこなす積み重ねが必要だと思っています。

うまいものを作るには、どうやったって一定期間の修業時間が必要です。
最近はスマートフォンであらゆる情報が得られますが、知ると出来るは別です。フレンチの場合は、基礎・応用含め10年単位で修業が必要になると思います。

理念を理解できても体で体現するまでにどうしても時間がかかります。

ただ僕の店は3〜4年で卒業してもらっています。東京もおすすめですが、フランス行きも進めています。文化や歴史を理解することもできますし、何より人間として強くなりますので。

—サービスの方も非常にテキパキ準備されていますね。

サービスは5人います。30席ありますので店内が広く、最低この人数がいないと目が行き届かない。

サービスは、お客様と接する第一線としてその様子をしっかり厨房に伝える役割があります。
たとえば、予約電話の段階でどんなお客様なのかを把握することで来店準備は始まりますよね。
初めてフレンチにくるカップルなのか、食べ歩きを趣味とするような方でフレンチの味を食べ親しんでいるのか、そんな事によっても出すメニューは変わります。

お客様の反応を見て、食事のソースを変更することもあります。

—土壇場で変更するのですか?すごい臨機応変さです。

そんなふうにレストランは、厨房とサービスのオーケストラメンバーが準備を経て、全員で音を奏でるクラシックの要素と時々の状況変化に対応し、即興で対応するジャズの要素が必要なのです。

オテル・ド・ヨシノ 手島純也

オテル・ド・ヨシノ ソースパン

 


店舗情報

hotel de yoshino(オテル・ド・ヨシノ)

■お問い合わせ
073-422-0001
■アクセス
和歌山県和歌山市手平2-1-2 和歌山ビッグ愛12F
JR・和歌山駅より車で10分。南海・和歌山市駅より車で15分。
■営業時間
【水~日・祝・祝前】
ランチ /11:30~ (L.O.14:00)
【水~日・祝・祝前】
ディナー /17:30~ (L.O.21:00)
■定休日
月・火曜日
祝日の場合は営業

オテル・ド・ヨシノ内観

文:菊地由華、写真:松井 泰憲